2015年7月15日
―――昨年末から今年年初にかけて、いくつかの税法改正がありましたが、詳しく教えていただけますでしょうか
松崎勇人(以下、松崎) はい、大きく二つあります。一つ目は、税務登録手続の変更です。税務登録にあたっては、代表者(Chairman of Board of Directors)の租税総局窓口での指紋・顔写真の登録、カンボジアでの居住証明の提出を求められるようになりました。また、税務登録にあたっても求められる情報量も格段に増えております。さらに、この新制度導入にあたって、既存の企業も同様の形で、事実上の再登録が必要となっており、代表者の指紋・顔写真登録を含む、同様の手続きを行う必要があります。外資系企業では、この新制度を想定せず、代表者が国外に居住しているケースが多い為、現在問題となっています。
二つ目は、主に製造業、特に縫製業を念頭においた税法改正が2つあります。一つは給与税の課税最低限の125ドルから200ドルへの変更、もう一つは工場での住居・通勤手当や食事手当等の支給についてのフリンジベネフィット税免税です。今年1月より縫製業の労働者について、最低賃金が128ドルに引き上げられていますが、この最低賃金引き上げが決定された後、給与税課税対象となる労働者の数が大幅に増える事について、縫製業協会や労働組合等から懸念が表明され、課税最低限の引き上げが要求されていました。これについて、税務当局は当初難色を示していましたが、フンセン首相の意向も大きく働いた結果、課税最低限が引き上げられる事となりました。
二つ目のフリンジベネフィット税免税は、工場の従業員に限定して、主に労働法上規定されている住居・通勤手当等の法定手当や工場敷地内の住居提供等について、フリンジベネフィット税が免税される事となり、こちらも今年1月から施行されています。企業が、労働者を地方から集め、工場にて住居や食事等を提供する事は一般的に行われており、工場がオペレーションを行う上での必要不可欠な費用である為、これらにフリンジベネフィット税を課税する事について、問題視がされていました。
―――税務職員の質について最近の状況を教えていただけますか
松崎 税務署の職員の意識も変わりつつあるように思います。申告書提出時のアンダーテーブルの要求も租税総局本部では大分少なくなっていますし、昨年初から税務調査官に対して、追徴課税額の10%を支給する等のインセンティブ制度も導入されているようです。また、租税総局は新システムを導入し、全ての地区税務署が共通のシステムを使用し、また納税者情報も一元的に管理がなされるように改善が進められています。今年末のASEAN経済共同体発足に向けて、関税撤廃に伴う代替財源の確保の点からも、税務当局は徴税体制を強化しています。
―――なるほど。それにより会社にはどのような影響がありますか。対処方法など教えていただけますか
松崎 税務登録手続の変更については、登録手続の一部オンライン化も含むもので、納税者側にもメリットがあり、また、商業省での法人登記手続にもオンライン化の計画があり、全体として、行政手続が効率化され、外資企業にとってビジネスがしやすい環境に変わりつつあると思います。税務署で管理する納税者情報がより増え、さらに情報が一元化される事によって、税務当局の徴税能力が向上し、不公平な課税による弊害も少なくなっていくかと思います。
給与税課税最低限の変更、フリンジベネフィット税免税は、最低賃金の上昇に伴う企業の追加コストを和らげる効果があり、企業側にとっても歓迎できる制度変更だと思います。急激な最低賃金の上昇は、日系企業にとっては円安も伴って、製造業の投資の動きを鈍らせています。フリンジベネフィット税免税については、法定手当の範囲に限定せず、より踏み込んだものとしていくべきだと思います。
―――そのような中、クライアントに対してどのような対応をされていますか
松崎 税務登録手続の変更については、可能な限り代表者(Chairman of Board of Directors)を現地駐在の方にする事をお勧めしています。既存のお客様で、日本の親会社の社長様を現地法人の代表者とされているところが複数ありますが、今回の再登録手続きで指紋・顔写真登録の為、カンボジアに来なければならず、スケジュール調整に苦労されております。また、登記住所の不動産登録番号(Property Identification Number)や固定資産税の納税証明書(Property Tax Return)が税務登録時に求められておりますので、登記にあたっては可能な限り、不動産登録や固定資産税の納税を行っている住所を確保される事をお勧めしています。
給与税課税最低限の変更については、大きな注意点はありませんが、フリンジベネフィット税免税については、自社が提供している給付、手当の中で、どれが免税対象なのかを整理しておく事が重要である為、アドバイスを差し上げています。課税か免税か白黒はっきりしているものはよいのですが、法令上も当局実務上も判然としないものもあり、そのような給付に対しどのように申告を行っていくのか、難しい点です。(取材日/2015年3月)