カンボジアに進出する日系企業のための
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MPWT Sun Chanthol大臣 インタビュー
(2016/11発刊5号より)

スン・チャントール大臣写真

スン・チャントール上級大臣兼公共事業運輸大臣が語る

カンボジアの努力と発展の可能性

我々の目的は、人々にベストなサービスを提供すること

―――公共事業運輸大臣として、現時点で重視していることは何でしょうか。

 途上国の発展には、インフラ面での進展がまず求められます。私は公共事業運輸大臣として、インフラや求められるもの全てに対し、利用者である人々へベストなサービスを提供したいと考えています。「ベストなサービス」というのは、今このときその瞬間に人々が求めているものを提供するということです。例えば以前は運転免許証の発行や車両登録をするのにわざわざ遠くへ行ったり、数ヶ月もの時間がかかっていましたが、このような事も迅速化と透明化を同時に図らなければいけないと私は思います。

 2016年6月に運転免許証更新センターをイオンモールに設置したのは、ベストなサービスを目指した結果です。センターの業務時間はイオンモールの営業時間と同じですし、手続きも20分以内に完了します。行政サービスを人々にとって身近なものにしたんです。アジア諸国でこのような行政サービスは恐らくないでしょう。

 今後はオンラインで運転免許証の発行や車両登録をできるようにしたいです。これは行政側にとってもメリットで、車両の情報を全て把握することができるからです。情報技術の発達でより良いサービスを提供する機会が増えるでしょう。例えば、車両所有者ひとりひとりにSMSで車検時期を通知するシステムなんかも実現したいですね。

これほど厳しくする必要があるのかと問われれば、答えは「イエス」

―――カンボジアの公共事業分野の課題はなんでしょうか。

 現在の公共事業分野の課題は、やはり資金不足です。インフラ整備には膨大な資金が必要ですが、私たちには必要な整備事業を全てやれるだけの十分な予算がありません。

 JICAからも無償やソフトローンの形で多くの資金を援助をしてもらっています。しかし、高速道路などのインフラ面では、民間セクターからの参加も必要としています。カンボジアに対して積極的に援助をしてくれるならば喜んで受けたいと思います。

 また、資金が不足していて、道路標識を適切に設置できていません。そういう道路状況では交通事故に繋がりかねないので、非常に重要な問題です。

 既存の道路の保全や修復にかかる資金の調達も懸念事項です。30トン規制のところを50トンで走行するトラックもいて、過積載車両が横行していますが、これは道路がかなり早くにダメージを受けてしまう原因です。そもそも過積載の違反には罰金を課していますが、内務省と連携して輸送車両の違法改造についても禁止し、罰金を課すことにしました。資金が無くても保全のために我々ができることを考えて実行しています。

 カンボジアの現状から言っても道路交通法は非常に重要な課題ですから、最近はかなり厳しくやっています。信じられないデータですが、取り締まり強化前は1日に約40人が交通事故で負傷、 6人が死亡していました。これは、ひと月に1度、飛行機が墜落して200人が犠牲になるのとほとんど同じことです。信じられますか? 以前はみんな交通ルールを無視していましたが、2016年1月に新交通法が施行され、目に見える効果が出ています。

 それでも、交通事故はいまだカンボジアの主要死亡要因の1つです。私が副委員長を務める道路交通安全委員会では、学校などでの交通安全教育に力を入れ、モラルの向上に努めています。我々はかなりタフですが、これほど厳しくやる必要があるのかと問われれば、答えはイエスですね。

 
―――プノンペンの渋滞問題を、どう解決したいとお考えですか。

 赤信号の時間をフレキシブルに変更できるシステムや、例えばモノレールのような旅客輸送システム (AGT)の導入が解決すると思います。

 実際、JICAの支援のお陰で、交通管制システムの導入を2017年4月までに目指す方向で動いています。2023年にはAGTも導入される予定です。もちろん、引き続き道路交通法の順守を国民に促さなければいけません。

物流コストの削減方法を見つける必要がある

―――運輸分野の現在の状況と課題を教えてください。
 やはり物流コストが課題です。近隣諸国と比較すると割高なので、コストを削減する方法を見つける必要がありますし、フン・セン首相もそれを強く望んでいます。改善されれば競争力も増しますし、そうすれば海外投資を引き込んで輸出もより盛んになるでしょうね。

 私が運輸大臣になって、コスト削減の一環として物流に関わる手数料の削減を呼びかけました。その結果、シアヌークビル港湾公社は10%、プノンペン港湾公社は5%の手数料削減に応えてくれました。大変有り難いことです。

 しかし、特に問題なのは「非公式料金」です。輸送費全体の48%を占めているという調査結果もあります。私は汚職撲滅を目指して、現在は世界銀行に支援を要請しながら、物流委員会の設置に向けて動いています。

 また、時間コストの削減もまたカンボジアの課題ですね。例えばタイやベトナムとの通関窓口の一本化や、外郭環状道路の環境改善に取り組んでいます。プノンペン市内の渋滞、日中の大型トラック通行禁止等もあり、プノンペン市街を迂回する外郭環状道路が重要となっているからです。また、カンボジアはグローバルサプライチェーンの一部になっていますし、こういった様々なコストの削減には積極的に取り組んでいきます。

投資対象としてのカンボジア、その利点とは

―――カンボジアへ投資を考える人は増えていますが、具体的にどのような利点があるのでしょうか。

 まず、カンボジアは政治的に安定しています。小規模で安定した経済を持ち、インフレ率は5%以下です。安定性というのは投資を考えるにあたってとても重要ですよね。また、政府はカンボジアでビジネスを行う人々を応援しています。

 他の理由として、カンボジアは地域の中でも最も寛容な投資奨励政策をとっています。最長9年間のタックス・ホリデー制度があり、利益の制限や還流もなく、為替調整などもありません。また、外資100%で投資ができます。タイには外国人事業法があったりなど、他国では普通はそんなことできません。

 運輸大臣の立場から申し上げれば、タイとベトナムには日系企業の進出も多いですし、日本人が進出を検討するには、両国に挟まれているカンボジアは地理的にとてもいい場所にあるという点です。南部経済回廊の一部として生産拠点になることが期待されていますから、国内インフラが更に整備されればその役割も果たせるでしょう。

 そして国内の物流インフラと言っても色々ありますが、グローバルチェーンを念頭に置いて隣国との相乗効果を考えると、カンボジアとしては陸路のインフラを整備するほうが物流コストの面では良いと思います。例えば日本からの支援で2015年4月にはネアックルン橋が完成し、南部経済回廊の物流量に大きく貢献しています。

 生産したものを運送すれば、その先は輸出です。多くの国との一般特恵関税制度によって低い関税でカンボジアから輸出できることも、カンボジアが投資に向いている理由の1つです。EUに対しては武器以外のすべての産品を無税・無枠でカンボジアから輸出できます。この措置は後発開発途上国に対して行われているもので近隣国にも適用されていますが、内容が違います。例えば、コメをタイやベトナムが輸出しようとすれば、関税がかかってしまいます。機械設備類もそうです。

 また、何といっても若い労働力が非常に豊富です。カンボジアの平均年齢は21.7歳ですから、若い労働力が満ちています。このことは、この国でビジネスを始めるのにプラスに考えられる要素だと思います。

カンボジアを大メコン圏の物流の中心地に

―――公共事業・運輸大臣として成し遂げたいことは何でしょう。

 私の目標は、カンボジアを大メコン圏の物流の中心地にすることです。この目標を達成するためには、首都から地方へと続く道路や橋、鉄道などの国内インフラをさらに充実させ、物流コストを削減する必要があります。要するに、利用する人々にとって良いサービスとは何かを考えて提供するだけ。やるべきことはシンプルなんです。

 地図でカンボジアの位置を見てください。例えばタイからベトナムに出荷したい場合にはカンボジアを経由しなければいけませんよね。カンボジアを近隣諸国や世界と繋げ、ベストなサービスを提供するためにも、インフラ面でその繋がりを拡大したいと考えています。

 日本人投資家の皆さんには、有料道路への投資を提案したいです。海外には通行料が必要な道路や橋はたくさんありますし、カンボジアの道路インフラにとっても大きなプラスです。

 また、輸出入でカンボジアに来る大型船舶を受け入れるため、港を改良する必要もありますね。カンボジアが物流拠点として成長するために何が必要なのかはすでに分かっています。あとは実行するだけです。
 
―――最後に、日本人投資家へ一言コメントをお願いします。

 インフラや物流面での投資をお考えでしたら喜んでご相談にのります。カンボジア開発評議会という投資家をサポートするワンストップ機関もあります。そして、様々な業界の多くの日本人投資家から、その豊富な知識と技術力を我々に提供していただけないでしょうか。小さいながらも開かれた経済があり、投資できる余地がこの国にはたくさんあります。ANAで成田-プノンペン間の直行便も就航したことですから、ぜひ一度足を運んでみてください。


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