カンボジアに進出する日系企業のための
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イオンモールプノンペン開業、示唆に富むその舞台裏。ビジネス視察で見るべきポイント Vol.2

開店後のにぎわい、祭りのあとの明暗

(前編からの続き)
 一方、モール開業後も、かなり初期の段階からテナント事業者にとっての「明暗」が分かれてしまっている。

 飲食店、小売店、サービス店が各々、さまざまな商品・サービスを揃えて顧客の来店を心待ちにしているが、やはり全店舗まんべんなく満員御礼というわけにはいかない。むしろ、満員御礼が続く店舗と、端から見る限りなかなか苦戦しているように見える店舗が、かなり初期の段階からかなり極端に分かれている。

 イオンモールの事前の調べによると、モールの周囲5km以内に約70万人が住んでおり、月収400ドル(約4万円)以上のカンボジア人中間所得層がその78%を占める。先述の仮計算を踏襲して、プノンペン在住日本人が約3,000人いると仮定し、仮にその7割が同じモール周囲(≒プノンペン中心地)に住んでいるとすると、その日本人在住者人数は2,100人となる。モール周囲人口70万人に対して在住日本人2,100人ということは、1,000人に3人が日本人、つまり0.3%。そもそものターゲットをどの顧客層に設定するか、そのターゲットに財布を開く気にさせる「内容・品質・値段・空間」を提供できているか。

 日系飲食店や小売店から見て、味の好みや購買にいたる気心も分かる日本人顧客はモール周囲の1,000人に3人。一方の997人のカンボジア人及び日本人を除く在住外国人は、多くの日系テナントにとって未知の相手であり、彼らは上記4要素の組み合わせで見える絵のピントが少しでもずれていると財布をなかなか開いてくれない。

 店舗の客の入り具合は、モールが一般に開放されている以上隠しようもない。客が入っている店と入っていない店には各々にいくつかの共通項があり、それには目に見えるものと見えないものがある。カンボジア人およびカンボジア在住の日本人以外の外国人に尋ねても、みな口を揃えて「日本から来たモノはいい」と言う。モールの入り口でアンケートでも取ろうものなら、来客はみな日系テナントに耳当たりの良い答えを存分に提供してくれるだろう。 が、「Made in JapanやMade by Japaneseのものは素晴らしい」という「総論」と、実際に日系テナントの店舗でおカネを出して商品やサービスを買うかどうかという「各論」の間には、筆者が感じる限りかなり大きな隔たりがある。客が入っている理由、入っていない理由、各店舗の現状に内在している「目に見えない共通項」まで探り当てる事ができれば、カンボジアに日系サービス業として進出を考える企業にとってはかなり参考となる手がかりになるはずだ。

 少しひねくれたメガネを通して見れば、開業前は現地業者の実質公開実力テストが行なわれ、開業後はさまざまな商品・サービスのぶっつけ本番マーケティングが一般公開実験さながらに行なわれているようにも映る「イオンモールプノンペン」。
目を凝らして眺めてみると、貴重な情報が盛りだくさんの宝の山に見えて来るかもしれない。

 他方、「イオンモールプノンペン」開業が周辺の“小売・飲食店生態系”に与えた影響も甚大だ。
 開業直後の週末からしばらくの間、ブラックホールのように大量の周辺消費者を吸い込んだモールの影響で、周辺の飲食・小売店からは客の姿が消えた。それまで人気店だったいくつかの小型店舗には、その後いまだ客足が従前のレベルに戻らず嘆いている所も散見される。

 プノンペン中心地のやや北寄り、首都の数少ない観光地の1つである新市場(プサー・トメイ)の近くに建つ「ソリヤ・ショッピングモール」。
プノンペン初のショッピングセンターとして2002年に開業した地上8階建ての老舗ビルは、地上階のスーパーから最上階のフードコートまで10年以上の間プノンペン住民に親しまれる人気スポットだが、「イオンモールプノンペン」開業後の集客状況はと言うと、たまに覗いてみる限りではあまり芳しいとは思えない。地上階の「ラッキースーパー」もいつの間にか店内が奇麗に改装されているが、やはり日本クオリティの「イオンモールプノンペン」を目の当たりにした後では焼け石に水。素人目に見てもその品質格差は歴然だ。カンボジア人から見ても恐らくはそう見えるはずで、週末どちらに遊びに行こうか、で思い浮かぶ選択肢としての魅力は大きく減価していると思わざるを得ない。

イオンオープンがカンボジアにもたらしたもの

 良くも悪くもプノンペンの消費・流通に多大なインパクトを与え、ひいてはプノンペン住民のライフスタイルすら一変させてしまう可能性もある「イオンモールプノンペン」開業。
 育ちつつあるプノンペンの富裕・中間層が“楽しむための消費”におカネを使い始めたタイミングとモール開業が見事に符号したのは、さすがイオンの機を見る目の確かさなのか、単なる偶然の産物なのか。おそらくその半々といったところだろう。

 何にせよ、今後プノンペンを中心としたカンボジアの消費・流通を考える上で、外せないポイントとなった事は間違いない「イオンモールプノンペン」。あくまで筆者私見に基づく、穿った(つもりの)見方だが、今後ビジネス視察目的で「イオンモールプノンペン」およびその他周辺施設を歩く際に、見える景色が少しでも変わる一助となれば幸いである。
(後編に続く)

髙 虎男 Ko Honam

早稲田大学政経学部経済学科を卒業後、日本の大手監査法人、戦略コンサルティング兼ベンチャーキャピタル(一部上場企業 執行役員)を経て、2008年カンボジアにて日系事業グループ「JCグループ」を創業。日本(Japan)とカンボジア(Cambodia)の頭文字をとった「JC」ブランドの下、日本の技術・ノウハウをベースにカンボジアで農業、IT、金融、物流、広告等を複合的に展開。日本公認会計士・米国ワシントン州公認会計士。


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