2016年12月7日
(前回の続き)
―――カンボジアの通信会社は、そのようなエンタメサービスへと事業を拡大すべきなのでしょうか
トーマス・ハント(以下、ハント) 一概には言えませんが、スマートはブランド戦略として「ライフスタイル」を掲げていますので、利用者が何を望んでいるかに常に注目しています。その上で、音楽とコンテンツが益々重要になっていると考えています。まだ詳細は明かせませんが、今年末にも世界的アーティストを招いて大規模なコンサートを開催する予定ですから、楽しみにしていてください。
今までは、実は今もそうなのですが、人々はあまりコンテンツにお金を払いたくないのではないかと思います。しかし同時に、「良質なコンテンツが欲しい」という声もよく耳にするのです。近年のカンボジアにおける中間層の成長により、コンテンツに出費する余裕が生まれ始めています。良質なオリジナルコンテンツであれば、ですが。
カンボジアでは知的財産権の侵害がまだ問題視されてる段階になく、自分の知的財産権が侵害されたとしても取り戻すのは難しいでしょう。コンテンツを作るにはもちろんコストがかかりますが、自分の仕事でマネタイズできなければアーティストにとっては無意味です。私たちはこの問題についても利用者にアピールしています。
カンボジア人の平均収入がまだ高くないので長い道のりになるでしょうが、GDP成長率が7%で所得も徐々に上がっているとなれば、知的財産のための出費にも前向きになってくれるでしょう。
―――郊外や地方におけるインターネット利用状況について教えてください
ハント もちろんビジネスですから、投資的観点で見て採算は大事です。ジャングルのような場所ではなく、人の住んでいる田舎にネットワークを広げているところです。田舎でも3Gは展開済みで、これから4Gを拡大させます。4G LTEを使用できるスマートフォンが最低販売価格69ドルで手に入りますから、農家や縫製労働者などの低所得層も購入しやすくなっており、既に人々は4Gを利用できる環境にあります。
カンボジアの通信料は比較すると非常に安価で、スマートでは1.5GBを1ドルで提供しています。日本だったら20ドルはするのではないでしょうか。平均収入に差があるとはいえ、随分違います。スマートの1つの使命に「デジタル・インクルージョン」というのがあり、カンボジアの全ての人々をデジタルで繋ぎ、包括したいという想いがあります。ですから人々がインターネットの利益を十分享受できる額でサービスを提供しているのです。
これは商業的使命ではなく、社会的課題です。例えば最も頻繁に利用されているFacebookは単なる情報チャネルではなく、離れて住む友人・家族とのコミュニケーションチャネルです。出稼ぎに行く人や地方から首都へ来る割合が多いカンボジアでは、非常に重要なことですね。
(取材日2016年8月)
(次回へ続く)