2017年9月4日
――自己紹介と会社紹介をお願いします
安藤理智(以下、安藤) 会社名はカンボディアン・インプレス・サービス株式会社で、現在 EZCASタックス・サービス株式会社という会社を設立中で、ちょうど登記の真最中です。メインとしては、ビジネスコンサルティングの会社で、カンボジア進出における会社の税務のサポートをする会社ですね。私自身、東南アジアで17年ほどビジネスをしており、タイで17年、カンボジアでは調査期間を含めると3年になります。
タイからカンボジアへ来たのは、違う業種ですが、カンボジアに進出しませんかという誘いがあったのがきっかけです。ちょうど20年前のタイと重なる部分があり、この国は魅力的だなと思いました。タイも昔は何もなく、それが先進国に近づくのを見てきました。ひょっとしたらこの国もと思ったからですね。伸びていく過程を知っているような感覚を覚え、カンボジアでやってみようと思いました。
――この度、新しい税務サービスを始められたとのことですが、開発の背景とサービスの強みを教えて下さい
安藤 カンボジアは、日本とはずいぶん違う税務システムで、正直良く分からないと感じている声を多く聞きました。私進出にあたりいくつかのローカルのコンサルティング会社回りましたが、十分に納得のいく説明は得られなかったんです。一番ひどい例では、Withholding TAXの概念が間違っているコンサル会社もありました。どうやら、税金に対する計算が非常に怪しい、税務に対する理解が薄い。その時に、皆さんきっと困っているだろうなと思ったのが開発のきっかけです。
また、ビジネスの成功のカギの1つは、いかにコストを抑えて耐久時間を延ばすかです。この国に莫大なマーケットがあり、当初から月の利益が見込めるならばいいのですが、特にスタートアップでは、出来ればコストをかけたくない。しかし、日系企業に依頼するとどうしても割高になってしまいます。そのため、費用面でも導入しやすい金額にしました。
初めは、進出サポートをメインにしようとしていましたが、途中で税務という問題にぶちあたった。とにかく、誰もが簡単に使えるような納税のシステムを作る必要があるなと。その後、旧知の仲であった日本のシステム会社と組み、カンボジア税務に特化した会計ソフトの開発に1年かけました。ローンチは2016年10月に行いましたが、まだ機能強化をしている段階で、今年の3月末を完成目標にしています。
またこの1年間、ローカルネットワークの構築に尽力しており、会計士や税理士の有資格者の方々が、この開発に携わっています。税金に関わることなので、1つのミスも許されない。様々な方法で、デバックしています。現在は、韓国、中国、それ以外の国の方からも問い合わせがあり、この国でビジネスをする方々全てがお客様です。
――先ほど、カンボジアの税務事情がかなり曖昧だとおっしゃいましたが、そのまま納税申告しても通るのでしょうか
安藤 通っていたものが、通らなくなると思います。今後の流れの中で、税務もより厳しくなるのは間違いないですね。去年から法制度が変わって、税理士資格が出来ました。正確に言うと、TAX Agent Certification、税務のサポートをする資格です。さらに今年に入って、税金関係の業務を扱う会社は、TAX Agent Licenceの取得が義務付けられています。これは、かなり罰則が厳しく、資格のない税務コンサルに頼んだ場合、頼んだ側も受けた側も罰則が適応されるという内容です。今後、税務はますます厳しくなるでしょう。例えば2年前まで存在していたみなし税、推定課税方式も去年から廃止されています。
また、全ての事業者は税務署への登録が必須で、外国人であれば商業省へ登録した上で、毎月の納税が必要とされています。ただ、周知されていないので後々トラブルになることが多い。この国は10年間の保存義務があり、10年前に遡って税務調査が入ります。なるべく早い段階で、後で調査を受けても良いような状態にすることをおすすめしますね。
――会社としての将来の展望を教えて下さい
安藤 個々の会社様がそれぞれの強みを持ってビジネスをするのが一番良いと思っており、我々はその手助けが出来ればと思います。そのために、なるべく安いコストで導入して貰う。これは使命です。
会社としてのEZCASの普及目標としては、2018年年中に2000ユーザーですね。もちろん、現地企業や外資企業も併せてターゲットにしています。我々が現在把握している中で、カンボジア税法に合わせ、かつここまでの機能を搭載した会計ソフトはありません。また、カンボジアの税法は頻繁に変わるため、それに合わせてアップデートしていくのも特徴ですね。
――カンボジアの税務事情の問題点を教えて下さい
安藤 一番の問題点は、源泉徴収税、Withholding TAXです。特に家賃に関わるもののトラブルが一番多いですね。例えば、家賃の源泉徴収税は10%。500ドルのオフィスに入る場合、源泉徴収税は10%なので、50ドル。この50ドルは誰が払うのかというのが理解されていません。所得に対する源泉徴収なので、所得を受けた大家さんが払うべきですが、お金を払った側が徴収して、代わりに国に治めますよというのが本来のWithholding TAXです。しかし、大家さんは500ドル全て欲しいと。しかし、家主が550ドル払うと使途不明金が50ドル発生し、この50ドルはどこから出てきたんだと会計上の問題が出てきます。この場合は、契約書上は555.55ドルにして、税金55.55ドルを支払います。物件契約の段階から税務の事をよく理解して契約しないとあとあと使途不明金が発生する。これがよくある問題点ですね。いま現在、会社登記をしている会社であれば、毎月の会計で必ず発生する金額になります。
加えて、意外と問題点が起こるのが、酒類の販売で起こる税金です。これは、お酒を製造または輸入した時にかかる税金と、小売店・レストランで払う税金は違います。また、エンターテイメント施設で提供されるものにかかる税金と飲食店で提供されるものに関する税金も異なり、細かく分かれています。現状、そこまで厳密にやっているところはないですが、これが細かくみられるようになったときが怖いですね。
カンボジアでは、源泉徴収税(Withholding TAX)、VAT、前払い法人税(ミニマムタックス)、給与の所得税の4種類の税金があると言われています。給与の所得税とWithholding TAXは、源泉徴収税となるため、会社の支出ではなく、払ったうちの中から天引きしているお金です。
しかし、総じてカンボジアは、税金の計算の仕方というのがあまり根付いておらず、税金に対する理解というのが弱いですね。企業数から比べると有資格者は多くなく、たまたま大学で勉強した程度の知識の方が多いです。現在、有資格者向けの研修や、有資格者になるためのセミナーなど税務総局でもセミナーを開催しています。弊社スタッフも、大学では詳しく教わっていないため、社内の税理士が研修して教えています。
――問題点は、今後どのように変化していくと思われますか
安藤 2015年12月31日にAECが締結され、近隣諸国、アセアン域内の輸入関税が撤廃されました。これはカンボジアにとっては非常に打撃で、関税の税収である程度支えられていた財源が、無くなることを意味します。当然国が、他の税金の徴収を強化しますよね。どの国でも辿るプロセスだと思うのですが、最初から厳しく税金を取り立てていた国はありません。税金を納めていない人がたくさんいる中で、徐々に税務という概念が出てきて、公共の福祉に繋がっていく。カンボジアはちょうど、過渡期・転換期で、今後、より厳しく税務の徴収が入ってくるのは間違いないでしょう。
現に去年の税務総局の基本方針で、実地調査という項目が増え、弊社にも税務職員が来ました。1件1件回り、業種や登録の有無を確認しています。もし未払いの場合、税務総局からすると財源になり得るんです。今、カンボジアの税金は税務署で払うものではなくて、銀行で振り込むものに変わっています。そういう意味では、非常にクリアなお金の動きになりつつありますね。
――カンボジアでビジネスを行う日本企業に対して、知っておいた方が良いこと、注意点などがあれば教えて下さい
安藤 設立準備の段階で、税務会計について納得いくまで調べて欲しいですね。ただ、カンボジアの税務は非常に良く変わり、日本語で出回っている情報は基本的に古いものが多いです。常に情報のアップデートをし、最新の情報を手に入れられる体制を整えてほしいですね。
――最後に読者の方へメッセージをお願いします
安藤 何か不安があれば専門家を頼って下さいということですね。税金って、あまり払いたくないものだと思いますが、この国で仕事をさせて貰っている以上、義務だとも思います。皆さんもちろん払っているとは思いますが、後で言われる税金ほど嫌な思いをすることはないですからね。延滞税と罰金と両方が課されますから。
あとは、新規で進出される場合、最初から帳票を残すような明朗会計にすることが、そのまま自分の身を守ることに繋がります。タイでも、創業して何年か後に査察が入り、ものすごい税金を取られる、またそれが払えなくて逃げてしまう、などはよく聞きます。
また、日本の税法と比べるとカンボジアは厳しいです。日本では、領収書として認定されるものはかなり広いですが、カンボジアでは、タックスIDや住所、名前などが含まれた正式な請求書でないと、認められません。世界のスタンダードにカンボジアは近いのかな。加えて、これからさらに厳しくなります。転ばぬ先の杖。ぜひそういう風にやっていってほしいですね。(取材日/2017年4月)