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業界別インタビュー

2015年10月12日

コンドミニアムの建設で最も心身を疲弊させたのは建設以外のことだった[建設・内装]谷俊二 (2/2)

建築・内装

TANICHU ASSETMENT CO.,LTD. タニチュウ・アセットメント
CEO: 谷 俊二 TANI SHUNJI
先日、プノンペンの中心街で都市型高層タワーコンドミニアムの建設を発表したタニチュウ・アセットメント。CEOである谷 俊二氏に、波乱万丈な人生とコンドミニアム建設への意気込みとは裏腹に立ちはだかる様々な困難について語ってもらった。
手書きで構造計算できる技術者探し

前編からの続き
――進行中のプロジェクトなどを紹介していただけますか。

谷 俊二(以下、谷) はい。ひとつはファミリータイプのもの。BKK1に2ベットルーム、3ベットルームのサービスアパートメントを1棟で来年2月に完成する予定です。最初は家族で住めるところが無いなと思いましたので、4人家族が安心して住めるような賃貸物件の開発を始めました。カンボジアに来てみて分かったのですが、この国にはワンルームマンションというものが無い。特に日本人が安心して住めて、便利な場所にあるアパートメントがありません。そこで、2棟目もBKK1に作っています。1R350~500ドル/月くらいこちらも完成は来年2月の予定です。

――3つのプロジェクトが進行中とのことですが、色々な苦労があるのではないでしょうか。

 意外に驚いたのが、建築に関しては何も問題は無かったということです。勤勉で品質もきちんと守れていました。不良な工事があるんじゃないかとか、下請会社が言う事を聴かないとかもありませんでした。世間はよく「カンボジア人は・・・」という話も聞きますが、建設現場ではそのようなことは無いですね。

 一方で一番驚いたのが、役所との建設許可ライセンス関係が非常に難しいことですね。建設するために必要なのは、まずはソンサック(地域)へこの場所で工事を始めますという許可です。1ヶ月半くらいの審査期間で了解を得ると、工事等に着手することができますが、今度はどんな建物を建てるか、日本でいう建築確認が必要です。これは大きさによってプノンペン市だけの許可で良いものや、高層マンションのように延べ床面積が3千㎡以上の場合は国土整備・都市化・建設省に許可が必要です。

 ところがここで問題なのが、誰がこの図面を引いているのかと。建築士という仕事はこの国にはありません。事実、構造計算を誰がやったかも不明のまま、職人が経験値で引いていたりする場合もありますので、なんなんだコレは?ということもあるわけです。

 とは言え、日本人にも引けないんですよ。日本ほどの過剰な価値観、過剰な工事をカンボジアで行う必要はないですよね。震度6,7に耐えられる構造はカンボジアでは必要ないわけですから。かといって、2年前には信じられないほど粗末な建物が多かったですので、それはやりたくない。ところが、ある程度のクオリティを保ちたい、例えば震度5に耐えられる構造で設計したいと思っても構造計算ソフトの数値変更が構造計算偽造の姉歯事件以降できないし、手書きで構造計算できる方が日本にもほとんどいない。そうしているうちに工事が5ヶ月も止まってしまう中で、かといって日本のクオリティをどうするかと。弊社はたまたまカンボジアで教鞭をとっている大学の先生が図面を引いてくれました。そこの大学とは良い関係になりまして、大学生を現場にインターンとして派遣してくれて、ディレクター的な働きをしてくれています。

最終的に使った奥の手は

――なるほど。そうして苦労して引いた図面を建設省に提出し審査を受けるわけですが、これにも時間がかかるのでしょうか。

 時間がかかります。カンボジアの法律では45日以内に回答しなければいけないと規程があり、また45日以内に返事が無い場合には、許可が下りたとみなし工事に着手して良いとも規程されています。待てど待てども許可が下りないので調べてみたら、1回目の申請は建設省の窓口の役人が自分でやると言って出来ず、次はカンボジア人の弁護士がやると言って出来なかった状態で、最終的には大臣に酷い目にあっていると直談判したら、きっちり45日間で許可が下りました。

――最初から大臣には頼みませんよね。普通は下から上げていきますよね(笑)

 そうですよね。窓口を当然信用しますよね。カンボジアは日本の昭和43年までの姿と似ています。日本はそのころまで都市計画法がありませんでした。容積率の規程は昭和47年施行からです。カンボジアもどんどんルールができていますが、それがトップの人間しか知りません。下の方からやっていると、最初はできると言われたのに、途中から「こういう法律が施行されているからできない」と言われなかなか申請が通らないのも、これが原因ですね。でも経験を積ませてもらったおかげで建設申請業務のノウハウを得ることが私たちはできました。

――建設許可が下りた後は、どのように進むのでしょうか。

 その後は、中間検査、完了検査があります。中間検査は抜き打ちで何回か来ます。私どもは近隣には配慮して工事を進めるよう忠告されたことくらいです。

日本人ならではきめ細かな配慮で差別化を図る

――コンドミニアムを分譲で買う場合のハードタイトルについて教えて下さい。

 カンボジアのコンドミニアムのハードタイトル(敷地権登記)が出たのはデ・キャッスルが最初ですね。ハードタイトルにするには分譲主にも買い主にも費用がかかりますので、現状はハードタイトルを発行しない物件が多いです。発行するためには、デベロッパーが所有する土地を閉鎖謄本にして土地持分と区分所有部分がバラバラに売れない(敷地権設定)という形にしなければならず、物件全体にかかわる話になりますね。ソフトタイトルの場合は、専有しているだけの証明ということになるので、将来的に大規模修繕や解体工事という状態になったとき、土地の持ち分が無いので大きな問題になる可能性が予測されます。

 昔、日本も同じ問題に直面し、昭和58年にマンションは土地建物がバラバラにできない敷地権、カンボジア的に言いますとハードタイトルでないとだめになりました。弊社が建設を予定しているコンドミニアムはハードタイトルを発行します。土地登記簿は一般公開とは謳っていますが、事実上は簡単に見せないような状況になっていますので、あくまでデベロッパーの言うことを信じるしかない状況ですね。

――賃貸仲介事業もされていると伺いましたが、そちらはいかがでしょうか。

 行っております。商業物件などは、決定権の有る方が直接カンボジアに来られないと良い物件はすぐ無くなってしまいます。よく先遣隊のような方々が日本から来られて物件を見ていかれますが、良い物件をご紹介しても本社に伺いをたてる間に無くなるわけです。また、住宅物件の場合、お客様にご紹介したくなるような物件は少ない。商売だからお金のためにやらなければならないかもしれませんが、そこのこだわりが私たちにはありますので、やっぱり私たちは自分たちが良いと思うものを自分たちで作って紹介したいと思っています。

――なるほど。ところで、谷さんが建設を予定している投資用コンドミニアムですが、予約申込開始1週間で60%以上はすでに予約済みとの噂ですが

 その噂、どこからでしょうか(笑) お陰様で正式な発表はまだ少し先なのですが、既に多くの日本人からの予約が殺到しています。まともな建築物が無く、安心して日本人が購入することが難しい環境の中で、私なりに拘り抜いて建設するコンドミニアムです。エレベーターに日本製を採用する等、品質、安全はもちろん、契約も日本語での重要事項説明を行い海外不動産でのトラブルを無くす配慮しています。正直フタを開けるまではドキドキしていましたが、これまで真っ直ぐに取り組んできた姿が投資家の方々に評価されたと嬉しく思っています。また、私は物件が売ったら終わりという考え方は嫌いです。投資用コンドミニアムと謳っているとおり、投資リターン(インカムやキャピタルゲイン)が狙えるかどうかの真価は建設後に証明されますから、当然、管理もしっかりやっていくつもりです。(取材日/2015年10月)


TANICHU ASSETMENT CO.,LTD. タニチュウ・アセットメント
事業内容:不動産開発、仲介
URL: http://www.tanichuassetment.com/?lan=jp
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