2018年1月8日
――御社のサービスについて教えてください。
トーマス・ポコルニー(以下、ポルコニー) 簡単に言うと、パイペイは決済サービスのインフラです。狙いとしては、カンボジアにキャッシュレスな支払いのインフラを建設することです。弊社は、消費者と小売店やサービス業者を結びつける、モバイル決済のプラットフォームを提供しています。
――ご自身のキャリアについて教えてください。
ポルコニー 私がカンボジアに来て約7年が経ちましたが、カンボジアに来る前から決済サービスに携わっていました。カンボジアでは自らの決済サービスを立ち上げようとしていましたが、とても長い道のりでしたね。
パイペイを立ち上げる前は、大手アウトソーシング代理店であるワールドブリッジのCEOを務めていました。そこでも常に決済サービスにフォーカスを当て、中国のAlipayと同じような会社を編成しようと注力していましたね。その後偶然、現在の役員の一人に出会い、一緒に事業計画を立て、2015年12月に弊社を創業しました。創業後は、既存の法律に準拠し、ライセンス申請の準備を進める必要がありました。そして2016年11月に、カンボジア国営銀行からライセンスを取得し、加盟店での支払い、ピア・ツー・ピアでのモバイル送金、その他すべての決済サービスの提供が可能となりました。
――現在のパイペイの利用状況について教えてください。
ポルコニー パイペイのアップデート版を導入した 6月26日以降、アンドロイドとIOSの合計で6万5000以上のダウンロード、1400以上の加盟店との契約が成立しています。8月の第1週にプノンペンポストが、パイペイのサービス上の取引が100万件に達したことを報じました。しかし、現在8月28日時点ですでに約300万件の取引が行われています。このことからパイペイは急速に成長していると言えます。
――現金が主流であるカンボジアで、御社が成功を収めた理由は何でしょうか?
ポルコニー 私はカンボジアが現金の国であるということは事実である一方で、別の見方もあると思っています。確かにカンボジアでは国民の80%が口座を開設しておらず、銀行を介さないビジネスが多くあります。しかし、カンボジアの消費者が銀行口座を持っていないからといって、彼らが金融サービスを使用しないとは限りません。
電子マネー・スマートフォンなど、さまざまな分野に多くの決済サービスや送金サービスが進出しています。例えば、2007年から、主に送金事業を展開している企業が、その分野において大きな成功を収めています。銀行口座を持たない人でも、決済サービスを利用することは可能です。むしろ銀行口座を持っていないことが、新たなフィンテックや金融サービスの利用を促進しているのです。
カンボジアの市場を分析した際、最初に銀行口座の開設者数、実際の銀行利用者数を調査しました。それに加えて、銀行以外の新たな金融サービスを認知している人数を調査したところ、カンボジア人がほかの東南アジア諸国よりも認知度が高いことがわかりました。ですので、我々はカンボジア人にその機会を提供するだけで良かったのです。
カンボジアでの事業がうまくいかない人がカンボジアの環境を原因に挙げることがありますが、私は、ビジネスプランの破壊性の不足によるものだと思います。我々の業界に関わらず、ビジネスをするうえで必要なことは、サービスを利用する動機を提供することだからです。日々現金を使う生活環境下では、恐らくキャッシュレスサービスを利用する動機は見つかりません。しかし、割引、コミュニティ、支払いスピードやセキュリティといった付加価値に気が付けば興味を持ってくれるかもしれません。また、従来のサービスとの差別化も重要になります。創造的破壊の欠如が決済サービスの導入を妨げていましたが、現在カンボジアではセルカード、スマート、メットフォンに代表される4Gインターネット環境、スマートデバイスへ接続ができるインフラが整っていると考えています。
――電子商取引の促進のために、中央銀行は決済サービスプロバイダ(PSP)のライセンスを設定しました。さらに現在、政府は法律の改正を検討しています。この点に関してどのようにお考えでしょうか?
ポルコニー まだすべてが施行されていませんが、将来的にうまく機能すると思っています。すでに中央銀行が定めた規則によって、決済代行会社はライセンスの再申請をしなければなりません。以前よりもはるかに高い資本金が要求されているため、その点を懸念している企業もあります。これにより市場のプレーヤーは減るかもしれませんが、ゼロにはならないでしょう。我々はむしろ、より多くの加盟店や提携企業が増加する可能性があると考えています。
さらに、フィンテック市場における、企業の定義がより明確になりましたね。以前は、ライセンスが必要なのか、不要なのかは定かではありませんでした。民間銀行でライセンスを申請する必要があると勘違いしていた企業ももあったようです。新たな法律の制定がカンボジアのフィンテック市場を押し上げると考えています。
――カンボジアの電子商取引の拡大について、どのような見通しがたつでしょうか?
ポルコニー カンボジアの電子商取引は、6,7年前に開始されましたが、その時の大手オンラインショップ企業の事業は期待に反して成功しませんでした。私自身も小さなオンラインショップを経営していて、現在も活動していますが依然として小規模のままです。カンボジアには1500万人のオンラインユーザーがいるので、オンラインショッピングの潜在的なニーズはあると思います。しかし電子商取引の普及には時間が必要です。これには、カンボジア人の認知度や、十分な支払い方法がないという事実だけでなく、様々な要因があると考えています。
現在、新規参入企業は、カンボジア全体をカバーする巨大なオンラインショップではなく、フェイスブックなどを通して小規模なオンラインショップを運営する傾向にあります。たとえ、通りの小さなお店であっても、顧客からの評価を得て、口コミが広がれば、ほかの企業が支援してくれるでしょう。また、一般のウェブサイトやプラットフォームにおいても、人々は着実に電子商取引を利用し始めています。
また、顧客はサービスを利用する前にそのメリットを知る必要があります。カンボジアの屋外は暑いので、人々は家にとどまる傾向にあります。より快適な環境での買い物の価値はますます高まるでしょう。キャッシュレスな決済サービスの普及により、加盟店同士をつなぎ、インターネット上にコミュニティを形成することができます。お互いが手を取り合い、イノベーションにおける斬新なアイデアを出し合える企業間コミュニティの形成が、電子商取引事業の成功のカギなのではないかと思っています。
(次回へ続く)