オーストラリアのカジノ運営会社ドナコ(Donaco International Ltd)は、カンボジアにおける税制変更により、新たな税負担が生じていると発表した。同社はポイペトでカジノ施設「DNAスター・ベガス」を運営している。
アジアのゲーミング業界専門メディアAsia Gaming Briefによれば、ドナコは従来よりカンボジア商業ギャンブル管理委員会(CGMC)に対し、売上総利益(GGR)の7%を拠出していた。しかし、経済財政省が2022年12月に出した通達に基づき、2025年1月よりこの拠出とは別に10%の付加価値税(VAT)および月次・年次の所得税の適用対象となったという。
同社が得た法的助言では、「2025年1月1日以降、付加価値税の納税義務が発生している」とされるが、現時点で正式な税額通知は発行されていない。ドナコは2025年第1四半期のVAT負担を最大42万6,246ドルと試算している。数年前に出された通達の施行が突如2025年に始まった点は、外資系企業にとって法的予見性の欠如と映り、国際投資環境としての信頼性を損ねかねない。
カンボジア政府の法制度は、公布から実施までの期間が明確に定められていないことも多く、「通達はあるが運用されていない」状態が長期化することがままある。また、政治的・経済的状況に応じて、突然運用が厳格化されるケース(例:納税、雇用登録、ライセンス制度)があるため、法令は存在しているが、罰則なしに放置されていたものが急に取り締まり開始という構図になりやすい。
さらに問題視されているのは、この10%のVATがすでに支払っている7%のGGR拠出金と相殺されず、実質的な二重課税となる恐れがある点である。ドナコは2025年2月にVAT報告の延期を申請したが、税務総局(GDT)は4月初旬にこれを却下し、「通達と税法に従い、完全に履行すること」を要求した。GGR拠出金7%と新たなVAT10%が明確に区別されている一方で、相殺が認められない点は実質的な二重課税といえる。これが制度設計上の瑕疵なのか、徴税強化の意図なのか不透明だ。
政府との交渉は継続中であり、最終的な課税の確定は当局の判断を待っている状況である。なお、同社の2025年1〜3月期の業績は、訪問者数は安定していたにもかかわらず、若干の売上減少が報告された。訪問者数が安定している中での売上減・税負担増加は、カンボジアの外資系カジノ事業者にとって「負のインセンティブ」となる可能性が高く、今後の撤退リスクも無視できない。