カンボジアに進出する日系企業のための
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業界別インタビュー

2016/09/9

セカンドオピニオンで税務リスクの回避を[法律・税務・会計]菊島陽子

法務・税務・会計

辻・本郷税理士法人 HONGO TSUJI TAX & ACCOUNTING (CAMBODIA) Co.,Ltd.
代表取締役、ダイレクター: 坂本征大 Sakamoto Yukihiro 菊島陽子 Kikushima Yoko
日系企業のみならず外資系企業のカンボジア進出もますます盛んになっている。特に異国への事業進出では、法務や会計、税務などの諸問題が不安や悩みの種になる。日本国内最大規模の税理士法人である辻・本郷税理士法人カンボジア支部のお二人に、めまぐるしく変化するカンボジアの税制について詳しく伺った。
進出する日系企業がカンボジアで留意すべきこと

前回の続き
―――進出する日系企業が留意すべき点について教えてください。

坂本征大(以下、坂本) カンボジア独自の税務における煩雑な部分はルール化されていますが、税法などで大雑把に記載してある部分に関して最終的な判断は、税務調査時に担当した調査官の個人判断になるというケースもあります。

 また、カンボジアだからといってお金等で解決出来るということは無くなってきています。まだグレーの部分もありますが、黒白はっきりとしている部分も多くあるので安易に見積もりを比較してコンサルタントから話を聞くのではなく、しっかりとした専門家に意見を聞いて企業運営を進めていくことが大切でしょう。

 カンボジア進出は中長期的な期間を想定した場所に事務所を構える方が良いでしょう。事務所移転の際に、担当の税務局から別の税務局の管轄地域に移動すると税務調査が入ることがあるので、要らぬ疑いをかけられることもあります。しっかりと進出の段階でどのようなプロセスが必要か確認したうえで、進めていくことが大切です。

 目まぐるしく状況が変化するカンボジアにおいては、当局や官公庁から発表される情報も必ずしも整備されたものとは言えず、担当官の話は日替わりであったり、一週間かけて準備した書類が翌週にはアップデートされて追加で書類が必要になったりと、変更を余儀なくされ改めて準備しなければならないことがあります。年々法規制が厳しくなるカンボジアでは、行政手続きの開始が遅れれば遅れるほど複雑化されて完了まで時間がかかり不利になるように思えます。

税務申告書はペーパーベース

―――参考となる最近の事例や、多国との違いついて教えてください。

菊島陽子(以下、菊島) アジア各国では、法令が未整備であり、運用のための詳細なガイダンスが各当局から出ていないため、法令による規定はあるにも関わらず、実態としては正しく運用されていないという例が多いですが、カンボジアも同様のことがいえます。

 カンボジアの場合、税務の修正申告やVAT還付手続きがその例と言えるでしょう。
税務の修正申告に対して、税法上は117条3項において「税務申告書の提出から3年以内であれば修正申告が可能である」と規定されています。しかし、実務上は税務局が消極的な姿勢を取っていることもあり、修正申告を行うにあたり多くの必要書類の提出を求められ、膨大な時間と手間を要します。従って、修正申告を避けるためにも月次申告の作成を慎重にならざるを得ません。

 また、VAT還付については、税法第72条から74条にて規定されており、第73条では「売上VATと相殺できない仕入VATが3カ月以上ある場合に税務局に対して還付請求ができる」と明記されています。しかし、実態としてはVAT還付を受けた例はQIP(適格投資プロジェクト)認定を受けている企業でわずかにある程度で、殆どの企業がVAT還付を受けられず、支払ったVATは企業のコストにならざる得ない状況にあります。周辺他国では、VAT還付はそこまで難しい手続きではなく、還付請求した場合、税務調査を受け問題がなければVATの還付を受けられるケースが多いと聞きます。

 2016年3月に日本・カンボジア官民合同会議が開催され、その中で在カンボジア日系企業が直面する問題の一つとしてVAT還付についても取り上げられました。今後、カンボジア税務局が日本や各国の事例などを参考にしながら積極的にこの問題について取り組み、法令の運用が少しでも改善していくことを期待しています。

 カンボジアは税務申告システムが未整備であるため、ペーパーベースで税務申告書を提出しなければなりません。毎月どの会社も申告納税期限までに税務種類毎の税務申告書を作成し、大量の関連資料を添付して税務局に提出に行かなければなりません。日本や中国を始めとするアジア各国ではシステムによるオンライン申告が導入され、税務申告の時間短縮化、及び手続きの簡素化が進んでいます。カンボジアでは2015年に税務登録手続きの変更が行われ、税務登録情報のシステム化が実現されました。それにより、2016年度のパテント更新手続きが従来よりも格段に簡素化し、それまで数週間から1ヵ月程かかっていた手続きが、数日で完了するようになりました。将来的に税務手続きのシステム化がさらに進み、月次税務申告や年次申告にも効果が及ぶようになれば、カンボジアに投資している多くの外資企業にとって歓迎すべき環境となるでしょう。

各国事情を熟知し、多国間の連携がしっかりした事務所を

―――会計事務所の活用方法や、良い会計事務所の見つけ方について教えてください。

菊島 当地には日系、欧米系、ローカルと様々なタイプの会計事務所がございますが、そのスタイルは一様ではありません。医療の世界ではセカンドオピニオンというのが常識になりつつありますが、税務の分野でも顧問会計事務所以外の専門家から意見を聞くことにより税務リスクの低減、回避が可能になります。特にカンボジアのような税法、税務署が未発達な国では、法令に規定があっても明確でない事や、実態として機能しておらず、法令と乖離している部分もあったため、税務の面からも節税に対し慎重にならざるを得なります。そのため専門家の中でも意見が分かれることもありますし、税務署への対応方法も異なります。複数の側面から妥当性、リスク診断を行うことが会計事務所のいい活用方法だと思います。

 またその中でも私の考える良い会計事務所とは、情報収集能力があり、多国間の連携がしっかり出来ている事務所だと思います。個人で言えば、カンボジアに限らず横断的に各国の事情を熟知している専門家です。企業の国際化が進む中、海外における拠点も複数抱える企業がほとんどかと思います。その場合、企業は現地の税務については現地の専門家に相談できても、隣の国に移れば別の会計事務所に相談せざるを得なくなり、企業内での情報共有、連携が簡単に出来なくなります。そのため法令の知識と同じくらい当地の会計事務所には情報収集能力とネットワークの広さが求められます。個人でそのような方は中々見つけられるものではありません。ただ組織となればそう難しくはないです。そういった事務所はカンボジアに限らず他の国も情報も発信し、また他の国でもカンボジアの情報を発信できているはずです。


辻・本郷税理士法人 HONGO TSUJI TAX & ACCOUNTING (CAMBODIA) Co.,Ltd.
事業内容:
URL: http://www.ht-tax.or.jp/corporate/branch_oversea/cambodia/

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