2017年7月26日
(前回の続き)
――カンボジアやプノンペンにホテル業の専門学校はありますか
ノエル・フーラー(以下、フーラー) もちろんありますよ。カンボジアの観光業は2009年から伸びており、去年に至っては420万人以上の観光客がカンボジアを訪れました。観光省は2020年までに750万人の観光客誘致を謳っています。これはかなり大きな数ですよね。これに伴い、ホテルやレストランでの技術者需要も増加しており、専門学校や私的機関が、ホスピタリティ産業の人材育成に力を入れてきました。
例えば、シェムリアップのサラバイ、これはとても大きい学校で、2002年からフランスのNGOが運営しています。ターゲットは若くて貧困家庭のカンボジア人で、フロント、オフィス、サービス、清掃を1年かけて学びます。隣にあるのがフレンスです。こちらもホスピタリティ産業で通用するような人々を育てます。これからますます増えるでしょう。基本的なコーヒーや食事の給仕の仕方から、どうやって自分のホテルを作るかなどマネージメントスキルまで。しかし、基本を教える学校はありますが、マネジメント教育を行う学校はかなり少ないです。アシスタントマネージャーやチームリーダーなど、肩書が付いている人はいますが、専門教育を受けている人はほとんどいません。ですので、我々はその教育やマネジメントプログラムの作成をしています。そのために私がいるんですけどね。初めての生徒は私のチームスタッフ達です。これが成功したら、プログラムの販売やホテルとの提携など、拡大も考えています。もちろんアンコールやソフィテル、ラッフルズなど大きなチェーンなどは、海外で策定されたプログラムに則ることが出来ますが、しかし個人ホテルにはとても難しいですね。
――人材の採用は専門学校からでしょうか
フーラー 専門学校からも行っていますが、そこまで多くはありません。年齢は20歳程度の初期教育を終えた方々ですね。ほとんどの求職者が未経験での応募ですが、その中で突出した何かをもっている人がいれば採用します。
我々はスタッフ間のコミュニケーションをとても大事にします。スタッフを上手く活用できると利益も上がりますしね。サービス=振舞い+技術であり、技術=振舞い+サービスです。赤ワインや白ワインの種類、コーヒーのサーブの仕方など、知識や技術は私が教えることが出来ますが、しかし、心構えを教えるのは難しい。なぜならば、心構えや振舞いは時に、家庭の影響があり、長い時間をかけて心の中に作られたものだからです。これをトレーニングするのは大変です。では、どうやって教えるのか。まずは信頼を築くことです。私は相手を信じることから始めます。そうすると、例え私が厳しいことを言っても、スタッフのためを思って厳しくしたのが理解できます。ここから、振舞いを変えることが出来るのです。しかし信頼がないと変えることが出来ないですね。
――ホスピタリティ産業では今後カンボジアのどのエリアが発展するでしょうか
フーラー 観光業界でいうと、シアヌークビルをおすすめします。ビーチがあり、政府主導でなくても民間レベルでのインフラ整備が既に体系化されています。ホテル業界では、シアヌークビルや、既に多数のホテルがありますがシェムリアップですね。急激に跳ねる可能性があると思います。
次の流行として、プノンペンはそこまでではありません。現在たくさんのホテルが進出している最中であり、ゲストハウスは十分にあります。しかし今後は、特にビジネス需要の高まりを見越すと、高級志向のポテンシャルは大きいですね。
――将来的にカンボジアのホスピタリティ産業はどうなると思いますか
フーラー 断定はできないので、私の考えとして述べさせて頂きますが、カンボジアだけでなく、アジア市場でいうと、アジアの考え方とそれ以外の国の考え方は違います。これは歴史によるものです。中国市場を見ると共産主義国で、若い子供たちは従いなさい、そして失敗をしてはいけないと教育を受けています。もちろんこれがずっと続くとは思っていませんが、現実はそうです。しかし、我々は声を持っています。これは嫌だと声を上げることが出来る、それが民主主義です。
カンボジアは民主主義国家ですが国王制で政府の力も強いです。しかしこれは変わると思います。若い世代は、新しい文化を学ぶことに貪欲で、自分の意見を主張でき、タブーにも触れる。この状態になるまでには長い時間がかかりました。
全ての始まりはコミュニケーションです。人々は声を持ち、聞くことは多くを学べます。全ての世代の人がより心広く、若い世代の声を聴ける社会になって欲しいですね。
――サービスや旅行産業の成長にも、若い世代の力が重要だと思いますか
フーラー もちろんです。ここで働く若い世代の人は多様な文化を受け入れ、異なる文化が大好きです。ホテルで働く人は特殊な性格でなくてはなりません。ゲストを幸せにしようと常に心がけている。ホスピタリティ産業はただでさえ、長時間労働でタフな仕事ですから。
しかしホスピタリティ産業で働く人材は、お金が良いからと別のホテルに移る人も多いです。だからこそ、彼らとの関係構築と私自身の性格は非常に重要です。実際スタッフでも辞めた人がいますが、結局戻りたいと復職しました。
――政府は、観光客の増加を政策として打ち出しましたが、何か取り組んでいることはありますか
フーラー 大事なことは、業界を問わず共に、市場の拡大を目指してプノンペンを盛り上げることです。そうすれば、人が訪れ、安全になり、アクティビティが増え、日々の生活がより良くなります。ホテルを建てるだけでなく、政府や他業界との協力関係と透明性が求められます。1つの業界だけで独り勝ちすることはできませんね。
――将来の展望を教えて下さい
フーラー 将来の計画は3つあります。まず1つ目は、QRコンセプトを安定させることです。1つの事業が成功したら、いち早く別の事業を始める企業もありますが、我々はそれをしません。生産・流通のすべてのプロセスから、物と時間の無駄を排除する経営手法、そして細部の仕事にこだわり、我々独自のユニークさを確立します。スターバックスは全世界で同じ味、ブランドですよね。マクドナルドも同じです。どんなホテルでも同じクオリティになるように目指しています。
そして2つ目は、お客様と強い関係を築くことです。お客様はベットの大きさでホテルを選ぶのではありません。チームがあるから、その人を知っているからこそ来るのです。これはとても重要です。また、お客様との関係性強化と同じように、社内での関係構築も大事です。大きなホテルだと、上司の名前も知らない、他部署の名前も知らないこともあります。我々はお客様、社員ともにより密なビジネスを目指しています。
3つ目は、クオリティを安定させ、お客様との関係を築くことが出来れば、他のアジアの国での拡大を考えています。例えば日本のニセコなど。ニセコは雪景色が素晴らしいですよね。熱いプノンペンと寒いニセコ。サン&ムーン、太陽と月は相対するものです。熱い地域と寒い地域、活気のある地域とリラックス出来る地域、我々にとって、プノンペンが中心地ですが、このような拡大計画も視野に入れています。しかし1歩ずつですね。我々はまだ1歳ですから、まだまだ進歩しますよ。
――最後に日本人の読者の方へメッセージをお願いします
フーラー 個人的に日本が大好きです!これはお世辞ではなく。日本食が好きで日本文化が好きで日本人が大好きです。日本人は謙虚で教育水準が高く、たくさんの技術や知識をカンボジアにもたらしていますよね。
ホテル業界は、プノンペンでも特に好調で今後も上昇が期待される業界です。我々のホテルにも日本語を話せるスタッフがおり、多様な文化を喜んで受け入れるホテルです。いつでも皆さんをお待ちしていますよ。(取材日:2016年10月)