カンボジアに進出する日系企業のための
B2Bガイドブック WEB版

聞き手
ココチカムデザイン CEO
河内 利成氏

専門分野である建築でカンボジアを盛り上げていきたいと、2013年にカンボジア進出。コンドミニアムから公共施設まで幅広く手がけ、カンボジアを拠点に、ラオス、シンガポールなど、ASEANに活動の場を広げている。大阪府出身の44歳。

今号の注目パーソン
IKTT(Institute for Khmer Traditional
Textiles: クメール伝統織物研究所) 代表
森本 喜久男氏

内戦下で途絶えかけていたカンボジア伝統の絹織物の復興と、養蚕の再開に取り組む。2003年、「伝統の森・再生計画」に着手。約200人が暮らす村として成長し、行政的認可も取得。京都府出身の67歳。クメール伝統織物研究所 http://www.iktt.org

「建築やインテリアデザインを通して、街や地域、そこに住む人を元気にする」をカンボジアで実践する人たちをご紹介します。
シェムリアップ郊外にある、「伝統の森」。森本喜久男氏は、カンボジア伝統織物の復興と活性化のために、荒地を拓き、一からの村づくりに着手しました。地域に根付き、周囲を巻き込むその活動は、地域活性化だけでなく、カンボジアでの事業、生き方にまでおよぶ、たくさんのヒントが詰まっていました。
森づくりのはじまり

森本: 内戦で途絶えかけていた、世界有数のカンボジア伝統織物の世界。それがもう一度再現できれば、もう一回世界トップになれる、と想定しました。それが20年前のことです。わずかだけどまだ村に残っている、マニュアルも図案集もなく、お母さんから娘さんに伝承されてきた「手の記憶」をたどって、それこそジグソーパズルの一片一片を集めていくような、「伝統の掘り起こし」をしました。それが最初の5年間です。

河内: 5年ですか。執念がないとなかなかそこまでたどり着けないですよね。

森本: そして2000年からシェムリアップに移って、次の展開である、「伝統の活性化」に取りかかりました。内戦の二十数年の間、染め織りの技術がちょうどひと世代抜けているんです。それをもう一度、次の世代に伝えていく。それが第二段階です。それとともに、豊かな自然環境があることで、豊かな織物が作られていた、その豊かな自然環境をもう一度再生したいと考え始めました。
 私が突然、森をつくりたい、森をつくるんだ、って言い始めて。そうするとね、織物と森って普通はつながらないでしょ? 友達がみんな心配してね。なんか森本が変なこと言い出したぞ、って心配してくれた(笑)
 いい布はいい土からできている。「ファッション・フロム・アース」って私たちは言うんですよ。土から生まれるファッション。それがいま、私たちがやってることなんです。

河内: いい言葉ですね。環境から育てていって、たどりつけるんですね。

森本: 昔の人の知恵を取り戻そうとすればするほど、自然とつながっていく。逆に言えば、自然から、土からすべて生まれているわけです。だから、そこに帰っていかざるを得ない。自然から色を、繊維をもらう。
 いまこの村はね、世界でもトップレベルといわれる布を作れるようになった。この村にあるものだけで、そういうものが作れる環境を、この10年で私たちは取り戻したんです。

河内: 大変困難な道のりだったのではないですか?

森本: 私ね、いいふうにしか解釈しないんです。転んでも、何かをつかんで立ち上がる。マイナスごとでも、意識的にプラスごとに転換していく習慣がついている。落ち込んでも、いまはどん底で、あとは上がるだけだって考える。同じ状況にいても、どう考えるかで、次のアクションが違ってくる。常に前に進む方法を探すんです。

河内: 気の持ちようで変えていけるんですね。

森本: 問題があるから仕事がある。その問題をどうしたら解決できるかっていうのが、私の仕事ですよ。今でもいろんな問題が山のようにある。それとどう向き合って解決していくか、どう達成していくかということが仕事です。だから私は、問題もすべてボジティブに考えています(笑)。

「面」ではなく、「点」をつくる

河内: お話しをお聞きしていて、織物がベースにはあるんだけど、視点としては見る世界がもっと広くて、プロデューサーのような立ち位置でいらっしゃるんだと感じました。

森本: 私がいい織物を作りたいと思っても、いい織り手がいないと織れないですよね。織るためには、いい糸が欲しい、いい色が欲しい。だから私は、カンボジアじゅうを調査でまわったときに出会った、20年、30年の経験やキャリアを持った人たちにこの村に集まってもらった。ここは、カンボジアでもトップレベルの職能集団が集まった村なんです。だから世界でトップレベルの織物が作れる。そういう意味では、私はプロデューサーですね。

河内: 最終形が見えているんですね。地域の素材や特性を最大限に生かしてやる。で、おばあちゃんを引っ張ってきて、ノウハウやパーツを集めてきて。まさにそのことが、地域活性化だけでなく、ほかの部分でも生かせる仕組みだと思いました。特に会社の経営という点で聞いていて、マネジメントをうまくされていると感じました。

森本: まず、「面」で考えずに、「点」で考えるといいと思います。点で考えて、目標に向かう。日本では面でやろうとすると、意見がまとまらずに進みにくいでしょう? 点から面にするのが一番早いと思います。そのあと、他の人を巻き込んでいく。まずは、核になる人が重要になります。

本質を見抜いたマネジメント

河内: うちはデザインの仕事なんですけど、スタッフの意識を変える難しさは日々感じています。

森本: やりたくないことをいやいややっていたら、力が半減しますよね。うちはみんな、やりたいことをやっている。いまここにいる200人は、好きな仕事をやっている。それは、倍とは言わないけれど、300人ぶんの仕事をやっているかもしれないと私は理解しています。
 うちは生産管理部があって、それぞれの仕事量を記録しているんです。でもノルマはない。ただ把握するためだけにやっているんです。

河内: カンボジア人の本質を見抜いたうえで、マネジメントされているんですね。僕は日本人で、変に日本式経営っていう頭があるので、余計に現地に適した考え方から遠くなっているのかもしれません。

森本: 人間ってね、固定して考えがちでしょ。私はそれをしない。フレキシブルな状態でいます。相手も自分も常に変化してると思うと、気が楽になります。逆に状態をキープするって考えると、それは無理があるときがある。そして達成する喜びがあるから、常に次の動きや目標を、自分で設定しながらやっています。1、2年でできることもあれば、5年、10年かかることもある。それぞれに必要なスパンがあるから、1、2年でできなくても、別に気にならないんです。

河内: 僕たち焦りすぎかな(笑)。今日は悩んでいたことにたくさん答えをもらったような気持ちです。ありがとうございました。




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