2017年10月4日
――まず初めに、自社の紹介をお願いします
ジョジョ・マロロス(以下、ジョジョ) 私の名前はジョジョ・マロロス、国籍はフィリピンです。ウィング・カンボジア専門銀行のCEOで、カンボジアにおいてウィングは、モバイル金融サービスを提供しているリーディング・カンパニーです。
我々のお客様はアンバンクドと呼ばれる、「金融サービスに正式なアクセスができない人々」です。彼らは銀行口座を持たないため、現金払いで給料を受け取り、そもそも仕事をしていない方、自分自身でスモール・ビジネスをしている方もいます。そんな方々が、カンボジアの人口の約80%を占めているんですよ。彼らが銀行口座を開かないのは、銀行に預けたり、口座を維持するための十分なお金がないためです。
しかし我々のウィングサービスを使うと各種金融取引が可能になります。電気代、水道代、その他公共料金の支払い、親戚への送金。また、納税や政府機関への支払いなど...全ての金融取引をウィング上で行うことができるんです。
我々は、これらのサービスのリーディング・プロバイダーであり、約5,000の代理店や商店にサポートされています。 また、金融技術ソリューションウィングテック・ソリューションズというアプリも立ち上げました。もちろんスマートフォンにも対応しています。それはお客様にとって特に人気ですね。そのため、我々はマーケットの大部分を掴んでおり、お客様の80%が、銀行口座を持たない方々です。彼らは若者だったり、マイクロ起業家だったり。だからこそ、弊社は新製品の導入に成功しています。引き続き、サービス拡大に積極的に取り組んでいきますよ。
――あなたの役割を教えて下さい
ジョジョ フィリピンでMBAを取得し、直近ではフィリピンのモバイル金融サービス会社のCEOをしていました。
それ以前は、ボストンのデータ分析会社のマネージングディレクターや、ラテンアメリカの大手電気通信会社など、アメリカを始めいくつかのスタートアップ企業にも関わったこともあります。大手決済会社との合弁会社もありましたね。 アメリカで働いたのは、トータルで4年半です。
そして昨年、ウィングがCEOを探していたので、カンボジアに来ました。2016年2月8日からカンボジアに来て1年ですね。これまで、非常に良い経験をしてきたと思います。
私の専門はモバイル金融サービス、特に貧困層に対してのファイナンス・インクルージョン(正規の金融取引ができる解決策の提供)です。 社としても、ファイナンシャル・インクルージョンに取り組んでいます。集金に関していうと、国内のほとんどのマイクロファイナンス機関は、 ウィングのパートナーで、約200社がウィングを使いたいというパートナーなんです。だからこそ、我々にはカンボジア最大の実績があります。
そして、ウィングはロイヤルグループの一員です。ロイヤルグループは、カンボジア最大のコングロマリットのうちの一つで、銀行、通信、電気、水力発電、ネット、テレビ... あらゆる領域に携わり、世界の金融機関とのパートナーシップも組んでいます。かなり多様性に富んだグループであると言えるでしょう。たくさんの投資家がロイヤルグループを通じカンボジアを訪れ、我々のサービスを紹介する機会も多いです。その一員であることを誇りに思っていますね。
――他の金融会社と比較し、強みを教えて頂けますか
ジョジョ 最大の特徴は、先ほどお話した通り、銀行口座を持たない方々をターゲットにしていること、低所得層にリーチできる、これこそが弊社の最大の強みです。 カンボジア全土、25州のすべてにWingの代理店があります。大きなアドバンテージですよね。
また、もう一つの利点は、Wingブランドに対する信頼度がかなり高いことです。Wingは長い間、カンボジアで事業を続けていますから。今のところ、弊社はこの分野において、唯一の地元企業です。 競合他社は、通常、アジア、ベトナム、タイの他の国から来ています。我々はカンボジアという国そのものをケアしており、弊社のパートナーは、顧客である全てのカンボジア人の生活改善を目的としています。
また、技術面も勝っていますね。 競合他社とは違って、我々は独自のシステムを持っており、サポートしています。 親会社が提供するシステムの一部ではないので、独自に新製品やサービスを思いつくことが可能。つまり、思いついたアイデアをすぐにローンチさせることも出来るのです。
また、最大の強みは、ロイヤルグループの一員であり、グループ会社の強みを活かせることです。 さらに、顧客が特定の層に依存しないため、誰もが我々の顧客になりえます。 一部の通信会社や銀行だけが顧客ではありません。そのため現在、我々は最大の顧客基盤を誇っています。
――ウィングの認知度は非常に高いと思います。どのようなプロモーションを行われたのでしょうか
ジョジョ まず一つ目ですが、ウィングのサービス自体が既に普及していました。すでに5,000ほどの代理店がカンボジア全土にあったので、最も知名度のある存在でした。また代理店の元に行くと、実際に送金サービスを体験できること。それも一つです。
二つ目ですが、ソーシャルメディアの利用です。カンボジアでは、ソーシャルメディアの影響が大きく、大規模なインフラとなっています。昨年、ウィングのファンページを開始したところ、ファンは約3万人。今では50万人近くのファンを抱えています。シェアの動向や利用方法を調査することは、とても興味深いです。
また、我々は代理店のために素晴らしいプログラムを作り続けています。代理店はウィングのブランド大使でもあります。そのため、弊社は代理店が行うサービスのレベルを管理しています。顧客が支払いや送金をする際、代理店に断られるようなケースは最小限に抑えられるように努めています。それが我々の仕事ですから。
――次は技術的な質問ですが、 月額料金を固定でWing口座から自動引き落としすることは可能でしょうか
ジョジョ カンボジア国立銀行やカンボジア中央銀行によって管理されており、送金額に関しては、基準または規制があります。 一定額までの送金なら可能で、一人につき1日2,000ドルしか送れません。
また、アプリや電話送金では、1日に数回の取引しかできません。弊社は決済サービスを提供している会社です。つまり、ウィングは送金や支払いのための口座、商取引のためのサービスなのです。単に貯金をしたり、利子を得る目的で、使用しないようにしてください。これらすべてが、カンボジア国立銀行によって規制されています。
また、我々の代理店では、一定額まで引き出せ、仮に4,000ドルの場合、送金上限が2,000ドルなので、おそらく2回の送金になるでしょう。仕様に変更があったので、確かではありませんが、取引数に応じて、2,000ドルまたは1,000ドルで制限されています。しかし、クライアントのほとんどは、そんな大きな額の取引をするお金を持っていません。
一方で、銀行口座を持っており、給料を口座に預けている人は一定額の送金が可能です。しかし、これらもまた、すべてカンボジアの中央銀行によって規制されています。
――次も技術的な質問です。このAPIは公開されているのでしょうか
ジョジョ はい、弊社には技術がありますから。既存のテクノロジーと連携させる場合、APIを利用できます。 いくつかのパートナーと共にAPIを公開しており、オープンシステムのインフラ整備に取り組んでいるところです。
我々には既に独自のAPIを持っているパートナーがいて、設定すればすぐに弊社と繋ぐことができます。しかし我々は、皆さんに自社システムを使って欲しい。そのため、必要な開発量を減らすため、彼らのAPIを使い始めています。また、ビザやマスターカードなどのグローバル企業とのパートナーシップも開始しており、加えて、APIの開発を必要とする新技術も導入しています。
――パートナーになるにはどうすれば良いでしょうか
ジョジョ 我々は、先ほど述べたように約200社と提携しており、様々のパートナーシップのやり方があります。彼らの製品を自社システムに組み込むだけでなく、すべての支払いをウィングで済ませたい小売店などですね。
決済手段として代引きを採用していたFMCG(消費財製造)会社についても、弊社のサービスでキャッシュレスに移行させました。支払いはアプリのウォレットを使用します。
また、Wing口座からの支払いを奨励している政府機関もあります。公共事業・運輸省と提携しており、何らかのライセンスを取得するたびに支払いが行われるので、既にウィングとつながっていると言えますね。我々はパートナーシップを確立し、各社における最良の方法を理解する必要があります。またほとんどのパートナー企業は、独自の開発者を抱えているため、APIに関するディスカッションにも参加しています。
――金融業界の問題点があれば教えて下さい
ジョジョ 問題があるとは思っていませんね。カンボジア国立銀行は優れた仕事をしており、システム上の財政の完全性は確保されていますから。カンボジア中央銀行からは銀行監督総局の年次報告書があり、彼らは金融システムを分類しています。商業銀行、マイクロファイナンス機関、専門銀行、我々は専門銀行です。
大事なことは、この金融システムに対して、カンボジアの誰もが、どのように簡単に使用し、より安心感を抱いてもらえるかではないでしょうか。お伝えしている通り、人口の80%は、基本的には銀行口座を持っていません。現在、カンボジア国立銀行と政府機関は、マイクロ起業家に貸付を行う多くの無担保マイクロファイナンス機関を管理しようとしています。小規模の預金に関しては管理の対象外でしょう。
ウィングは、預金はなく支払会社ですが、可能な限り多くのことに取り組んでいます。将来的な目標は、全金融機関が経済成長に貢献することですね。大企業に雇用を提供したり、新しいビジネスモデルを作るために融資する銀行も増えるでしょう。弊社も、貧困層が自らの事業を立ち上げたり、ある程度の資金を借り入れする機会を創出できるかもしれません。
もしWing口座を持っていれば、より簡単に支払いができるでしょう。50セント、1000リエル(25セント相当)や2000リエルの電気代を支払うために何十枚ものリエル札を用意する必要は無いですし、トゥクトゥク代を使う必要もありません。我々はそういった支払いを簡単にすることを目的としており、でなければ、回収は現金で行うことになり、非常に高コストでしょう。
弊社は、自動化や技術を通じて、マニュアルからオートマへと移行しています。 カンボジア国立銀行のリーダーシップを通じて、我々はより多くの市場に浸透し、経済改善のための効率的なサービスを提供しています。政府と民間企業の協力関係が非常に重要だと思います。
――アジア開発銀行の報告書によると、フィンテックはカンボジアのGDPを6%引き上げるとのことです。本当だと思いますか
ジョジョ 本当かもしれませんね。フィンテックの定義は多岐に渡り、おそらく我々は6%のうちの一部でしょう。
弊社は多くの事業者と、オンラインとオフラインで提携しています。ポイントは、5,000の代理店のすべてがPOSを持っており、POS端末を通じて、現金を電子マネーに変換します。これがフィンテックとみなされるかどうかはともかく、弊社はそういうことを行っています。
確証はありませんが、今後は成長するでしょう。例えば、農家や漁師、商人にテクノロジーを渡せば、それが経済に大きく貢献すると思います。
現金はコストが高いです。例えば、ATMでの引き出し手数料や、家族への送金手数料。買い物に行く際のトゥクトゥク代など、全てにおいて料金がかかりますから。しかし、それを電子マネーに変換すれば、現金決済によるコスト節約はGDPに非常に大きな影響を与えるでしょう。
私がすべての取引を変えられるのならば、現金を全て電子マネーに変換して他の人に送ります。そして、電子マネーを受け取った企業が、それを現金に変換する。つまり、オンラインで決済を行い、現金化のプロセスを取り除くことができれば、余分なコストを節約できる。これこそ、フィンテックが為すべき本質ではないでしょうか。現在は、ロイヤルグループと一緒に、すべての人が電子マネーを利用できるよう計画しています。(取材日:2017年2月)
(次回へ続く)