(前編からの続き)
話は変わりますが、ひとつカンボジア事業における留意点を私の実体験を元にお話したいと思います。5年前の創業時には、まだカンボジア人向けのクーポン付きフリーペーパーはありませんでした。だからこそ日系初、カンボジア初のクープン付きフリーペーパー「Chuga-pon ちゅがぽん」事業を立ち上げたわけですが、雑誌創刊時のプロモーションイベントでの失敗談をひとつ。
私の戦略はこうでした。まず最初に圧倒的なプロモーションで一気にブランドを広げて、短期決戦で業界を作り上げてしまおうという戦略でした。予算は、創刊時のイベントだけで1400万円(笑)。内訳は、自社で製作したテレビCMを毎日ゴールデンタイムに放映、朝から晩までラジオジャック、トゥクトゥク300台に広告をつけてプノンペン市内を走らせまくりました!スタッフにはTシャツを着せ、街中いたる所のビルボード広告やデジタルサイネージもジャックし、同じ時間に複数の場所で同じCMを流し、ソリヤスーパー、シティモール、ペンシルスーパーでは、美人コンパニオンを呼んで雑誌の配布イベントなどなど。カンボジアでここまで徹底したプロモーションを行なった企業は後にも先にも弊社だけだと思います(笑)。
祭りのような1日が終わり、明日の朝には電話回線がパンクするくらい問い合わせがくると信じ、疲れ果て抜け殻のようになっているスタッフ達に無理言って出社させました。にもかかわらず、電話はワンコールも鳴らず、電話が壊れたのでは?と、電話会社に問い合わせをした位です。そうなんです、結果は大失敗に終わったんです。
この戦略、実はリクルート社がホットペッパーを創刊した時にとった手法だったのです。インパクトのあるCMをサブリミナル的に流し、徹底した広告活動、大々的な手配り配布イベントなどで一気に知名度をあげました。ですがカンボジアでは日本のやり方や価値観が必ずしもアジャストするわけではない、ただ単に日本のやり方をやってもダメだという実例です。もちろん賢明な皆さんはそんなことはお分かりだと思いますが、当時の私は無知だったのです。
この時、やはり地道にカンボジア人のニーズを探り、カンボジア人の声に耳を傾けて、時間をかけてやっていかないとだめだということを、身を持って知りました。やり続ける事!そして主役はカンボジア人であり我々はあくまで脇役であることを認識することが大事だと思います。
このような失敗を糧に、今のトゥクトゥクサービスが確立されていった経緯があります。トゥクトゥクはエリア別に管理しており、50台単位でオファーを頂いています。これだけ多くのトゥクトゥクを個人が管理することはとても大変ですから、私どもが代行しています。
単純に広告を付けて走らせているだけではだめで、継続することも大切。弊社のトゥクトゥクサービスの場合、ラックを付けてパンフレットを置くことも可能です。トゥクトゥクの広告はドライバーと直接契約で相場は7-8$ですが、弊社はクライアントから15$いただいています。高いように思うかもしれませんが、日本円ですと1500円です。何より広告掲載金額よりも、そのドライバーが広告を設置して走っているかを確認することの方が大変難しいのです。ドライバーによっては、複数の広告主と契約し、勝手に看板を取り換えており、実際、その光景を見たことがあります。やはり管理が問題なんです。弊社であれば、確実に広告を付けて走ってくれることを管理し、ドライバーも教育しています。
どの業種でもアジャストすると思いますが、半年で1ヶ月50台以上と契約し、3ヶ月ごとに広告内容を変えるのがベストです。最初は挨拶代りにロゴだけの広告でも効果的です。また、カンボジア人に好まれるデザインがあるので、ストーリー性を重視することが必要です。センスを優先した抽象的なデザインは受け入れられません。例えばiPhoneを売りたければ、iPhoneを10個並べる。はっきり言ってダサいのですが、具体的なデザインがウケるのです。日本人の感覚とうまく融合した分かりやすいデザインを心がけ、カンボジア人に受け入れられる広告作りがベストと考えます。
口コミ、バズマーケティングが有効です。例えば、2500リエルショップを誰かがやりだしたら、みんな真似します。流行りものが好きで、真似する文化です。良いもの、流行っているものはどんどん宣伝します。製造業で働くワーカーも、村に行ってコアメンバーを好待遇で働かせて、仲間を連れてこさせるという方法もある。また、クラブも好きなので、DJなどに流行らせたい携帯を無料で持たせ、あれが欲しいという気分にさせることもできる。カンボジア人の特性が分かっている人でないとできない手法です。ビジネスする側からすれば真似されるのは嫌でしょうが、最初にやったという称号が得られます。マーケットリーダーになるんだ、マーケットを作るんだという気概で、真似してもらって結構ですという気持ちでやることが重要です。また、意外とやらない日系企業が多いのですが、商標登録をしっかりと行なってブランドの保全をすることも忘れずに行なって下さい。(取材日/2014年7月)