カンボジアのフン・マネット首相は、2025年の経済成長率が6.3%に達するとの見通しを示した。これにより国内総生産(GDP)は513.9億ドル、1人あたりの国民所得は2924ドルとなり、2024年の2713ドルから増加するとしている。これらの発表は6月15日の「国家職業訓練教育の日」に合わせて行われた。
首相は「不透明な世界経済情勢の中であっても、カンボジアは経済発展の転換点にある」と述べ、「今こそ工業化や経済多様化、地域・国際経済への統合を進める好機である」と強調した。また、地政学的緊張や世界的な景気低迷といった外的要因がある中でも、カンボジアは引き続き強靭で発展志向を維持しているとした。
さらに、マクロ経済の安定性が保たれ、民間投資や起業家精神が促進されている背景には、平和と政治的安定があると指摘。「これらが雇用創出や国民生活の向上の原動力である」と語った。
政府は今後、生産性向上、インフラ整備、経済的連結性の強化を通じて、持続的かつ包摂的な発展を目指す方針である。
これに対し、王立カンボジアアカデミーの政策アナリスト、ソウン・サム氏は、政府が強い経済の勢いを維持している点を評価しつつ、「6.3%という成長率の維持には、戦略的計画と外的リスクへの耐性が必要である」と慎重な見方を示した。ロシア・ウクライナ戦争、イスラエルとパレスチナ、そしてイランとの緊張といった地政学的要因や、米国経済の不安定さが世界経済に影響を与えているとし、カンボジアにも波及リスクがあると分析した。
また、「農産品の重要輸出先であるタイとの関係にも懸念があり、地域的な競争や政治的緊張が今後の障害となり得る」とも述べた。
こうした中で持続的成長を達成するには、「農産品の国内加工による付加価値創出や雇用の確保が重要であり、収穫後の損失を減らす努力が不可欠だ」とサム氏は指摘。また、各コミューンや州単位での食料需要を正確に把握することで、輸入依存を減らし国内雇用を創出できると提言した。
一方、世界銀行の最新経済報告では、カンボジア経済は依然として外的・内的課題を抱えており、2025年の成長率は4.0%、2026年は4.5%に減速するとの予測が示された。これは、世界的な経済不確実性や不動産市場の低迷、与信の引き締めなどによるものとされている。
同報告書では「経済の持続的成長と雇用創出のためには、建設業や縫製業から脱却し、付加価値の高い製造業やサービス業への移行が鍵である」と強調された。
こうした見通しの中で注目すべきは、首相が提示した6.3%という高水準の成長率予測が、いかなる具体的な統計根拠や経済モデルを伴わずに発表されている点である。政府がフェイクニュース対策を推進するなか、経済成長率のような重要指標についても、信頼性と根拠の明示が重要であり、政府自身の発信にも同様の基準が求められる。