2015年7月28日
(前編からの続き)
―――カンボジアで生産されたものを日本へ輸出する場合は、どのくらい時間がかかりますか
山崎 豊(以下、山崎) 大きな船だと、シアヌークビル港からシンガポールに向かい、色んな国を経由するので、1か月近くかかります。新たな物流経路として注目されているのは、プノンペン港ですね。そこからメコン川を下り、ホーチミンで積み替え、そこからダイレクトに日本へ運べば10日くらいで着きます。物流ルートの確立のために、新しく橋を架けたり、南部経済回廊を完成させて、ホーチミンまで何の支障もなく短時間で行けるような仕組みを作ろうとしていますが、それよって、タイとベトナムに挟まれているカンボジアのロケーションが見直されることを期待します。
ただし、陸路の場合でやっかいなのが、通関のシステムです。とにかく煩雑です。またタイは右ハンドルで、カンボジアは左ハンドルですので、現在は自動車が自由な往来は基本的にできません。カンボジアは右ハンドルを禁止しています。やろうとすれば、左ハンドルの自動車を使い、両国のライセンスを使うことですが、今のところ数十台程度でしょう。陸でごちゃごちゃやっているよりは、やっぱり船の方が良いですね。船はFOB(※)に基づけば、運送業者としてのリスクは低くなります。
―――お客様から一番聞かれる質問はなんでしょうか
山崎 やはり、納期に間に合うかどうか。リードタイムですね。それから、品質です。本当に作れるのでしょうかと(笑)。お客様は中国での感覚に慣れていらっしゃる方が多いですから、例えば、服を何千枚作り、いつまでに日本に届けてくださいというように、簡単に考えがちです。頼まれた工場もできないとは言わないですが、いざやってみると品質が悪くて作り直す。なんでこの程度の物が作れないのかと、質の悪さに驚かれる方も多いです。
このようにして工場と検品所を行き来しているうちに納期に間に合わなくなります。また物流では中国と比べて遠く、大動脈と呼べるほどのインフラではありません。通関にしてもタイで3日で出来るものが、カンボジアだと2週間かかります。実は思ったほどコストはそんなに安くないです。私たちは、信頼されて、かつ早くて、かつ安いサービスをどうやって作るかというのが毎日の課題です。
―――最後に、カンボジアの今後の物流についてどうお考えですか
山崎 アセアン共同体が年内に何らかの形で発足されると思いますが、どこまで規制が緩和されるか明確な答えは示されていません。一方で、AFTA(※)を撤廃してASEAN一体をEPAにしてしまうのかどうかもわかりませんし、ASEANの東側諸国が加盟しているTPP、更には日本との関係を言えば、日本とのEPAもあります。自国のシステムをどのように上手にアセアン共同体の中で取り込みつつ改善していくのか、個人的に興味があります。ある程度、カンボジアは溶け込んでいくのでしょうが、どこまで標準化されるのかが問題でしょうね。
輸出税やリスクマネジメントコントロールというシステムの導入を理由に新たな徴収の動きがあります。関税が安くなる分、これらがどう影響するのか。税関職員は何かにつけて通関行為に対し賄賂を要求します。一方で、アンチコラプションユニット(反汚職ユニット。カンボジアでの汚職に対する執行機関)というのもありますが、今年1月に結構悪いことをしていた税関職員が左遷や解雇されるなど、動きが無いこともないです。
関税を計算するようなシステム(電子通関システムASYCUDA)など、あらゆることをEDI(電子データ交換)しようしていますが、工場なり商社などの各輸出入業者は、そのシステムを使用しないと輸出入申告ができません。手続きが完全に電子化されればカムコントロールも不要になるかもしれませんが、現物を見る必要性もあるので無くならないでしょう。
私たちは、本業である運輸をより注力していきながら、サービスの一環として検品センターの活用も今後もしていきたいですね。ここで、通関業務もコンテナの管理、検品など何から何まで一貫してワンストップ化していますから、お客様にとっては、極端に言えば輸出を済ませたようなものです。(取材日/2015年3月)
(※)FOB(FOB; Free On Board)
本船甲板渡し条件。貿易における取引条件のひとつ。本船渡し、本船積込渡しなどとも訳される。売主(輸出者)は、貨物を積み地の港で本船に積み込むまでの費用及びリスクを負担し、それ以降の費用(運賃、海上保険料、輸入関税、通関手数料等)及びリスクは買主(輸入者)が負担する。
(※)AFTA(ASEAN Free Trade Area)
ASEAN自由貿易地域。東南アジアにおける地域経済協力の一種。東南アジアの市場統合を通じて、EUや北米自由貿易協定(NAFTA)などの地域経済圏への対抗を図っている。