2018年7月9日
――カンボジアのIT業界の問題点について教えて下さい。
猪塚武(以下、猪塚) 競争力が劇的に弱いところです。IT業界でカンボジアから他の国へ輸出できるものはなく、ほぼ輸入がメインです。
周辺国のベトナムやマレーシアと比べても弱く、ITが世界を変えている中で、IT技術の弱いカンボジアは将来有望になれないというのが一番の問題点だと思います。
――なぜ競争力が劇的に弱いのでしょう。
猪塚 カンボジアにはITの専門家がいないからです。そして、いいIT会社がほぼありません。いい会社が少ないということはトレーニングする機会が少ないということ。ITのエコシステムができていないのは課題です。
また、それ以外に大きな問題点の一つとして、「夢はITエンジニアです」と語るカンボジア人が少ないことですね。なぜならIT業界で成功してお金持ちになったカンボジア人がいないからです。不動産業界ではいるかもしれませんが。
――カンボジアのITエンジニア人材の特徴などはありますか?
猪塚 カンボジア人材のマインドは素晴らしいと思います。独立志向が強く、前向きな人が多いです。
短所はやはり数学の部分でしょう。キリロム工科大学の倍率は約25倍のため、うちの学生を見て全体を語ることはなかなか難しいです。
――カンボジアのエンジニア人材やエンジニア教育の問題点を教えてください
猪塚 高校までの数学教育が弱いのが課題ですね。特に、サイエンス系のエンジニアだと育てるのが難しいです。例えば人工知能技術を使える人材はいるけど、制作できる人材は少ないなどの点が挙げられます。
また、親の教育レベルが低いのも教育の問題点だと思います。子供が親から学びとる部分が少ない。これは入学以前の問題の一つです。
――ITエンジニア人材や教育を含めた展望を教えてください
猪塚 人材や教育については、今のキリロム工科大学の生徒が教師になることで国全体のレベルが上がっていくと思います。
我々は一生懸命勉強できる環境を作っており、他の大学には負けません。ただ、他の大学も我々に負けたくないという気持ちで対抗策を講じてくるでしょう。キリロム工科大学がいいモデルを作ることができれば、カンボジアの全体のITレベルは上がっていくだろうと思います。
また、今後キリロム工科大学に入るために様々な学習塾やサプライチェーンができると思います。高校生のレベルが上がったり教育の質が上がっていくでしょうね。
――カンボジアのIT人材や教育は何年後に周辺諸国に追いつきそうでしょうか?
猪塚 ASEAN各国と比べると高校教育までが圧倒的に負けています。キリロム工科大学で言えば周辺諸国よりレベルが高いのですが、国全体として見れば追いつくのは難しいかもしれません。
――最後に、今後カンボジアのIT業界の展望を教えてください
猪塚 カンボジアには何もないので、外資系IT事業の参入は今後加速していくと思います。既得権もないし、捨てるべきシステムもない。何もないことでIT事業は急成長して、日本もあっという間に抜かれると思います。
中国系企業の流れかと思いますが、カンボジアでは今、携帯決済がすごく普及しています。米系企業だとカンボジア人が良く使うのは、アップルやフェイスブック。今後はGoogleやAmazonが活発に参入してくるかもしれません。
特に我々は、今後カンボジアのIT業界の中で大きな台風の目になると思います。我々がこういう方向だと思ったというところにリードしていく。カンボジアのIT業界の方向を決めていければと思います。(取材日/2018年3月)