2015年8月13日
(前編からの続き)
――次に、汚職防止ユニット(Anti Corruption Unit、以下ACU)について説明して頂けますか
リ・タイセン弁護士(以下、リ弁護士) ACUが発足して数年経ちます。汚職の蔓延する現状を打開するために設立されたのです。私はACUに対してクライアントを弁護した経験があります。私はACUは徹底的かつ緻密に事件を捜査しているし、その職員も十分な能力を持っているとの印象を持ちました。ACUはその他の捜査機関と比べるとより組織的に機能していますし、適正のある職員が配置されています。さらにACUを監督する管理評議会は、上院、国民議会、政府、司法官職高等評議会及び法・司法改革評議会などにより任命された高官によって構成されています。ACUはホームページで情報を公開しています。今までのところ、ACUは数百件の告発を受理したと聞いています。汚職を取り締まる法令はありますが、一般市民が十分に理解してそれに従って行動するのは難しい部分もあります。そこで、ACUはそれらの法令を一般に普及する役割も担っているのです。私は
ACUに対する一般市民の信頼が向上していること、ビジネス関係者と一般市民双方から汚職に対する訴えが増加していることから、ACUが扱う事件はますます増えると予測しています。私はACUの活躍に期待し、ACUが汚職をより厳しく取り締まることを望んでいます。汚職は、我々のような法律事務所、その他のビジネスの両方に悪影響を及ぼすからです。汚職に関する内部告発は著しく増えていますし、公務員の考え方も徐々に変わってきているようです。なお、手続きについては、ACUに告発された事件はACUによって捜査された後、更なる捜査・起訴・裁判のために裁判所に告発されます。
――なるほど。最近では企業間でMOUを結ぶ動きも見られますね
リ弁護士 最近、カンボジアでビジネスを展開するコカ・コーラのような国際的企業がACUとMOUを締結しています。彼らは汚職犯罪に巻き込まれるのを避けるためにACUとMOUを結ぶのです。私は、ACUとMOUを締結することは、各企業の社会的評価を高めることになるし、各企業を汚職行為に引き込もうとする者たちを遠ざけることにもなると思っています。
――経営していく上で、最も苦労した所を教えて頂けますか
リ弁護士 振り返ると我が国は内戦もありその後の苦しい時期もありました。いろんなものが未成熟な中で、法律事務所としては優れた人材を揃えなければいけません。特に香港やシンガポール、欧米等の国際企業は自国と同程度の水準を求めてきます。さらに我が国は教育機関もそうですが、裁判所や法曹養成機関を含めてまだ成長途中であり、仕組みが弱いと言えます。関係する法律が制定されていても適切に施行されていないこともあり、適切なリーガルサービス提供の妨げになる場合もあります。
もう一点、政府機関の中にもまだ弁護士の役割を十分理解していない人もいます。場合によっては互いの協力が不可欠であるにもかかわらず、役人が弁護士を信用していないがために生じる問題もあります。日本企業を始めとする多くの優良企業は法令の遵守を大前提に活動しています。法令遵守は国の信用にも関わる問題ですので、HBS LAWはコンプライアンスを重視する企業を最大限サポートしたいと思っています。
――なるほど。では、HBS Lawさんと他社との違いを教えて頂けますか
リ弁護士 HBSはHonest and Balanced Serviceの略ですので、名前のとおり誠実でバランスのとれたリーガルサービスの提供を心掛けています。HBS LAWは3名のカンボジア人弁護士パートナーにより運営されていますが、いずれも経験豊富なベテラン弁護士です。パートナーの1人は、現在、カンボジア王国弁護士会の会長を務めています。私たちの事務所ではカンボジア人だけでなく国際色豊かな法律専門家を揃えています。地域の実情に通じたカンボジア人弁護士と国際的な経験を有する外国人弁護士が力を併せて働いています。その結果として、海外の大企業を含むクライアントが増えているのだと思います。HBS LAWは大規模なM&Aや水力発電投資プロジェクトなどを担当した実績もありますし、政府機関への法的助言も行っています。
――カンボジアに進出を検討している本雑誌の読者に対して、何かアドバイスはありますか
リ弁護士 そうですね。カンボジアへの進出を検討されている投資家にはまずきちんとした法律事務所に相談することをお勧めします。また、日系企業の方であれば、JICA、JETRO、大使館などの公的機関からの情報収集も有効だと思います。さらにコンプライアンスの追求も重要です。最近では徐々に関係者の意識も改善されて法律がより厳格に適用されるようになってきています。ですので、初めから法令を遵守した組織づくり、活動を心掛けるべきだと思います。そのためにも弁護士の手助けが必要です。
――ありがとうございます。最後に、日本の読者にメッセージをお願いします
リ弁護士 私自身、名古屋大学大学院に留学して修士号を取得した経験から日本への愛情があり日系企業の投資の増加を願っています。同じアジアの国としての共通点もありますし、カンボジア人は日本人が好きですし信頼しています。カンボジア政府も日系企業の投資に期待しており色々と手助けしてくれると言えます。
現在カンボジアの投資法を改善する動きがあり、投資へのインセンティブはより増していくと思われます。さらに最近は政情も安定していますから、カンボジアは今後益々有望なマーケットだと思います。(取材日/2015年3月)