2017年8月23日
――御社の自己紹介、また御社の特徴を教えてください
マック・ブラタナ(以下、ブラタナ) I-GLOCALカンボジア事務所は、2010年4月に設立された会計系コンサルティング会社です。設立から今日まで、多くのお客さまにご愛顧頂いて参りました。カンボジアは法令や各種手続きのシステム整備がまだまだ十分とは言えませんが、これまでの実務経験・最新の情報を基にお客さまの税務リスクを最小化できるような助言や支援に努めています。
ドゥク・ダリン(以下、ダリン) 弊社の特徴は、設立から設立後の会計税務まで一貫して支援が可能な点、及び設立から7年間の豊富な経験に基づいた最善の策をお客様へ助言することが可能な点です。私たちは進出日系企業に対して不動産・販売・サービス等の会社設立や労務アドバイスを行い、ホテル・レストラン・建設・不動産・QIP取得企業等の会計・税務支援、税務調査対応を行っています。
――カンボジアにおける会計制度や税制度の現状について、注目している新たな動きなどがあれば教えてください
ブラタナ ここ数年で数多くのアップデートがありますが、直近では以下2つの改正がありました。
まず一つ目は、フリンジベネフィットタックスの改正です。2016年10月6日、従来課されていた一部手当に対するフリンジベネフィットタックス(FBT)が免税されることが公表されました。製造業に対しては2015年1月20日より適用されていたものの、製造業のみ適用という不平等な規定に加え、適用条件に曖昧な部分もあったため、不満の声が挙がっていたようです。そのため、今回の免税規定では税務局へ福利厚生規定を届け出た上で、業務に関わらず適用を受けることができるようになりました。なお、免税対象となる手当は、通勤手当・家賃手当・社会保障基金への拠出金手当・育児手当及び一時解雇補償金等の労働法に規定のある手当、食事手当・全従業員が対象となる生命保険及び健康保険の企業負担分が挙げられます。
ダリン 二つ目は、サブリース時に課されていた源泉税の改正です。2016年11月3日、サブリースを受ける企業の源泉税(WHT)が免税となりました。これまでは、例えばアパートやオフィスのオーナーからリースを受ける場合及び当該リース物件をサブリースする場合にも、WHTが課されていました。しかし改正後は、オーナーから直接リースを受ける場合のみWHTの納税が必要となりました。実際、VAT登録事業者同士の契約では付加価値税(VAT)が発生するにも関わらず、さらにWHTも課される状況だったので、この改正により企業負担が減ることとなりました。
――カンボジアで活動する企業が直面する経営上の問題は何ですか
ブラタナ お客様からの相談でも、スタッフの雇用に関する内容はしばしばあります。カンボジアでは経験のあるオフィススタッフが慢性的に不足しており、雇用コストが増加していることが深刻な問題です。例えば一人が不釣り合いな程高額な報酬で他社に転籍した場合、その報酬水準は他のスタッフで共有されていることが多く、社内で転籍準備が進められるケースもあります。そのため、長期的な雇用が問題となることが多いです。
――今後進出してくる日本企業が注意すべき点を教えてください
ブラタナ 注意すべき点は沢山ありますが、2点挙げたいと思います。
まずは事業内容についてです。
設立時に事業内容を設定しますが、この事業内容が実際の事業内容と異なる場合、税務申告ができないといったリスクが存在します。現在税務申告書には事業内容を記載しますので、売上・費用の内容が記載の事業内容と異なると推測される場合、申告時に指摘を受け、事業内容の変更もしくは追加を促されるケースが見受けられます。もちろん設立後の事業内容変更・追加は可能ですが、手間とコストがかかるため、事前に現地での事業内容を十分に確定した上で登録することが重要です。また、登録外の事業を新たに行う場合は追加を行われることをお勧めします。
ダリン もう一点は、看板の印紙税についてです。
オフィス等に掲げられている企業の看板に対して、印紙税が毎年発生する旨が法定されております。ただ、金額的な影響も小さく、税務局も徴税に力を入れていなかったことから、納税をしていない企業が大半でした。ただし、2017年より当該印紙税の徴収を強化する旨を税務局が公表しており、税務局員が調査に来た際は、会社設立日まで遡って納付を求められ、罰金が科されるケースも多く発生しています。
また、パテント税の納付後、納税領収書は税務局にて承認を受ける必要がありますが、その際に当該印紙税の納税領収書を提出しなければパテント税の納付も承認を受けられないといった問題も生じています。そのため、新規企業は看板にかかる印紙税をあらかじめ納税することをお勧めします。
――カンボジアにおける会計・税務業界への展望をどうお考えですか。また、その中で御社はどのような役割を担っていきたいと考えますか
ブラタナ 現在カンボジアの税務制度は変革期にあります。よくカンボジアは法律と実務のかい離が指摘されています。依然としてかい離は存在するものの、例えば不透明な税務制度が改善され理解がしやすくなる等、徐々に改善されつつあります。先に述べた看板にかかる印紙税など、従来制度としては存在していたものの重要視されていなかった税金の徴税が厳格化するなど、徐々に法令が適切に運営されるようになってくることは明白です。
ダリン カンボジアでは過去に遡って課税を受けるというケースがしばしば見受けられるため、今から適切に法令のアップデート及び適切な納税を行うことが将来のために重要であり、弊社はこういった将来のリスクを軽減するため、現在から適切な納税支援を行っていきたいと思います。(取材日/2017年4月)