【人材・コンサル】
2018年1月に発表された「人材競争力ランキング」では、カンボジアは108位(119か国中)と、前年と同位だった。「人材競争力ランキング」は、スイスに本部を置く人材サービス会社・アデコグループなどが行った国際調査を基にまとめたもので、人材の育成や獲得、維持について各国をランク付けしている。カンボジアは世界的に見ても人材の育成や獲得、維持が難しい国だと判断されていると言える。
多くの経営者はカンボジア人に対する共通した感想を持っている。彼らはフレンドリーで礼儀正しいが、上司に対する進言などは少ない。彼らは自ら話さないだけで仕事に対して想いやアイディアを持っており、それを引き出すことはとても有用なため、スタッフとよく話すようにするのが良いだろう。カンボジア人が家族主義の文化に基づいており、常に家族を第一に考えているという点に理解を深める必要がある。
カンボジア人・日本人の紹介に多数の実績と経験を持つ日系人材紹介会社クリエイティブ・ダイアモンド・リンクス(CDL)の鳴海貴紀氏は、「全てのカンボジア人スタッフは社内で必要な存在として機能しています。会社は、感情を持つ人間の集合体です。特にカンボジアのように社内でも家族のような関係性を好む文化を持つ国の場合では、管理者の知らないうちにも、スタッフ一人ひとりの能力や個性に対する相互理解によって、個々の役割は組織的に適正化されていくと考えます。それは外から与えられた会社組織という枠で起きていることではなく、人間関係の中で自然に発生した非公式な繋がりのことで、派閥という表現とも相違しており、強いて言えば、仲間意識より一段深い、家族意識に近い繋がりです。伸び悩むスタッフでも、その能力や個性に対する相互理解から自然発生的に与えられた役割の基で、社内に一定の価値を生み出している、という前提にたって管理者は人事マネジメントを行わなければならないと思います」と語る。
カンボジア人の多くが日系企業の厳しさにトラブルを抱えているというが、カンボジア人と働くうえで、理解しておくべき点として、何をしたら良いだろうか。
JICAの協力により設立され、民間セクター開発を促進するための人材育成とネットワーキングの拠点となっている施設、CJCC(カンボジア日本人材開発センター)の大西義史氏は、「日本式経営もカンボジア人の国民性に合わせてアレンジされなければならない。それにはまずカンボジアの人たちを理解しなければなりません」と語る。
ローカル系人材会社Aプラスのマネージング・ダイレクター、ソー・キナール氏は、「カンボジア人は日本の企業に、厳しくて勤勉、会社への忠誠心、長期雇用というようなイメージを持っています。しかし、日本人とカンボジア人では長期雇用の考え方は違います。また、現在の仕事よりも良い職場を見つけたら、彼らは簡単に別の会社に移ります。仕事が終わるまで夜9時、10時まで働くことは、日本でのみ可能なことです。文化の違いや安全保障上、ここカンボジアでは同じようにはいきません」と語る。
カンボジア人求職者と日系企業の場合、元々の環境や文化が異なるため働き方に対する価値観にズレが生じる。カンボジア人は何か不安を感じていても言わないことが多く、辞めたいと考える理由は、些細なことである場合が多い。日本人にとっては聞けば済むことが、なかなか聞けないというのも特徴だ。彼らが抱える不安が積み重なり、気づけば辞めていたという事態に至ってしまう場合が多く、カンボジア人の文化、考え方、そしてカンボジアはまだ成長の過程にあるということを理解することが必要だ。日本人の感覚を押し付けても、カンボジア人は受け入れられず、企業から離れていくだろう。
カンボジアは政府が定める最低賃金額に自国通貨(リエル)を使用しないため、為替が対新興国通貨でドル高となる際は、ASEAN諸国内において相対的に労働コストが高くなることを意味する。労働職業訓練省は、2018年10月省令を公布し、縫製・製靴業に従事するワーカーの2019年最低賃金を月額182ドル(試用期間中は177ドル)と定め、現行の170ドルから約7.1%の上昇となり、前年の11.1%増に比べ上昇率は抑制された。
また、カンボジア人の日本語人材はその供給不足から、英語人材と比較して賃金に倍の開きがあるといわれているが、2017年の日本語人材の給与相場(最終月給)は、日常会話レベルで330.8ドル、ビジネス会話レベルで624.1ドルだ。対前年度伸び率は日常会話レベルで-11.0%、ビジネス会話レベルで-18.1%と、前年より下落した。
特定の業種では、徐々にではあるがカンボジア人の中から高度人材も増えている。例えば、銀行業界のシニアレベルポジションでは、外国人と同額で月給8000~1万2000ドル。ホテル業界のゼネラルマネージャークラスでは、月給3000~5000ドルになる。
高度人材に特化したフランス系人材紹介会社、セイント・ブランカット&アソシエイツのオーモリー・デ・セイント・ブランカット氏は、「ホスピタリティ産業、ファイナンス産業、また、保険業界ではハイスキルなカンボジア人が増えています。しかし、製造業で探すのは難しいです。製造業ではほぼ全ての管理職は外国人に支配されています。例えば、中国、韓国、日本人。時には、フランス人などヨーロッパの人です。また、カンボジア人エンジニアを探すのはまだ難しいです。ですので、外国人から人材を探す方が、現状では、簡単です」と語る。
このように、成長産業の一部では少ない高度人材の取り合いにより給与相場が釣り上がっている。高度経済成長を背景に、歪な需給バランスの中で図らずも高給を掴んだ彼らの最大のスキルは、クメール語なのかもしれない。