2016年1月14日
(前編からの続き)
――大石さんが推進されておられるビジネス日本語検定というのは、従来の日本語能力検定とはどこが違うんでしょうか
大石安慧(以下、大石) 日本語能力検定はただの日本語ですから、日本語の先生になるだけならそれでも良いでしょうね。でも、ビジネス日本語検定というのは働く人のためにあります。製造業、サービス業などあらゆる企業の現場で必要な日本語です。これは分野別日本語というんですが、ある程度一定の日本語をやりますと、職業分野別の日本語がちゃんとあります。それがビジネス日本語という分野です。
カンボジア教育省と相談して、2年間はモデルケースとして無料で日本語を教え、年2回の検定試験を行いました。これまで700点以上とった方が16人おります。1回の検定試験に最大で185名のカンボジア人が受験しています。今後は300名以上の方が受験するようにしたいです。
――ビジネス日本語検定のその他の特長はなんでしょうか
大石 私たちNGOの会長が中国でもビジネス日本語を教えていますが、当時首相であった温家宝氏の意向もあり中国全土21校で実施していますが、500点以上の方にはビザが発給されています。カンボジアでこの検定試験に300~350名もの方が受験するまでに成長できれば、今後はビザの発給が認められる期待が持てます。高得点のカンボジア人にはビザが出る、そのようになれば日本語を勉強しているカンボジア人のモチベーションは上がります。ASEANで実施しているのはうちだけなので地味ですが大事な仕事だと思っています。
――現在、カンボジア人が日本に長期滞在するためには、就労ビザや留学ビザ、技能実習生ぐらですね
大石 カンボジア人の場合、現実的には日本に行くには留学か技能実習生です。しかし、留学の場合、国費留学できるのは年に1~2人程度で私費や他の奨学金で行ける方はごく僅かですね。しかも、これらの滞在は一度きりものです。ビジネス日本語というスキルによりビザが発給されれば何度でも日本に行き来できます。
私たちの支援のもと、ビジネス日本語を教えている大学は、プノンペン大学、NUM大学、農業大学、NIPの4校です。例えば、プノンペン大学の生徒は80名近くの方が毎回受験しています。もちろん、これらの大学だけに限定したものではなく、既に日系企業などで日本語スキルを武器に働いている日本語人材の方々にも受けてもらいたいです。
試験のやり方としては、聴解や読解など全て踏まえていますが、初級・中級・上級というように試験内容を分けていません。同じ試験問題を全員が受験することで、能力の判定が公平に行えると考えています。なぜなら、ビジネスの現場は初級や中級などと別れているわけではありません。ビジネス活動が本当にできるかどうかが大事なんです。
――需要が延びると思いますが、日本語だけできてなぜか自信を持っている
大石 そうですね。彼らは日本語ができるだけで「給料300ドルください」などと言うので私は生意気だと言っています。そんなことは日本ではありえません。どんな思いで日本の学生たちが就職活動をしているのか。彼らは思い上がっています。それはいけないと、そういう人たちこそ受験してもらって、ショックを受けてもらいたい。そこから這い上がった人が本当の人材ですから。根性がないと。私はジャパニーズスピリッツを教えたい。どうして日本がここまでの経済大国になってきたかと言えば、多くの人の汗と涙のうえで成って来たんです。本来はカンボジアもそうです。今は悠々とやっているようですが、外国資本のお陰です。外資がいなくなったら何もない、砂漠も同然ですよ。ですから、彼らに日本企業で働いて、力を付けて起業できるような、自立できるような人間になりなさいと私は言いたいんです。
――実際のテスト問題を見てみましたが、結構難しいですね。半導体などの難しい単語も出てきますが、カンボジア人は読めるのでしょうか
大石 私たちは効率的に勉強してもらうために検定試験向けの問題集も作成しています。また、受験に向けた傾向と対策を説明する講習会も開催しています。
――受験された方などからの反響はいかがでしょうか
大石 ある製造業の会社では日本語人材10人全員を、J5(701点以上)かJ6(851点以上)にするという目標で検定に取り組まれておられるそうです。やはり、高得点をとった分、自信が湧きますから本人たちの自覚も違ってくるそうです。また、検定の結果に応じて昇給させているそうです。感情的なことなどで給料を上げるでなく、仕事ができるという判断の基準の一つになっていると思います。また、ある旅行会社では3人受験して頂きました。1人がJ4(501点以上)で、ほか2人がJ3(301点以上)だったので、J4をとった方は自覚を持ち先頭をきってカウンター業務をこなしているそうで、社長の方にも大いに喜んで頂きました。
検定の告知ポスターだけみると、何だろうなぁと思われるようですけれども、これからのカンボジアのビジネス社会の基盤を作っていく一つの基準になってくれたらと思っています。(取材日/2015年10月)