【医療・医薬】
労務災害などによる困窮を助けるため、NSSF(国家社会保険基金)が社会保険制度を運用している。従業員が8人以上の雇用者は基金へ登録しなければならないとされ、保険料は月額給与の0.8% (最低で約0.4ドル、最高で約2ドル)と低額だ。しかし、被保険者が治療を受けられる病院は指定されている。
労務コンサルも手がける人材会社CDL代表の鳴海貴紀氏は、「NSSFの指定病院は従業員が掛かりたい病院と必ずしも一致しません。また、政府の制度運営能力や基金の適正管理に疑念がもたれるため、今のところ加入のメリットは限定されるでしょう」と話す。
また同氏は、「労働災害の定義や補償義務は労働法で定められていますが、補償基準などが定められておらず、労災補償の交渉は事例ごとに当事者間で個別に行われます。また、カンボジアでは一般的に通勤途中の交通事故は社会通念上労働災害と考えられていません。仮に通勤途中の交通災害に対する雇用者からの見舞金は実際には死亡事故でも数百ドルと言われています」と付け加えた。
こうした中で、民間保険会社の役割が大きい。 ピープル&パートナーズ インシュアランス(以下、P&P)のジェフリー・ウィッタカ―氏はカンボジアの保険市場に関して、「カンボジアの保険市場は過去数年間で2ケタ成長を記録し、今後数年間でその成長を継続していくものと思われます。その中でも健康保険及び個人損害保険は急速に成長しており、保健事業全般においても主要な分野になりつつあります」と語る。保険事業の急速な成長の要因として、経済発展による中間層の増加、健康や災害対策への関心の高まりが挙げられる。
また、P&Pのウィッタカ―氏は、「近年、従業員は給料だけでなく、企業の福利厚生にも関心が高く、特に団体医療保険や損害保険の加入は、カンボジアでは今や当たり前になっています」と述べた。
日本人を含む外国人にとって、一般的にカンボジアでよい病院を選ぶのは簡単なことではない。病院を選ぶ際は、日本人の専門医師、もしくは海外で訓練を受けたカンボジア人医師や外国の医師免許を持っているカンボジア人医師を有し、国際標準医療を導入している医療機関を選ぶことが望ましい。
また、移住した日本人の場合、海外転出届を自治体に出している場合は海外での治療費を国民健康保険で還付申請することができない。仮に住民票を残していても、還付申請の際には、申請書・領収書・診断書(診療内容明細書)の用意が必要となり、申請作業そのものが煩雑だ。
一方で、海外旅行保険は航空機遅延の補償や携帯品損害など移住者にとって不要な補償が多く含まれている分割高のため、現地採用の日本人従業員など期間の限定がなくカンボジアに移住する人にとっては、現地保険会社と契約するのが妥当だろう。
カンボジアでの民間保険加入を考える際の注意点として、日系病院でキャッシュレス対応ができるP&Pのウィッタカ―氏は、「当地での保険加入を考える際は、保険料のみでなく、迅速で簡潔なサービスであるかどうかで選ぶことをおすすめします」と話している。
カンボジア国内の薬局は、医学知識のないスタッフによって経営されていることが多く、品質が粗悪な場合や、保存状態が適切でない場合もある。カンボジア国民は経済的な事情から、まずは薬局で薬を購入して治療しようとする傾向が強い。しかし、薬局では薬剤師の大学を卒業していないスタッフが処方箋なしで医薬品を販売している薬局も多く、人々が適切な医薬品を入手できているとは言い難い。
近年はチェーン展開をする薬局も増えており、日系薬局のイマトクファーマシーがオープンするなど、薬局の水準も徐々に上がってきている。症状や体調により、適切な処方をしてくれる信頼できる医療機関を選びたい。