2018年2月16日
――カンボジアにおける会計制度や税制度の現状について、教えてください。また、その中で注目している新たな動きがあれば、教えてください。
宮田 智広(以下、宮田) カンボジア税務の特徴として、税制度の大枠の整備はされているものの細則の整備が遅れており、税解釈が多岐にわたることが多いことから納税に対する予見が困難であることが挙げられます。契約書や請求書等の関連証憑の整備や当局への論理的な説明を怠ると思わぬところで追徴税等の税コストがかかる可能性があります。
2017年10月10日に経済財政省から移転価格に関するPrakas No.986が発行されました。これまでは関連当事者間取引について税務当局に再評価を行う権限を与えるという規定のみでしたが、国際税務の潮流に則りカンボジアにおいても移転価格の概念が正式に導入されることとなりました。PrakasNo.986では関連当事者の定義や許容される移転価格算定方法、移転価格の文書化の義務といった大枠が定められているのみで今後の動向を注視する必要がありますが、製造業など親会社や他の関連会社との取引の多い企業については今後関連当事者間の取引価格の適正性について説明できる体制を整備する必要性がでてくることに留意する必要があります。
経済財政相は2016年12月23日に、租税総局が各企業の租税に対する遵守度合を評価し各々企業にゴールド、シルバー、ブロンズという分類で証明書を発行すると規定する大臣令No.1536を発表しています。当該大臣令について2017年8月4日付けで経済財政省より、租税総局から租税遵守レベルの評価を受けることについてのベネフィットに関する通達No.007が発表され、各分類について発行される証明書は2年間有効であること、税務調査の頻度、付加価値税の還付についての特典が明記されました。現在カンボジアでは付加価値税の還付手続が滞っていることが問題となっていますが、当該通達をもって現状よりも改善されることが期待されます。
――会計・税務に関して、カンボジアで活動する企業が直面する問題は何ですか。
宮田 日本企業が海外進出するにあたり、本社の経理財務部門の方が常駐することは滅多にありません。そのため会計税務の知見・素養のある日本人がいない中、資金繰りの繊細なスタートアップ期などにおいて自社で会計税務を試みるも、後々申告漏れや会計と税務の不一致、必要書類の紛失などといったトラブルが発覚し、結果的に追徴課税等でコストが余計に膨らむケースがしばしばあります。ここカンボジアにおいても法制度が頻繁にアップデートされ、それがビジネスリスクにもチャンスにもなりますが、いずれにしても常に専門性の高い知識が必要になります。
――今後進出してくる日本企業が注意すべき点を教えてください。
宮田 カンボジアでは税務登録をしていない事業者も多く、そのような事業者へ商品・サービスを提供するにあたり付加価値税分を価格に転嫁できないといったケースや、関税を納付していない事業者との不当な価格競争に晒されるなど、コンプライアンス意識の高い日本企業にとって悩ましい問題が存在するのも事実です。そのため、カンボジアへの投資を検討するにあたり、自社の商品・サービスのターゲット層をとりまく外部環境について有用性のある事前調査を行いプランニングすることが肝要になります。
――カンボジアにおける会計人材の育成に際して、問題点や貴社が行っている取り組みがあれば教えてください。
宮田 カンボジアにおいて会計税務の人材はいますが、大学等での勉強や会社内の実務において税法や会計基準の理論までを考慮せず、処理の仕方だけ覚えているといった人材が多いと認識しています。会計事務所として会計人材の雇用を通じ、会計の目的や考え方を身につけていけるよう啓発していきたいと思っています。
――最後に読者に対してメッセージをお願いします。
宮田 カンボジアは目立った外資規制が少なく進出が容易な国のひとつです。しかしその進出の容易さから進出当初の管理が疎かになり税務調査で後から指摘をされるといったケースも多いので、事業計画の段階で注意すべき点を専門家に相談されることをお勧めします。(取材日:2017年10月)