【医療・医薬】
外国人がより安心して生活できる医療環境が整いつつある。プノンペンを中心に外国人医師・歯科医師が診療にあたる医療機関が複数存在し、様々な専門科の医師が診療を行なう。一方、カンボジア人医師の水準に関しては、2012年にようやく国家試験が一部導入され、医師の水準も低い。病院を選ぶ際は、外国人専門医師や、海外で訓練を受けたか、外国の医師免許を持っているカンボジア人医師を有し、国際標準医療を導入している医療機関を選ぶことが望ましい。
救急医療については、国内で救急治療を受けられる病院もあるが、質にはばらつきがあり、2次又は3次救急では、国外の医療適格地へ搬送される場合もある。また、高額な治療費がかかったり、輸血用血液は不足しているなど懸念も多い。政府によると2017年のカンボジアにおける交通事故死者数は1780人。死亡記録がない日はわずか3日間だった。万が一に備え、カンボジアの救急搬送手段をあらかじめ理解・確保したい。
職場環境においては、 労働職業訓練省のイット・ソムヘーン大臣は、2018年までに一定の要件に該当する工場や職場では、健診ができる体制を設けるよう求めている。カンボジアの労働法では従業員が50人以上いる企業は、緊急事態の対応のため少なくとも1人の看護師がいなければならないが、規定に準拠している工場は全体の72%に留まっている。
カンボジア初の日本人開業医である ケン・クリニックの奥澤健医師によると、「カンボジアは医師国家試験がなく、医学部を卒業すれば医師資格が得られます。また、カンボジア人医師との認識のズレはよくあります。例えば、糖尿病と診断を受けた患者で、日本では必須のHbA1cという血液検査が実施されていないことがありました。検査自体はカンボジアにも存在しているのですが、認識不足のためにこうした事例が発生したと思います」と語る。しかし、同氏は、カンボジア人医師のレベルについて、「益々海外から情報が入ってきますし、カンボジア人の優れた医師は海外での医療経験を積んだ人がほとんどですので、今後良くなっていくと思われます。」と付け加えた。
保健省によると、過去3年間の食中毒の発生件数は、2015年33件から2017年9件と減少しており、以前よりもカンボジア人の衛生への理解は高まっている。外国人は、母国とは違う環境であることを踏まえた健康管理が必要となり、衛生環境への配慮は欠かせない。
サンインターナショナルクリニック(以下、SIC)の野々村秀明医師によると、「日本人旅行者や在住者の診察をしていると、急性上気道炎・気管支炎などの呼吸器疾患と急性胃腸炎・下痢症などの消化器疾患が7割以上を占めています。これらを見ると、やはり生活環境の違いから体調を崩される方が多いようです。また、カンボジア在住歴の短い人ほど、大気汚染による咽頭痛や不衛生な飲食による下痢症などを患う傾向にあります。特に若い人は自分の健康を過信せず、現地の生活に慣れるまでは少々コスト高でも安全で清潔な生活環境を整えることが大切です」と話した。保健省は飲食店のオーナーに対し、食中毒を減らすための食品衛生に関する訓練を受けるよう即しており、全国4000軒の飲食店の約1800軒(48%)がその訓練証明書を受理しているという。
一方、急増するプノンペンのボレイや不動産開発に伴い、独立した下水道の整備が急務となっている。大雨により下水が氾濫すると、都市では悪臭がたちこめ、皮膚病が蔓延する可能性があるためだ。そんな中、日本国際協力機構(JICA)は2019年、2700万ドルをかけプノンペンのダンカオ区にカンボジア初の下水処理施設を建設する。また、農村開発省のオック・ラブン大臣は、「2025年までに農村地区に住む全てのカンボジア国民が整備された上水・下水処理設備を利用し、よりよい環境で生活することができる」と語っており、外国政府や企業による農村部の開発も進む。2015年の農村地域の上水・下水設備の整備率は約50%だったが、2017年には約60%に上昇している。
カンボジアは、熱帯モンスーン気候に属し、年間を通して高温多湿のため、デング熱・マラリアといった感染症に注意が必要だ。保健省によると、2018年のカンボジアのデング熱の感染症数は、年1万4500人の平均症例数に対し、1万7000人程度と予測されている。2月時点で、昨年同時期の350人を2倍以上上回り、引き続きピークはまだ続く予想だ。SICの野々村医師によると、「デング熱の症状は、突然の高熱・頭痛・関節痛・筋肉痛・倦怠感などで、解熱時には全身に発疹が現れることもあります。一般的な風邪症状と似ているものの、喉の痛みや咳といった呼吸器症状はあま
りないようです。時には症状がほとんど出ず、かかったことに気づかないケースもある」と、外国人にも充分な警戒が求められるという。
同氏は、「保健省は2018年にデング熱が急増する可能性を警告しています。これは、デング熱が5~6年周期で急増するデータがあり、実際、今年になってプノンペンでも感染例が多く報告されているためです。また、特に蚊が発生しやすい雨季には十分な注意が必要です。デング熱対策ですが、ワクチン接種は実施されていません。デング熱は蚊に媒介されるウイルス感染症ですから、蚊に刺されない対策が重要です」と注意を促した。政府は、4万個の静脈内液剤キットと5000リットルの農薬を各県に送り、112名の医師を派遣する。
また、世界保健機関(WHO)へ保健教育支援要請の回答を待っている。マラリアについては、マラリア対策センターは、2017年度の発生数が4万5991件、死亡数1件と発表。この件数は、村のボランティア・サービスが中止されたことにより、前年比で100%近く増加した。
ケン・クリニックの奥澤医師は、「カンボジアで体重が増加したという外国人を多く見ますが、その原因は主に食生活にあります。カンボジア人の食生活は、おかずを少なく白米を多く摂取する傾向があります。肥満、糖尿病、高血圧の主な原因は白米などの炭水化物であり、カンボジア人同様の食生活を送るとこういった病気にかかりやすくなります」と警告している。
しかし、プノンペンの在住外国人の多くはビジネスパーソンであり、忙しさゆえに不摂生に陥ることも多いだろう。SICの野々村医師は生活習慣病について、「カンボジアの在留邦人の年齢層は比較的若いため、慢性疾患の有病率は低いかもしれませんが、長期滞在する外国人には呼吸器疾患や消化器疾患、感染症など急性疾患が多いです」と語る。日々の自己管理のほか、体調に異変を感じた場合は早急に医療機関を受診することが大切だ。
ケン・クリニックの奥澤医師は、「病気だけでなく、バイク乗車中に発生する事故によるケガも多いです。車や他のバイクとの接触、スリップ、ひったくりに遭って引きずられるといったケースです。ひったくりに遭った場合、最悪肩鎖関節脱臼という鎖骨と肩甲骨の靭帯が完全に切れて深刻化する方もいます」と語る。