カンボジアに進出する日系企業のための
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2017年6月29日
カンボジア進出ガイド

【人材・コンサル】

188 カンボジアの人材・コンサル②(2017年05月発刊 ISSUE06より)

 

カンボジア人の日本語人材と英語人材 Cambodian Japanese-speaking and English-speaking workers



 2016年の日本語人材の給与相場(最終月給)は、日常会話レベルで367.2ドル、ビジネス会話レベルで762.6ドルだ。対前年度伸び率は日常会話レベルで2.2%、ビジネス会話レベルで7.7%と、これまでより伸び率は鈍化したものの、依然として日本語人材の給与は高い。

 来年5月にはイオン2号店が開業し、多数の日系企業がテナントとして入居することが予想されることから、1号店の開業時に起きた日本語人材の需要の高まりが再び起きるだろう。

 また一方で、技能実習生としてカンボジア人が注目されており、首都プノンペンには日本語学校が増えていることから、カンボジア国内では日本語教師としての需要が、また日本側では通訳者としての需要がある。こうしたカンボジア内外からの日本語人材の需要の高まりを受け、日本語人材の給料相場は一段と引き上がる可能性がある。



 JICAの協力により設立され、民間セクター開発を促進するための人材育成とネットワーキングの拠点となっている施設、CJCC(カンボジア日本人材開発センター)の大西義史氏は、「簡単に日本語人材は生まれないと思います。もちろん、素養がある方を送り出すことは可能ですが、はじめから大きな期待はできません。それよりも、自分で考えること、責任を全うすること。逃げない、ごまかさない、隠さないをきっちり守ること、ビジョンを一生懸命具現化しようとすることが大事で、そこに加えて、日本語のコミュニケーションが可能な人を育てたいと思っています。日本式経営とは、従業員を大切にし尊重する経営です。人を育てるには権限移譲だけでは無く見守り、サポートする事が大切だと考えています」と話す。

 日本語人材はその供給不足から、英語人材と比較して賃金に倍の開きがあるといわれているとおり、双方のビジネス会話レベルの人材の平均希望月給には大きな開きがある(下図参照)。一方で、双方の日常会話レベルの人材では、顕著な違いは見受けられなかった。なお、年齢(横軸)によっては客体数が少ないことによって不適正な曲線が一部見られるが、年齢を社会経験年数と捉えた場合、年数が多いほど希望月給額は高くなる。



 また、この数値は日本語と英語以外の言語が話せる客体は除外しているため、中国語やタイ語などの第三言語の能力を有する人材であれば、さらに高額になることが予想される。また、企業の国籍別希望月給を役職別でみると、日系企業は中華系やローカル系の企業と比較して高給だった。特に、アシスタントマネージャー職を希望する者の希望月給に大きな開きがあり、日系企業に勤務する者で604.3ドルと、中華系やローカル系の企業に勤務する者と比較して、100ドル前後の差がある。これは、アシスタントマネージャー職を希望している者の半数以上は日本語人材であることが大きな要因であり、マネージャー職に就く日本人のアシスタントとして通訳業務を期待されているものと推察される。 このように、ビジネス会話レベルの日本語人材の雇用が人件費を増大させたり、実態は単なる通訳者を名ばかり管理職に就けることで社内に軋轢を生じさせたりと日本企業の特有のリスクもある。



 トップリクルートメントのブリテン氏は、「ベトナムやタイよりもカンボジア人の英語理解能力はずっと高いです。日系企業がこちらでもがいているのはなぜかというと、派遣されてくる日本人の英語の力が十分高くないからです。日本語を話せるカンボジア人を探すかわりに、日系企業はおそらく、英語が話せる日本人を派遣するべきですね。カンボジアで日本語を非常によく理解できる人材の市場はとても小さいですから、解決方法は英語をこちらが理解することです。日本語コースを作ったり日本語学校を作ったりするのもいいですが、それは中長期的解決策です。今解決策が必要ならば、こちらが英語を理解すべきでしょう」と語る。

現地採用日本人 Japanese Local Employees

 カンボジア人の日本語人材の月給相場が高止まりする中、費用対効果の点で注目されるのが現地採用日本人の存在だ。彼らは自らカンボジアに身を投じて働くことを希望し、職務命令で転勤させられる駐在員よりカンボジアに対する想い入れは強い。

 現地の人材紹介会社は、カンボジア人の人材紹介だけでなく、このような日本人の人材紹介を行うことが可能だ。元厚生労働省出身で、日本人の紹介にも多数の実績と経験を持つ日系人材紹介会社クリエイティブ・ダイアモンド・リンクス(CDL)の鳴海貴紀氏は、「当社ではカンボジア就職を希望する求職者の方に対して、渡航手続や現地の生活情報の提供なども職業相談の一環として行っています。単に日本人の採用業務をアウトソーシングする以上の、見えない利点があります」と話す。

 また、日本人を現地で採用する際に雇用者が忘れがちなのは、現地採用者の労働条件や医療の安心の確保だ。駐在員の場合、採用の時に雇用契約書や労働条件通知書を受け取り、労働保険や健康保険はもちろん、海外旅行保険の加入も可能だ。しかし、現地採用者に対しては、これらに替わる保障が不十分で、不安を抱えたまま働いてる場合がある。

 昨今、日系病院と提携し、キャッシュレス対応の現地保険会社も現れていることから、雇用者は現地採用者に対して医療保険の加入を促し、費用の一部を会社負担するのが望ましい。 例えば、現地採用者が勤務中に大怪我をし、医療保険に加入していないために高額な治療費を本人が負担しなければならなくなった場合、僅かな見舞金を会社から渡すだけで何もしないということが、雇用者として社会的に許されるとは思い難い。従業員が途上国で働くうえでの不安の払拭は、駐在員と現地採用者で差を設けるべきではない。

会計人材 Accounting staff

 カンボジアの大学では金融や銀行の勉強がとても人気だ。しかし、大学の授業が均質化されておらず、同じ会計学でも大学によってレベルが異なる。学生は卒業時に資格を与えられるが、資格を持っていても全員が会計業務のプロフェッショナルなれるとは言えない。



 英国公認会計士(ACCA)の国際プログラムを提供しているカムエド・ビジネススクールのケイシー・バーネット氏は、「他の大学では、お金を払って授業に出れば入学したことになりますから、入学は簡単です。また4年間お金を払えば資格を得ることができる。学生たちは一度に2校も3校も同時に大学に通っていますよね。それは、学位を取得するのが簡単だからです」と語る。

 CDLの鳴海氏は、「会計を学んだ人材が労働市場へ毎年多く流入し、会計スタッフとして働くことを望む者は数多いですが、そもそも会社に何人も必要な職種ではないという点、また、企業が望むレベルの人材が少ないという点で、実際に職に就ける者は一握りです」と話す。

 カムエド・ビジネススクールのバーネット氏は、「昨年私は300社の企業から、会計人材について問合せがありました。しかし、レベルの高いアカウンタントは少人数で、異なった業種では異なった経験が求められ、各会社に適したアカウンタントを見つけるのは非常に難しいと思います。会計士と同様のACCA資格者は、国内でもたった140人。ACCAより低いレベルの資格(CAT)でも、300人近くです。もちろん資格保持者数は毎年増えていますが、ACCAを取得するのは毎年22人程度です」と語る。

 会計を教える機関や卒業生のレベルの相違から、卒業後の就職先は幅が広い。会計士として数千ドルの給料を得る者もいる。ACCAを取得した者は上は9000ドルから下は900ドルまでと幅が広いが、大体平均月2000ドルだ。また、学士を持っていれば約300~450ドル。しかし、一般企業の経理スタッフに就職もできず、店舗のキャッシャーや会計とは全く違う職業に就く者もいる。

 カンボジア税制に合わせたクラウド会計ソフトを開発するカンボディアン・インプレス・サービスの安藤理智氏は、「総じてカンボジアは、税金の計算の仕方というのがあまり根付いておらず、税金に対する理解というのが弱いですね。企業数から比べると有資格者は多くなく、たまたま大学で勉強した程度の知識の方が多いです。現在、有資格者向けの研修や、有資格者になるためのセミナーなど税務総局でもセミナーを開催しています。弊社スタッフも、大学では詳しく教わっていないため、社内の税理士が研修して教えています」と語る。会計、税務、海外進出コンサルティング会社であるSCSグローバルコンサルティングの宮田智広氏も「カンボジアにおいても会計税務の人材はいますが、会計税務の理論を知っている人材はまだまだ少ないと認識しています。会計事務所として会計人材の雇用を通じ、会計の目的や考え方を身につけていけるよう啓発していきたいと思っています」と話し、日本の同企業の参入が会計業界の発展に大きく寄与することが期待される。


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