―――ダミーコさんは、カンボジアでHRインクの副社長をされていらっしゃいますが、HRインクについて教えて頂けますか?
サンドラ・ダミーコ(以下、ダミーコ) はい。私自身は2001年からカンボジア在住ですが、当社は2005年に創業したカンボジア初の人材会社です。現在は100名の従業員とアウトソーシング人材500名ほどを抱えております。また、カンボジア初の人材会社としてミャンマーにも支店を開設いたしました。事業内容は人材開発やそれに伴う調査や人材育成、人材募集、アウトソーシングが主となっています。
創業当時は農業や商業等数多くの市場調査業務をお願いされることが多く2006年に市場調査専門の関連会社を立ち上げました。その会社では市場調査だけではなく、経済的成長やミクロ経済政策人材教育、労働市場への人材提供やJICAや各国際機関等とも連携しています。この2社の連携により市場調査から人材関連サービスまで幅広くカバーする会社として知られています。
―――なるほど。ダミーコさんにとって、カンボジア人の特徴とはどういうものでしょうか
ダミーコ 10年前の創業当時と今を比べるとずいぶん変わりました。経済状況も変わりました。カンボジア人は基本的に新しいことや学ぶことが大好きですし勤勉です。しかし、教育システムが不完全なのでハンズオン支援が不可欠です。ただ、機会を与えれば努力しますし能力を発揮します。難しい面は様々ありますが、一番の悩みは仕事が長続きしないこと、給料の提示次第ですぐ他へ移ることです。企業は人材が飽きないよう様々な努力が必要ですし、人材育成の手段が社内にあるかないかでずいぶん変わると思います。
最大のチャレンジは低層の労働者に対応するときです。教育をまともに受けていなかったり、読み書きができなかったりしますがそのような人材のコントロールとマネジメントが課題になります。会社のルールや存在意義や目的を伝えないと後に大きな問題になります。聞くところによると日系企業の多くは時間を守らない、勤務中の私用などの問題で苦労しているようです。いずれにせよ、人材開発は今後のカンボジアの発展においても重要な業種になると思います。
―――日系企業の多くはカンボジア人の賃上げに困っているようです。さほど能力が無いにもかかわらず周りと足並みをそろえるような賃上げが横行していますが。
ダミーコ その点は変わるのに多少時間がかかると思います。例えばベトナムではスキルがある人がかなりの人数いるので労働市場がある程度固定されます。しかし、カンボジアは少しでもスキルを身に着けておけばより高い賃金を求めることが可能です。労働市場が安定する前段階というのはそのようなプロセスを通るものです。昔、賃金調査をしていたころは、年間10-20%ずつの割合で安定して賃上げが行われていました。
2008年頃、いろんな銀行がカンボジアに参入していたころから競争が活発になり、2倍、3倍の賃上げが行われるようになりました。そうなるともはや、人材の価値がわからなくなります。なんの調査もせずにそのような金額を出すような企業が続出してきたのですから。昔は企業主導の労働市場だったのが現在では雇用される側に主導権があると言ってよいでしょう。最低賃金の上昇も続いていますし、今後は労働市場は落ち着いていくでしょう。このまま上昇を続けても企業が利益を出すのが難しくなるからです。
―――そうですね。ところで、AECの影響についてはどのようにお考えでしょうか
ダミーコ インパクトというよりも機会拡大の方が大きいのではないでしょうか。政府は良い方向に締め付けを始めています。最近のビザやワークパーミット関連の締め付けもカンボジア人労働者を守るためには必要な施策ですし、投資する側としてはとても評価しています。ビジネス機会も多いのではないでしょうか、地理的にASEANの中心に位置するカンボジアは海上輸送拠点も川の輸送拠点もあります。政府や関係機関がきちんと機能すれば今後も良くなると思いますし、投資機会は拡大するかと考えています。
―――では、カンボジア人の労働者に対して何かアドバイスをするとしたら
ダミーコ そうですね。若い世代は、きちんと高等教育を受けることを助言します。それがカンボジアの未来への投資になるからです。若い人だけでなく、その家族、特に田舎の人々への助言でもあります。それから、きちんと職に就くこと。教育は学校だけで受けるものではありません。生涯に渡って続いていきます。職に就くことで社内で学ぶ機会はたくさんありますので、その機会を生かしてください。