ドナルド・トランプ氏の米国大統領再選後、同政権は2025年3月末に新たな通商政策を発表し、世界各国からの輸入品に対して一律10%の基本関税を導入する方針を打ち出すとともに、特定国には追加関税を課す相互関税制度を導入した。
具体的には、以下のような国別の追加関税率が発表されている:中国:32%、ベトナム:34%、タイ:26%、日本:24%、台湾:32%、欧州連合(EU):20%、インド:26%
この方針により、従来から中国やベトナムなどで製造を行っていた企業は、米国向け輸出コストの上昇を回避するため、生産拠点の再編成を進める動きが強まっている。
このような地政学的変化のなか、カンボジアがFDIの新たな選択肢として注目されている。カンボジア開発評議会(CDC)の上級経済顧問ソク・チェンダソピア氏は、「米国の関税政策の変更は、製造業の移転先としてカンボジアの競争力を高める契機となる」と述べた。
カンボジアは現在、比較的安価な労働力、対米輸出の利便性、未だ一部の優遇関税制度(GSP)の恩恵を維持しており、繊維・縫製業に加えて、電子機器、部品製造、ITアウトソーシング分野への投資も増加傾向にある。
また、現時点でカンボジアに対する追加関税は発表されておらず、企業にとっての「避難先」としての魅力を高めている。ただし、制度の透明性、税制の予見可能性、電力や物流インフラ、人材育成といった基盤整備の進展が外資誘致の成否を左右する。
さらに留意すべきは、単なる「高関税逃れの迂回拠点」としての利用がもたらすリスクである。米国通商当局は過去に、ベトナムが中国製品の輸出トンネルとして機能したとして、偽装原産地認定と懲罰関税を科した前例がある。カンボジアが真に恩恵を受けるには、実体的な生産拠点の構築と、原産地証明の透明性・トレーサビリティ確保が不可欠である。
日系企業にとっては、中国・ベトナムに次ぐ「第三の選択肢」としての現実味が増す中で、通商政策・関税構造・投資インセンティブの綿密な分析と対応が求められる局面にある。