カンボジアに進出する日系企業のための
B2Bガイドブック WEB版

ING Kantha Phaviカンボジア女性相 インタビュー
(WEB先行記事)

ウン・コンターパヴィー女性大臣写真

ウン・コンターパヴィー女性大臣が語る

女性の社会経済的エンパワーメント

女性は国家の社会と経済において極めて重要な役割を果たしている

―――カンボジアの経済成長における女性の貢献について、どのようにお考えでしょうか?

 まずは、カンボジアビジネスパートナーズの雑誌に取り上げて頂き、ありがとうございます。

 カンボジア政府は、女性がカンボジアにおける経済と社会のバックボーンであるとの認識から、女性の社会経済的エンパワーメントに非常に力を入れています。SDGs等の国際的な指針に沿った形で、セクター別の戦略計画にジェンダー政策を組み込み、包括的なアプローチとワークライフバランスの促進を通じて、誰一人取り残さない社会を保証していきたいと思っています。

 我々はカンボジアだけでなく、世界中の国々においても男女共同参画型の社会が必要であることを認識しなければなりませんし、男性も女性も平等に参加し、平等に利益を得られるような社会を保証する必要があります。

 総人口の52%を占めるカンボジア人女性は、最も高い労働力を誇り、国家の社会と経済において極めて重要な役割を果たしています。この10年間の力強い経済成長に貢献してきた女性の力は、2030年までに中所得上位国、2050年までに高所得国へとこの国を変貌させていくでしょう。

 2020年の世界経済フォーラムの報告書では、男女平等ランキングで2016年の153か国中112位から89位へと改善されており、このことからもジェンダーギャップの改善が示されています。これは「ジェンダー間の経済的参加度および機会」の項目において2016年の77位から25位へと改善されたことなどが大きな要因です。

 我が国の四辺形戦略(RGC)(注1)では、雇用の創出と労働条件の改善に重点が置かれていますが、賃金労働者における女性の割合は2014年の39.3%から2017年には45.4%に増加しています。縫製業は60万人以上の雇用がありますが、そのうち90%が女性です。また縫製業・製靴業で働く労働者の法定最低賃金は2014年の100ドルから2020年には190ドルへ増加しており、年々上昇しています。政府は、女性の経済的な社会進出を進めるには、中小零細企業(MSME)の政策や戦略を強化し、発展させることが重要だと認識しています。

 カンボジア国内の全企業のうち99.8%が中小零細企業で、そのうち65.1%は女性が経営・所有しています。また、中小零細企業の労働者は、労働者全体の70%(100万人)を占めており、さらにその61.2%が女性です。また、中小零細企業の大部分は零細企業ですが、零細企業の3分の2(64.7%)は女性が経営・所有しています。そして中小零細企業のGDPへの貢献は942憶7742万5470ドルと推定されています。

私たちはジェンダー意識を高め続ける

―――ジェンダーの差が大きいセクターと小さいセクターを教えてください

 衣料品・履物部門では女性労働者が大半を占めています。インフォーマル(法人格のない企業)で活躍する女性は多くいますが、建設業やIT産業ではまだごく一部の女性しか雇用されていません。18歳以上の賃金労働者については、農業分野に従事する女性の割合が2014年の45.2%から2017年の40.1%に減少しているのに対し、サービス分野では2014年の34.7%から2017年には35.4%に増加していることがわかります。

 産業分野では、女性のシェアは2014年の46.1%から2017年には24.4%へと減少しています。サービス業における女性のシェアは、2014年においてプノンペンで38.2%、都市部で39%、農村部で31.6%でしたが、2017年にはそれぞれ70%、66%、24.9%と主に都市部で増加しています。現在、宿泊施設や娯楽サービスを含む観光業における労働力の6割を女性が占めています。

―――女性の役割を理解せず、軽視する男性は減っているのでしょうか?

 カンボジアの社会は、家族やコミュニティにおける女性と男性の役割の変化を受け入れるようになりました。家庭内で女性は重要な役割を果たしてきましたが、公共の場での女性の潜在的な可能性や、コミュニティ、社会、国民経済に対して女性の積極的な参加を認めるような、新しい捉え方も見えてきました。進展はまだ遅いですが、私たちは一晩でジェンダーへの否定的な規範や固定概念を変えることはできません。依然として女性や女児に対して不平等で不利な、低いステータスを与える傾向はあります。

 私たちには、まだまだやるべきことが多くあります。私たちはジェンダー意識を高め、社会の考え方や行動を変えるためのキャンペーンを展開し続けています。また、女性と女児の権利と利益を守るための政策、法律、プログラムを可能にする、ジェンダー問題に対応した国の枠組みがあることを周知しています。

女性のほうが几帳面で忍耐強く仕事に取り組む

―――日本の投資家は、カンボジアで女性の採用が多い理由を、女性の方が男性よりも真面目に働くからだと考えていますが、実際はいかがでしょうか?

 確かに女性のほうが几帳面で忍耐強く仕事に取り組んでいるのは事実です。おそらくこのようなイメージは、全ての雇用者の頭の中にあるのではないでしょうか。日本の投資家の方々の考え方が正しいかどうかはわかりませんが、女性に付加価値のある仕事を提供する機会が増えることについては、私は大歓迎です。女性は専門的な資格を取得するための知識や技能訓練を受ける機会が、まだ男性と対等ではありません。

 政府は今後もジェンダー平等と女性の社会進出を優先し、女性に焦点を当てたプログラムや施策を実施していきます。我々は女性の社会進出のための法的・政策的枠組みを改善し、高い賃金を得ている部門や仕事に従事する女性の数を増やすことを目標としています。

ジェンダーギャップは著しく減少している

―――ジェンダーギャップを埋めるには、どのような努力をしてきましたか?

 この数十年の間に、カンボジアのジェンダーギャップは著しく減少していることがわかります。2020年の世界経済フォーラム報告書によると、カンボジアの男女平等ランキングにおいて、「カンボジア女性の経済分野への大規模な参入」と「女性と女児の健康改善」という2つの項目の改善により、2016年の112位から2020年には世界153か国中89位にまで上昇しています。

 カンボジア王室政府は、カンボジアの社会経済発展における変化の立役者として、女性と女児の社会進出を通じたジェンダー平等に対して強いコミットメントを置いています。成長、雇用、公平性、効率性のための四辺形戦略フェーズ3(2014年~2018年)およびフェーズ4(2019年~2023年)において、ジェンダー平等、女性の役割、貧困削減、社会経済発展の間にある相互関係を認識し、「カンボジア社会と経済のバックボーンにある女性の地位を、さらに向上させる」ことを目標としています。包括的かつ持続可能な開発の一環としてのジェンダー平等に向けた進展を加速させるために、持続可能な開発目標(SDG5)等の国際的なガイドラインに沿った長期的な政策枠組みを実施してきましたが、今その最終段階に入っています。

 カンボジアは高いコミットメント、省庁間の協力、開発パートナーや市民社会とのパートナーシップが政府全体のジェンダー平等構想を強めており、国家的な開発アジェンダを前進させるための良い範例となるでしょう。国の女性機関であるカンボジア女性評議会(CNCW)と女性省は、ジェンダー平等と女性の社会進出を促進するために邁進してきました。さらにジェンダー主流化プロジェクト(GMAGs)が全省庁に設置され、ジェンダー政策の実施と監視を行い、異なる分野における利害関係者とも調和できる仕組みを提供しています。小規模なレベルでは社会進出に向けたシステムと女性を守るため、女性と子供委員会(WCC)を地方議会に配置しています。

女性の社会経済的エンパワーメントにおける課題を官民連携で

―――カンボジアに進出する日本人投資家に向けて、メッセージをお願いします。

 投資分析によると、海外直接投資は過去10年間で800%以上増加しており、2018年には最高で30億ドルに達しています。海外直接投資の増加は政治の安定性、戦略的立地(カンボジアはASEAN地域の中心に位置している)、ドル建て経済、貿易統合の改善(カンボジアはWHO加盟国であり、ASEANの主要メンバーである)、交通網の改善、魅力的な投資先、堅調なGDP成長率、観光市場の急成長、投資先として魅力ある法制度、若くて勢いのある労働力等の理由によるものです。

 このように、アジアの中では小国であるカンボジアがなぜ海外投資を誘致できているのかを理解するのは容易なことです。ご存知のように、東京で開催された第25回国際交流会議「アジアの未来」では、フン・セン首相が日本からの直接投資を奨励しました。具体的には、「カンボジアのさらなる産業発展のためには、日本からの食品加工、エコツーリズム、製造業、人材業等の投資が必要である」と述べており、日本と日本の投資家に向けてさらなる投資を呼びかけました。

 ジェンダー平等と女性の社会進出の話に戻りますが、日本の投資家の皆様には、女性の社会経済的エンパワーメントにおける新たな課題(デジタルや金融リテラシーのトレーニング、育児サービスを備えた労働環境の整備、ジェンダーに対応した起業家エコシステムの構築等)について、官民連携の形で取り組みを検討して頂きたいと考えております。

(注1) 四辺形戦略とは成長・雇用・均衡・効率という4つの項目において、それぞれ4つの政策目標が設定された戦略のこと。2004年の政権発足時に始まり、現在は第三次四辺形戦略まで発表されている。


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