2017年8月13日
――金融業界、証券取引、不動産投資において、最近のホットトピックスと投資家が注意するべき点をそれぞれ教えて下さい
リ・タイセン弁護士(以下、リ弁護士) 例えば、三井住友銀行によるアクレダ銀行への出資など、日本人投資家は銀行やマイクロファイナンス機関への投資に意欲的です。三菱東京UFJ銀行の連結子会社であるタイ国のアユタヤ銀行によるハッタカクセカー・マイクロファイナンスの株式取得などもその一例と言えるでしょう。
証券取引に興味を持つ方は着実に増加しており、私たちは株式売買を目的とする方の銀行口座開設のサポートも提供しています。今後、大企業の株式上場があれば株式取引に関心を持つ投資家が増えるでしょう。
現在、カンボジア証券取引所(CSX)には4社が上場しています。HBS LAWは、記念すべき第1社目のプノンペン水道公社(PPWSA)のアドバイザーを務めました。2社目は台湾系の縫製工場であるグランドツインズインターナショナル(GTI)。3社目はプノンペン港湾公社(PPAP)、そして今年上場を果たしたプノンペン経済特区(PPSEZ)と続きます。プノンペン経済特区のマネージングダイレターは日本人ですし、例えば味の素などの日本企業の工場もあるので、日本人投資家の関心も高いのではないでしょうか。
最近では、HBS LAWはシアヌークビル港湾公社のカンボジア証券取引所への上場についてアドバイスしています。なお、シアヌークビル港はJICAや国際協力銀行(JBIC)を通じた日本政府によるODA援助を受けています。上場企業の増加により、カンボジアの証券取引は、益々投資家の注目を集めるでしょう。
また、政府は証券取引に関する税の優遇措置を取っています。非居住者への配当は14%の源泉徴収税の対象ですが、カンボジア証券取引所に上場している会社の株を保有する投資家への配当については源泉徴収税が50%免除されます。また、上場会社は法人税の50%免除を3年間受けることができます。ですので、上場に関心を持つ企業が増えていますし、政府としても奨励しています。
不動産投資ですが、ご覧のとおり空港から市街地まで、新しいビルが続々と建設されています。例えば、空港前の大規模コンドミニアムを手掛けるクリードなど、日系企業によるホテルやサービスアパートメントの建設が続いています。イオンモールは今やプノンペンのランドマークとして機能していますし、先日2号店の計画が発表されました。HBS LAWはイオン・イオンモールにもアドバイスしています。さらに、2016年末までにロシア通り沿いにパークソンデパートメントが開店予定です。
近時、プノンペン中心部だけでなく、郊外の発展も加速しています。それに伴って、コンドミニアムや店舗の建設が増えています。現在、政府が力を入れているのは、ミドルクラス層のための開発です。これまで、海外投資家向けの高級コンドミニアムの開発が多かったのですが、今後、ミドルクラス向けの住宅開発が進むのではないでしょうか。これも投資として非常に面白い分野です。
プノンペン市外で言うと、シアヌークビルは投資家にとって魅力的な土地でしょう。政府はシアヌークビルのインフラや観光業の発展に力を入れています。複数の投資家による高級ホテルの建設なども始まっています。それに伴い、周辺の不動産価格も上昇しています。シアヌークビル港近辺のインフラ・観光地の発展・整備も進んでいます。 シアヌークビルには国際空港があり、ハノイやホーチミン、バンコク、シンガポールからの直行便があります。海外沿いの物件などは特に良い投資案件だと思います。シアヌークビルには経済特区もあります。同経済特区はシアヌークビル港湾公社により運営されています。インフラも整備され、貿易のアクセスも他に比べて、かなり良いですね。なので、シアヌークビルは投資先として有望だと思います。
――投資先として、ベトナムなどがカンボジアの競合相手となり得ますが、カンボジアの優位性は何でしょうか。特に最近話題の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)についてどう思われますか?(ベトナムは加盟しており、カンボジアは協議中)
リ弁護士 米国の次期大統領が決まるまで、TPPがどうなるかやその影響についてははっきりしません。現段階では、トランプ氏もヒラリー氏もTPPの批准に反対しています。トランプ氏が大統領になれば米国はTPPを批准しないでしょうし、ヒラリー氏が大統領になれば批准するかもしれませんが現時点では不明確ですね。
カンボジアは東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国です。ASEANは既にEUや米国と貿易条約を結んでいます。我々は1つの大きなチームです。もちろん、カンボジア政府はTPP加盟を検討していますし、メリットが大きいと判断すれば、政府も積極的に動くでしょう。
現在カンボジアは、積極的に投資を受入れており、投資先としてより魅力的になるため、政府としても、税法及び投資法の改正を検討中です。おそらく来年には、税法と投資法が改正されるでしょう。現在、投資優遇措置に基づく法人税免除期間は業種によって6年から9年ですが、将来、さらに有利な措置が導入されるでしょう。
また、カンボジアの魅力の1つは政治的な安定ですね。しかし、急激な賃金上昇は懸念材料です。現在の最低賃金は140ドルですが、来年の最低賃金は150ドル以上になるでしょう。しかし、2017年に新しい発電所が稼動して電力の供給量が増加するのに伴って電気代は下がるでしょう。
インフラ整備も進んでいます。現在、大手企業は、東南アジアの足場として、バンコク、マレーシア、インドネシアなどに事務所を構えていますが、近時、カンボジアにも事務所を設置することを検討する企業が増えています。また、近隣諸国との距離の近さもカンボジアの魅力です。例えば、カンボジアで製品を作り、ベトナムで組み立てるなどが可能です。シアヌークビル港からシンガポール、タイ、ベトナムまで遠くないですし、航空便の場合、東南アジアのほとんどの国に2時間もあれば行くことができます。カンボジアは東南アジア全体の物流の拠点となり得ます。
現在、ボンケンコン地区を中心に数多くの日本食レストランがあります。イオンモールでは、多くのカンボジア人が日本の製品を買って、日本食を楽しんでいます。日本とカンボジアの関係は良好でカンボジア人は日本人を信頼しています。政府間の関係も良好です。カンボジアは全ての投資家を歓迎しますが、特に長期的戦略的パートナーとして日本企業の投資が増えることを願っています。
先日、驚いたことがありました。日本大使との会食に招待された際、20名程度のカンボジア人が参加したのですが、その内12人が日本の大学や大学院を卒業していました。日本で博士号や修士号を取得した人、また日本の大学で教鞭を取っている人もいます。私も2001年から2003年まで名古屋大学大学院に留学して法学修士号を取得しました。私が卒業したのは2003年ですが、今年2016年まで引き続き、毎年30人から40人の学生が日本政府の提供する奨学金で日本の大学や大学院に留学しています。名古屋大学だけでも100人程度のカンボジア人卒業生がおり、他の大学を含めると300人程度のカンボジア人が日本に留学した経験があります。 日本とカンボジアの間には、長い歴史があるんですね。人材への投資は長期投資です。カンボジア人は、日本人や日本政府に非常に感謝しています。私も個人的に日本への思い入れがあります。現在、多くの日系企業の方々にHBS LAWをご信頼いただき一緒にお仕事をさせていただけることを非常に嬉しく思っています。今後も日本人や日系企業の方々の期待に答えることのできる法的サービスを提供していきたいと思っています。
(次回へ続く)