カンボジアに進出する日系企業のための
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ここ数年の日系飲食店の出店ラッシュは目覚ましい。大手チェーンの出店計画も続々発表され、まだまだブームは続きそうな勢いである。その反面、数か月で撤退や業態変更を余儀なくされる店も多く、一筋縄ではいかないカンボジアフードビジネス。日本人におなじみの吉野家などナショナルブランドを複数展開する老舗の企業MEASグループのCEOに、カンボジアでのフードビジネスの成功の秘訣を聴いてみた。

できる限りクリエイティブでユニークなサービスを投入することです

カンボジアビジネスパートナーズ( 以下CBP):はじめまして、まずは貴社の概要を簡単に教えてください。

エロワ MEASグループは2001年に創業しました。カンボジア人中流階級をターゲットにフードビジネス関連で現在3部門あります。空港アウトレットでは95%シェアを持ち、縫製会社や学校、ホテルなどへのケータリングで一日2万食を売り上げ、フランチャイズフードチェーンは6ブランド経営しています。現在従業員は1400人に上り、そのほとんどがカンボジア人です。

CBP なるほど、まさにカンボジアのフード業界のメガグループですね。エロワさん自身のプロフィールを教えてください。

エロワ 私はフランス人ですが、留学先のベルギーで出会った創業者の娘であるカンボジア人(ベルギー人ハーフ)女性と結婚し子供は3人います。フランスに生まれ、フランスとアメリカの大学を卒業後スイスでMBAを取得しました。その後ロレアルやディズニーグループ等ヨーロッパ各地の国際的企業で15年ほど働いてきましたが、1年半前にカンボジアに家族とともに移り住みました。

 この会社を引き継いだのは創業者である義理の父が2年前亡くなったのがきっかけですね。

 義理の父をとても尊敬していて、家族としても仕事人としても彼の意思を引き継ぎたいと考えました。結婚してから何度もカンボジアは訪れていて、ここの雰囲気や文化、精神に至るまで全てが気に入っていたので決断は迷わなかったです。

CBP どんな経験が今生かされていると考えていますか?

エロワ 今まで多くの国際企業で働いてきて様々なテクニックを学んできたことから、プロジェクトの提案やその具体化や実現化は得意としています。しかしMEASではより自立した起業精神のあるプロジェクトに取り組みたいと考えています。また妻がカンボジア人であることで、MEASに参加する前からカンボジア人の考え方や文化に触れてきており普通の人よりは適応しやすいのではないかと思います。

CBP カンボジアでフードビジネスを展開するにあたって気を付けなければならない点は何でしょう?

エロワ カンボジアに来てから気を付けているのは、クリエイティブでユニークなサービスを投入することです。カンボジアの市場は動きがとても早いのでそこで躓くとすぐ取り残されてしまうでしょう。また人材の確保が鍵ですね。とても難しいポイントなのですが、案外才能あるカンボジア人はいますが埋もれています。仕方なく外国人を雇用する場合もあるでしょうが、できる限り現地の有能な人材を掘り起こすことができるかどうかで成功は左右されるでしょう。

 またカンボジア人を多く雇用すると、一人前に育つまで繰り返し丁寧に基礎を教える必要があります。その点と、カンボジアというお国柄限界が無い(制約がない)場所なので精神力(忍耐力)があればあるほど成功の確率は上がるのではないでしょうか。

ターゲットをいかに満足させるか

CBP 貴社の展開するブランドのターゲットはバラエティに富んでると思うのですが、どうやってブランドを決めているのですか?

エロワ まず最初にすることは、ターゲットを決めることです。ただし、カンボジアはかなり流動的なのでとても難しいと思います。消費行動も常に変化していますし、特に若い世代はいろんな外の文化に触れているためかニーズをつかむのがとても難しいのです。ただ、それでもターゲットを決めたなら、そのターゲットをいかに満足させることを考えるか、そのためにどんなブランドが適しているのか、そういう視点で決めています。

CBP 立地に関してはどうでしょう?何か法則があるのですか?

エロワ 例えば我が社で抱えている中華料理店はオープン当時、同様の店が無かったため提案しました。新しいフランチャイズを投入するときは、まずはその発祥国の事例をよく研究します。吉野家なら繁華街や駅近くに多く展開しているのでそれをカンボジアに当てはめるのです。もちろんその場所が、会社が狙っているターゲット層に近いかどうかもポイントになります。

CBP スタッフ教育についての考えも教えてください。

エロワ スタッフ教育に関してはまだまだ発展途上だと考えています。個人的には才能があるスタッフには国際的な文化により触れさせる必要があると考えています。MEAS傘下の8割のブランドは海外発祥ですし、ローカルブランドも外国の影響があるからです。フードビジネスのキャリア形成が未発達なカンボジアでは、シェフやパティシエを探し出すだけではなくその才能がある人材を探し出し、時間をかけて育成するのが重要になるかと思います。最後にパートナー選びに気を付けるべきです。あなたが一緒に働きたいと思う人と組むことができるかどうかで成功確率は格段に変わるでしょう。

CBP カンボジアでのフードビジネスの難しい点はなんでしょう?

エロワ フードビジネスは参入しやすく開かれた環境にあります。競争率も高まってきています。生き残るためには質の向上、衛生条件の整ったキッチンも重要です。我が社はカンボジア初のHACCP施設です。特に外国企業とフランチャイズ契約をするにはこのような基準は求められていますからね。会社として取り組むのは容易ですが、従業員を巻き込み根気強く伝えるのがとても難しいです。生活習慣が全く違うのである意味仕方のないことなのですが。

CBP 繁盛店とそうでないお店の違いはどこにあると考えていますか?

エロワ マーケティング戦略、ターゲット設定、ロケーション選定が重要なのは常識ですが、心を込めたサービスがお客様に伝わっているかどうかが大切です。経営者が常に現場にいるのは難しいですが、現場にいる人間があなたの心意気を引き継げているかどうかでしょうか。あとは我が社のイタリアンレストランで最近痛感したことなのですが、お客様への見せ方も重要ですね。お店の雰囲気やパフォーマンスといいますか…。

自分たちの殻を破って活躍してほしい

CBP カンボジアで日本食レストランにはいきますか?

エロワ 行きますよ。ただ、クオリティの差が結構あるのではないかと思います。最近はSOFITEL内のHACHIがとても良いと感じました、雰囲気ですかね。KANJIにもそしてもちろん吉野家にも行きますよ(笑)。

CBP 日本人が経営するレストランに関して思うところありますか?

エロワ 日系企業は誠実すぎるのが玉に瑕でしょうか。スキルと繊細さはあるのに活かしきれていないのではと感じます。日本に居る時と同じような感覚で経営をしていることが多く、基本的に優しすぎるしおとなしいので、もう少し自分たちの殻を破って活躍してほしいと思っています。

CBP これからカンボジアでフードビジネスをやろうとしている日本人にアドバイスをください。

エロワ 私が大事にしているポイントは以下の5つです。①パートナー選び②市場調査(市場が流動的なので時間をかけずに、でも確実に)③ターゲットになりうる客層の話を聴きまくる④ローカルのアドバイスを聴く⑤(投入するサービスが)ユニークであるかどうかもちろん、他にもたくさんあるのですが、上記に共通していることは、自国でうまくいっているものを安易に持ち込むのではなく、しっかりと現地に合わせてサービスを行うということです。そのためには先入観を捨て、まずはターゲットに寄り添っていくことが大事だと思います。

CBP 今日は貴重なお話をありがとうございました。

エロワ こちらこそ、美味しい評判の日本食レストランがあれば教えてください。必ずいきますから(笑)。
(インタビュー・翻訳:崎枝百合香)

2015/11/09




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