会ってすぐ、その頭の回転の速さが分かる。「突き抜けていないものは要らないんです。」そう話すのは、本人もIT分野で起業し、日本のシェアトップまで登り詰めた猪塚武氏。現在はカンボジアのキリロムで、世界と戦えるIT人材を育成する大学を経営している。全寮制で、完全英語。講師陣はプロフェッショナルと、カンボジア、いや日本でもこんなレベルの学校は無いだろう。それもそのはず、意識しているのはグーグルであり、シリコンバレーなのだ。「途上国で良かったと思う。」カンボジアからITの最高峰へ、今挑戦状を叩き付ける。
我々が作っているのは、自然に囲まれたグリーンシティです。全体は約1万ヘクタール、東京ドーム約2000個分の広さで、ビジネスモデルとして参考にしたものは、スタンフォード大学ですね。スタンフォード大学はブランド名で、会社名はスタンフォードマネジメントカンパニー。我々はキリロム工科大学(KIT)をブランドとして、A2Aタウンが経営をしています。ポイントはスタンフォードは3000ヘクタールの土地を持ち、その土地の価値を上げながら、キャッシュフローを教育に回し、ベンチャー企業を立ち上げそこにVCが投資する仕組みです。
元々、この構想を考えたきっかけは、カンボジアの人材にがっかりしたからですね。何人ものカンボジア人ITエンジニアを面接しましたが、以前の会社で採用できるレベルの人はいなかった。であれば、自分で高いレベルの人材を育成するしかないと思いました。
キリロムは、首都プノンペンと国際空港のある沿岸都市シアヌークビルの、双方から等距離にある重要な場所に位置します。プノンペンからは、車で2時間くらい。歴史的にも日本と関わりが深く、1956年には、日本政府とカンボジア政府のジョイントベンチャーによるキリロム高原都市開発が日本からの移民受入れと一緒に、日本の国会で議論されていた場所です。
世界で戦えるIT人材を育成する大学ですね。学生は全員が奨学生で、在学中の学費・生活費が免除される代わりに、カリキュラム終了後に奨学金提供企業に就職し、4年以上は働く仕組みです。なので、4年間の新入社員教育だと思って頂ければと思います。スポンサーフィーは1人当たり約130万円~200万円で時期により異なります。生まれた家庭の経済状況に依存せず、リーダーが羽ばたけるインフラがキリロム工科大学です。ただし学習は、ITに詳しい人が聞けば誰もが驚くレベルですよ。
1年生がドローンを飛ばし、人工知能やERPの研究を行い、4年生になると就職予定先企業の方向性に沿って世界的な最先端技術を学びます。しかも全寮制で、学費も宿泊費も無料のため、学生は20倍の入試倍率を突破した猛者ばかりです。世界レベルで仕事するのに、クメール語の優位性はありませんよね。講師陣はインドとフィリピンから呼んでおり、授業はもちろん全て英語、また在学中に学内のバーチャルカンパニーで最大5000時間にも及ぶインターンを経験します。これから世界で必要となるだろう技術を教えるので、入社時、生徒は即戦力となるどころか、その会社で1番の技術者になることを期待して下さい。その生徒が最新の技術を会社にもたらすイメージですね。
スポンサー企業としては、特に、新しい分野に挑戦する成長企業が多いですね。常に新しい技術を必要としている企業に合わせて、カリキュラムは毎年変わります。学生数の目標は、2023年には5000人で、将来的には3万人を目指しています。
投資家やパートナー企業を巻き込んで、会社自体をIPOします。ITによる産業革命を経験し、現在IoT、物のインターネットが注目されていますが、次に何がくるか?「都市のインターネット」です。実際にグーグルもIT都市建設に参入しましたし、益々IT都市間の戦いになるでしょう。私はキリロムをそんなIT都市の1つにします、しかもエコツーリズムの中に。キリロムは山に囲まれた街なのでインターネットなんかありませんでした。しかし、学生の力で30Kmの山道にインターネットを通したんです。まさに教わるような人じゃない、切り拓いていく人材を育てています。
またこの時流の中で、日本でも知名度は上がり、2016年9月にはニュービジネス協議会主催の国際アントレプレナー賞を受賞し、またカンボジア政府からの全面的なバックアップを受け、2015年には在日本カンボジア大使館と記者会見をしました。
現在我々の株主は20人で、上場前には100人にはなるでしょう。寮の建設や学生の育成など、この事業全部が皆さんの応援により成り立っています。もちろんそれは必ず成功させるという道筋があってのものです。これからも本体への投資や不動産建設、奨学金スポンサーなど様々な形での応援をお待ちしています。そして、最終的にはキリロムに移住したいなと思って欲しいですね。私はカンボジアには2つのダイアモンドがあると観光大臣にお伝えしました。アンコールワットと、そしてキリロム。我々の力で、磨き上げてみせますよ。
早稲田大学理工学研究科を卒業後、東京工業大学で修士を取得。アクセンチュアを経て1998年に株式会社デジタルフォレスト社を設立。WEBアクセス解析の分野で日本シェアトップまで育て2009年にNTTコミュニケーション社に事業売却。
2011年12月よりA2A Town (Cambodia) Co., Ltd.を設立。高原リゾート、大学、産業クラスターを含む「リゾート学園都市vKirirom」を経営する。世界的な起業家組織EO(Entrepreneurs’ Organization)の日本支部会長、アジアの理事も務めている。
「見ているのは世界。将来どんな人が参入しても勝てるビジネスモデルを追求します。」と、IT都市の将来性を語る猪塚氏。他でも類を見ない一大事業だが、事業計画やリターンなど綿密な計画の下に進められているのが印象的だった。
ここ十数年間でIT大国に変わったインド、カースト制度からの脱却を図った人々が、必死に勉強をしたのが一番の要因だという。キリロム工科大学には、貧しい家庭出身の学生も多い。「上を目指したい。」そんな彼らの必死に勉強する姿がひと昔前のインド人と重なる。「ITと言ったらカンボジアだよね。」そんな、世界からの評判が聞きたいのだ。
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