2018年7月27日
――カンボジアにおいての人事マネジメントで苦戦されている会社が多いかと思います。カンボジア人スタッフは早く辞めてしまいますが、どうしたら長く働いてくれるのでしょうか
鳴海 貴紀(以下、鳴海) 定着率の向上(離職率の低減)のための対策は、ひと言で助言できるものではありません。即戦力となる人材が見つかり難いカンボジアの場合、社内における人材育成は不可避ですが、人材育成コストの回収も考慮すると、長期の勤続期間が前提となります。そこで、どこの企業も、早期退職リスクの低減は重要課題になるわけですが、手を尽くしてもカンボジア人スタッフがすぐに辞めてしまうというわけです。
当社の場合、様々な対策を講じているため、スタッフがすぐに辞めてしまうことはありません。では、当社がどのように定着率の向上を図っているのか。
その話をする前に、そもそもスタッフはなぜここで働いてくれるのか、どこに価値を感じてスタッフは働くのか、ということを考えてみて欲しいと思います。彼らに身を置き換えて考えてみると、様々な理由が思い浮かびます。「お金が欲しいから」という理由が一番大きいという人は多いとは思いますが、逆にそれだけの理由で働く人は僅かです。
実際は、複数の理由が強弱を持って混在していますから、人によって働く理由のバリエーションは微妙に異なっているのです。これらが、働くことでもたらされる会社からの価値になるわけですが、カンボジア人スタッフが退職するときは、これらの価値が何らかの理由によって毀損し、その総合的な度合いが臨界点に到達したときです。
本人から直接告げられる退職理由は、もっとも大きい理由や、当たり障りの無い理由などを挙げるかもしれませんが、複数の理由で働いているのと同様に、辞めるのも複数の理由があると考える方が自然です。
――働くことによる価値はお金だけじゃない。確かにそのとおりですね。その価値の毀損を防ぐにはどうしたらよいでしょうか
鳴海 多くのスタッフは「お金が欲しいから」という理由が主たる理由で働いてくれるのですから、これについては、公平な定期昇給制度の設計、KPIに基づくインセンティブの支給など、給与規定を整備し明文化して全員に周知することが不可欠です。
その上で、スタッフの一人ひとりが、会社のどこに働く価値を感じているのかをヒアリングして分析し、ときどき定点観測して、その価値が毀損していないかをチェックしていくのが良いと思います。
注意しなければならないのは、カンボジア人スタッフが求める価値の多くは短絡的であるということです。例えば、居心地が良い、社長が優しいなどの理由は短絡的で脆いものです。社長が厳しく叱っただけで、その価値はあっという間に毀損します。そもそも、居心地が良い職場とは本当に自分のためになるのか、社長がいつも優しいのは本当に自分のためになるのか。
自己成長とは自己の限界が広がることですので、自分の限界を超えるような仕事をこなそうとしなければ、自己成長はできません。それには厳しいとか、辛いという気持ちにも耐える必要があることを意味しますが、前述したような短絡的な価値とは対極にあります。
そこで、働くこととは何か、給料とは何か、キャリアとは何か、マネジメントとは何かということをスタッフ達がきちんと理解できるような仕組みを作り、一段高いレベルの価値に気付かせることが必要です。彼らの理解が徐々に深まるにつれ、成長意欲が湧き、自ら望んでコンフォートゾーンを広げる行動を起こすことが期待できます。
(次回へ続く)