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業界別インタビュー

2017年2月15日

分離発注で見つけた建設労働者の真の姿、「彼らに夢を与えなければ」[建設・内装] 谷俊二(1/2)

建築・内装

タニチュウ・アセットメント Tanichu Assetment
CEO: 谷俊二 Tani Shunji
阪神淡路大震災をきっかけに飛び込んでから、建設業界で20年。先日、建設していたコンドミニアム「Jタワー」をボンケンコン地区に完成させたタニチュウ・アセットメントの谷俊二CEOに、建設工程からカンボジア人の仕事にいたるまで、詳しくお話していただいた。谷氏のようにあらゆる場面で相手の立場を想像することが、カンボジアでも日本レベルの快適な住環境を提供できる鍵かもしれない。(取材日/2016年9月)
サービスアパートメント「Jシティ」の完成

―――1年前のインタビューの時には建設許可について主にお伺いしましたが、今回は建設する上での苦労話や創意工夫した点などお伺いできればと思っています。まずは、サービスアパートメント「Jシティ」の完成、おめでとうございます。感想をいただけますでしょうか

谷 俊二(以下、谷) ありがとうございます。コンドミニアムを建設し終えての感想ですが、カンボジアのワーカーの仕事に対する意欲とか勤労という面では今回100%満足できたということです。世間で言うカンボジア人のイメージとは違いますね。むしろ、日系企業ということで信用してメーカーやワーカーに振り回されてしまいました。日本人なのに納期を守らないというのがあって、工事が何ヶ月も遅れてしまったのは意外でした。僕らは建設するにあたって、どこかの工務店と契約するという有りがちな方法ではなくて、各作業分野ごとに直接、職人やワーカーに分離発注しました。マネジメントを自分たちで行った分だけ大変でしたが、気がついた点を直ぐに指摘できますし、契約先の会社の事情で遅れるということはほとんど無かったですね。


―――分離発注することで、順調に進めることができたということですね

 まったく問題が無かったですね。一部だけ上手く段取りがつかないことがあったくらいです。カンボジア人はよく休むと言われていますが、僕らにとって彼らとすれば、1人のワーカーと言えども一人親方、社長と一緒ですから、仕事が遅れていれば納期に合わせるために夜中まで作業をしてくれました。

失敗リスクはあってもやってみようと思った

―――分離発注というやり方は、カンボジアではポピュラーでしょうか

 恐らく僕らが初めてじゃないでしょうか。私の会社自体が小さな組織なので小回りが効きますので、そういう決断ができたんだと思います。やっぱり日系建設会社でも下請け会社にやらせる形が一般的だと思うのですが、大きい会社なら予算もありますから、それも良いと思います。僕らも同じように、カンボジアの工務店に見積を出してもらったんですが、単価が全然合わない。確かに日本よりは安いけど、この金額でやるならカンボジアの工務店にわざわざ頼まないという価格です。

 また、僕らのような小さな会社では、1回でも下請け先に持ち逃げされたり、不渡りをされるともう大変です。事業計画自体がかなり苦しいところから始まってしまいます。

 例えば、全体の金額の20%の金額を先に渡す必要があったりしますが、ローカルの人間に1度に大きなお金を渡す勇気が無かったですね。Jシティの規模なら手付金が40万ドルくらいの計算ですが、そんな金額を一度に渡せません。不渡り、持ち逃げがあったとしても、1万ドルくらいで抑えようと思い、支払いをより小さくするために職種ごとに発注しようと決断しました。中間利益を認めたくなかったので、少々失敗のリスクはあってもやってみようと思いました。

分離発注では建設作業全体を把握することが重要

―――結果的に分離発注したことが、良い形に繋がったということですね

 はい。コストも抑えられるので利益面でも良いですよね。そして、僕らの会社そのものが、それこそ建設会社のようなもので、一つのチームができたわけです。どこでもいつでも発注があれば同じようなことができます。現に、最近私がここでお会いする人からは、同じようなものを建てて欲しいという依頼が多いです。いずれにせよ、実際に、現物として3棟あるという実績は大きな信用になりました。


―――それは大きな信用になりますよね。その信用を得るまでにかなり苦労されているかと思いますが

 はい。いま、49歳ですが、毎日が半泣きですよ(笑)

―――分離発注にメリットが大きいのなら、今後は他の会社も同じ手法をとるのではないでしょうか

 そうですね。しかし、分離発注で一番大切だと思うことは、建設の作業全体を知り尽くしていることです。そうでないと、マネジメントは難しいと思います。大手の建設会社ほど部署ごとに役割が細分化されていますが、一方で僕たちは支払い、現場の管理、ワーカーとの折衝、それも機嫌とりや、現場の掃除に至るまで自分たちでやっています。

 そこに思い切って踏み込めるかどうか。踏み込んだ先には、カンボジアの建設労働者は実は真面目で勤勉であると知ることができます。本当に100%満足しています。やる気がある人間が集まってくれば、仕事は一生懸命やってくれます。もちろん、あかんなと思ったら切ることもあります。

 いずれにせよ、大手建設会社に任せればワーカーに直接物事を言う機会がなくなります。ワーカーと接する機会があるからこそ、「え?こんな工事の仕方をしてるの?」と気がついた時点で直ぐに工事のやり方を教えたりもできます。僕は前回のインタビューでもお話しましたが、阪神淡路大震災の復興工事以来一通りを経験しましたから教えられるんです。例えば、コーティングの目地なんかも、食器洗い洗剤を手に付けてぴよーんってやったら一発で綺麗な目地ができるんですよ。彼らは何回もやるから汚くなるんですけど、私がやり方を教えたらびっくりした顔しているんですよ(笑)。

あだ名は「ワーワー」

―――カンボジア人を使う日本人が、谷さんと違う印象を持ってしまうのは、なぜだと思いますか

 やっぱり、彼らに夢を与えてないからではないでしょうか。僕らは中間業者を省いています。例えば、中間業者が入れば彼らは5ドルしか貰えなかったけど、中間を省いたら8~10ドル貰える可能性がある。職人らにとっては利益にもなるし、お金もしっかり払ってくれる。やっぱり安心して働けるので、やりがいも出るし、結果として仕事を真面目に頑張ってくれます。

 現場での私のあだ名は「ワーワー」です(笑)。現場にいると、ワーワーとうるさく言うからです。だけど、彼らはきっちり働いてくれます。支払いもきっちりしているし、他の現場よりも条件が良いからです。他の現場では工場などでも、やれ最低賃金がいくらにするとか、安くすることばかり考えています。良い仕事をしてもらおうと思ったら、僕はむしろ少しでも待遇を良くしたいと考えます。それでなければ、なぜそんな危険で大変な建設の仕事を納期厳守しようと遅くまで頑張っていると思いますか? 僕は建設現場をそう見ています。(取材日/2016年9月)
次回へ続く


タニチュウ・アセットメント Tanichu Assetment
事業内容:不動産開発・仲介
URL: http://www.tanichuassetment.com
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