1人当たりGDPも1,081ドル(2014年推定値)といよいよ1,000ドルを超え、IMFの経済見通しでも今後5年は7%台の経済成長が続くと予想される新興国カンボジア。新興国経済が盛り上がる初期段階の定石とも言える金融・不動産マーケットの活況のなか、今まさに現地富裕層から外国人投資家・企業まで数多くの参加者で熱狂する不動産マーケットを俯瞰する。
多くのアジア諸国でそうであるように、以前はカンボジアでも外国人による不動産所有は法的に認められていなかった。それが2010年5月に制定された外国人区分所有法によって外国人による不動産の特別区分所有権(建物2階以上のみ)が認められるようになり、また2013年1月に民法関連不動産登記共同省令が発令されたことで不動産所有に関する必要関連法令がほぼ過不足なく整備されるに至った。
具体的には、カンボジア民法により不動産所有権の移転や永借権・用益権・地役権・質権・抵当権・根抵当権等の物権の設定・変更・抹消に関する登記手続き等が全て規定される事となった。
この共同省令の全面適用が開始された2013年7月29日こそが、外国人がカンボジアの国内不動産購入を安心して検討できるレベルの環境がようやく整備された“元年(元日)”と言える(運用が上手くされるかどうかは別)。
無論それ以前から所有権が確立されていない契約ベースの不動産投資は活発に行われていた。それらは法的側面から見れば「不動産投資」と銘打つよりも「不動産価格変動に連動する投資商品」という描写の方が正確かも知れない。
「日本でいう不動産購入と同等な諸権利の取得・保全が法的に保証されるわけではない」という事実を正確に踏まえた上で(そういう説明を事前に受けて理解した上で)、「カンボジアの経済成長がプラスに伸びる方向に賭ける不動産価格連動型ハイリスク・ハイリターン投資」という性格の商品と見るべきだろう(※以下「カンボジア不動産投資」とは上述の性格を加味した投資商品の呼称として読んで頂きたい)。
本稿がこの投資商品としての性格について敢えて詳細に記述している理由は、外国人による不動産所有の法整備が整備された今であっても、カンボジア不動産投資においてはほぼ必ず、この性格をしっかり理解しておく必要性が伴ってくるからだ。以下、代表的な投資対象別に概要を眺めてみたい。
まず外国人による特別区分所有が認められたという法的背景を持つ「建物2階以上部分」について。代表的なものは高層コンドミニアムの2階以上のユニット(部屋)を分譲購入する形式だ。
ここ数年、首都プノンペンを中心として現地富裕層や在住外国人をターゲットとした高級コンドミニアムの建設ラッシュが続いている。イオンモール1号店のすぐ近くに建つ「ローズ・コンド」(352戸)や首都中心地ボンケンコン1の「デ・キャッスル」(414戸)など先行開発され既に完成している大型高級コンドミニアムではすでに富裕層・外国人の入居も始まっており、家賃相場は低層か高層かなど諸条件によるが大体月額1,200ドル~3,000ドル程度。
2017年~2020年完成予定の大型コンドミニアム・宅地開発プロジェクトも数多く進んでおり、最近では日本の不動産開発・投資会社クリード・グループがプノンペン近郊で合計26ha・2,309戸にもなる3つの大型宅地開発プロジェクトを発表、その第1弾となる「ボダイジュ・レジデンス」(928戸)の予約販売を開始し、日本企業による大型開発プロジェクトとして現地でも大きな話題となった。
これら大型開発プロジェクトは、その立地によって周辺地域の価値や人の流れを変えてしまう影響力を持っている。クリード・グループによる宅地開発事業の立地は、先日発表された2018年夏開業予定のイオンモール2号店とともに従来のプノンペン中心地と言われるエリアより10kmほど北寄りの新興開発エリアにあたる。日系大手2社がプノンペンの新たな新都心の目玉スポットを開発しているような格好だ。
このプノンペン北部近郊は、既に国内外資本によるニュータウン開発、住宅地開発や道路・交通整備が活発に行われているエリアであり、すでに事情通の現地富裕層や専門業者は先行して土地・建物の購入に走っている。
さてこれら高級コンドミニアムの分譲ユニット(部屋)を日本人含む外国人が買おうとした場合、具体的にどのような話になるのだろう。ここで知っておくべきなのは、カンボジア含む東南アジアでは一般的となっている「プレビルド方式」と呼ばれる購入方法だ。
開発業者(もしくは販売業者)は着工前から図面とショールームだけで物件を売り出し、購入者はその建設進捗に合わせてお金を段階的に払って行くという方式である。
当然まだ建物が出来ていないわけだから、見栄え良いショールーム通りに本当に出来上がるのか(そもそも建物が本当に建つのか)等のリスクもある。よってその分、完成の前段階であればあるほど完成予定価格より大きく割り引かれた価格で販売される。
このプレビルド方式の大きな特徴は、購入者がその「買う権利」自体を完成前段階で売買できる事だ。つまり最後まで支払いを済ます前に、建設がある程度進んで物件価格が上がってきた段階で、他人にその権利を売り渡して、その時点までの値上がり益を享受する事もできるわけだ。(完成前の転売禁止の特約がある場合もあるので要注意。)
簡単な例で眺めてみたい。3年後完成予定の高級コンドミニアムのワンルームを予約販売が開始された直後に10万ドルで購入したAさん。プレビルド方式の分割払いで支払いを続け、1年経った時点で合計3万ドルを支払っていたが、物件価格は12万ドルに値上がっていた。そんな折に、このワンルームを12万ドルで購入したいというBさんが現れた。AさんとBさんがめでたく売買に合意したとすると、お金の動きはどうなるのか。ざっくり説明するとお金の流れは以下の通りである。
1.Aさんが今まで払った3万ドルは、BさんがAさんに支払う。これでAさんの手元には今まで支払った金額がそのまま返ってくる。
2.さらにAさんは価格上昇分(10万→12万ドル)の2万ドルをBさんから受けとる。これでAさんは購入時から転売時の価格上昇差益2万ドルの利益が確定。Bさんは上記1と合計して5万ドルをAさんに支払った事になる。
3.その後は、Aさんが開発業者に支払う予定だった7万ドルの分割返済をBさんが引き継ぐ形となる。
なお契約的には、Aさんが開発業者と締結した元々の購入契約に買い主移転のサインがなされ、Bさんと開発業者の間には新たな購入契約が締結される(3万ドルまず支払い、残り7万ドルを分割払いという内容)、というのが原則的な流れである。
仲介手数料や契約名義変更手数料等を考慮しなければ、Aさんはワンルームの値上がり差益2万ドルを享受し売り抜けた事になる。
これら高級コンドミニアム(を「買う権利」)は、完成に近づけば近づくほどその値段が高くなっていく。完成直前ともなると、購入者は完成時点の大きな値上がりを期待して売りに出さなくなる傾向がある。法的所有権を登記可能な完成物件に対する需要を見込み、完成後の高値での売買を期待するからだ。
完成物件(区分所有登記できる物件)を購入する人は、確立された区分所有権を持つオーナーとして、家賃収入などの固定収入(インカムゲイン)を期待し、さらに物件価格の上昇(キャピタルゲイン)にも期待する。
JCGroupは、カンボジアを拠点とする日系事業グループです。“Made by Japan&Cambodia”をテーマに、農業、金融、物流、IT、メディアなど幅広い分野で、“JC(Japan&Cambodia)”による共同事業を展開します。
http://jcgroup.asia/
早稲田大学政経学部経済学科を卒業後、日本の大手監査法人、戦略コンサルティング兼ベンチャーキャピタル(一部上場企業 執行役員)を経て、2008年カンボジアにて日系事業グループ「JCグループ」を創業。日本公認会計士・米国ワシントン州公認会計士。
聞き手 ココチカムデザイン CEO 河内 利成氏 専門分野である建築でカンボジアを盛り上げていきたいと、2013年にカンボジア進出。コンドミニアムから公共施設まで幅広く手がけ、カンボジアを拠点に、ラオス、シンガポールなど … [続きを読む]