カンボジアに進出する日系企業のための
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2017年6月29日
カンボジア進出ガイド

【人材・コンサル】

189 カンボジアの人材・コンサル③(2017年05月発刊 ISSUE06より)

職業訓練の現状と課題 Current trends and issues of vocational training


 基礎力が低いとされるカンボジア人労働者のスキルや専門的知識について、NEA(国家雇用機構)代表のホン・チユン氏は、「カンボジアは質の低い教育を受けた人たちが大勢います。しかし、例えばただ組み立て作業をするワーカーを雇いたいだけなら、スキルのない労働者は供給に余剰があります。必要なトレーニングは少しだけです。しかし中間層のスキルワーカーは供給が追い付いていません。特に中間層に対するスキルトレーニングの提供について政府が努力しています」と語った。日系企業はカンボジア人技術者の採用に際し、ポテンシャルや即戦力を重視しており、主に品質管理や工程管理に従事させたい想いがある。

 トップリクルートメントのブリテン氏は、「あらゆる分野のエンジニアが不足しており、よりクオリティが高く、より幅広いエンジニアスキル人材が必要です。生産工学, 機械工学, どの分野のエンジニアももっと必要です。構造的な問題でいえば、カンボジアにはエンジニアの学校がありません」と語る。

 カムHRの温氏は、「将来は、より技術職が求められると思います。すでに多数の外国企業がカンボジアに投資をしていますが、業況を見るとこれから益々、インフラの部分、高速道路等に投資をする人が増えるのではないでしょうか。市外の住宅地や商業施設を見ても、市内と市外を結ぶ動きは今後2-3年で更に加速するでしょう。そうなった場合、建設部門の技術者需要は拡大しますよね」と話す。

 カンボジアの産業人材育成にかかる政策は、企業が必要とする能力の基準(CBS)により策定されることが望ましいが、職業訓練技術教育(TVET)の一角を担う公立職業訓練校は、高校3年生から大学レベルまでの教育訓練を実施しているものの、CBSによる訓練コースを描き切れていないなど、職業訓練の機能が不十分であると言える。このような現状や課題に対応するため、JICAは産業界のニーズに応える電気分野の標準訓練パッケージの開発等を行っているが、産業構造の多様化や高付加価値に対応できる人材を職業訓練校で育成できるかどうかは今後の課題である。

定着促進と人材育成 Human resources development

 カンボジア人スタッフは早く辞めてしまうが、どうしたら長く働いてくれるのか、という声をよく耳にする。定着率の向上(離職率の低減)のための対策は、ひと言で助言できるものでは無いが、即戦力となる人材が見つかり難いカンボジアの場合、社内における人材育成は不可避であり、人材育成コストの回収も考慮すると、長期の勤続期間が前提となる。

 企業にとって、早期退職リスクの低減は重要課題になるが、手を尽くしてもカンボジア人スタッフがすぐに辞めてしまう。



 CDLの鳴海氏は、「そもそも、スタッフはなぜここで働いてくれるのか、どこに価値を感じてスタッフは働くのか、ということを考えてみて欲しいと思います。彼らに身を置き換えて考えてみると、様々な理由が思い浮かびます。「お金が欲しいから」という理由が一番大きいという人は多いとは思いますが、逆にそれだけの理由で働く人は僅かです。例えば、家から近いから、スキルや経験が得られるから、雰囲気が良いから、社長が優しいから、好みの異性が働いているから、仲間が好きだから、友人に自慢できるから、親戚から褒められるから、親が喜ぶから、暇を潰せるから…など他にも別の理由がたくさん存在します。実際は、複数の理由が強弱を持って混在していますから、人によって働く理由のバリエーションは微妙に異なっているのです。これらが、働くことでもたらされる価値になるわけですが、カンボジア人スタッフが退職するときは、これらの価値が何らかの理由によって毀損し、その総合的な度合いが臨界点に到達したときです。本人から直接告げられる退職理由は、もっとも大きい理由や、当たり障りの無い理由などを挙げるかもしれませんが、複数の理由で働いているのと同様に、辞めるのも複数の理由があると考える方が自然です」と話す。

 しかし、注意しなければならないのは、カンボジア人スタッフが求める価値の多くは短絡的だということだ。例えば、居心地が良い、社長が優しいなどの理由は短絡的で脆いもので、社長が厳しく叱っただけで、その価値はあっという間に毀損する。

 同氏は、「そもそも、居心地が良い職場や社長がいつも優しいのは本当に自分のためになるのか、と聞いたら必ずしもそうではないと日本人には直ぐにわかります。しかし、カンボジア人のスタッフには難しい問題です。自己成長とは自己の限界が広がることですので、自分の限界を超えるような仕事をこなそうとしなければ、自己成長はできません。それには厳しいとか、辛いという気持ちにも耐える必要があることを意味しますが、彼らの短絡的な価値とは対極にあります。ただ惰性で長く働けば良いというわけではないので、定着促進はあくまで人材育成コストを回収するための前提条件を整えるものですから、働くこととは何か、給料とは何か、キャリアとは何か、といったことを繰り返し伝え、一段高いレベルの価値に気付かせる必要があるのです。恐らく、この道無くて、先は無いように思います。つまり、人材育成そのものが働くことでもたらされる会社からの最も大きな価値、という状況を作っていくことが理想的だと思っています」と付け加えた。


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