【医療・医薬】
(135 カンボジアのホスピタリティ・ツーリズムの続き)
日本人がより安心して生活できる医療環境が整いつつある。プノンペンを中心に日本人医師・歯科医師が診療にあたる医療機関が複数存在し、一般内科・小児科に限らず、耳鼻科・消化器外科・整形外科・脳外科など様々な専門科の日本人医師が診療を行なう。今夏にはサンライズジャパン病院も開設され、日本人医師による高度な手術を行なうことができるようになる。また、近年は家族でプノンペンに居住する日本人も増えているが、出産は日本で行い、カンボジアで小児科健診を行なうというケースも増えてきている。今後も新たな日系医療機関・薬局等の開設が計画されており、さらに日本人が安心できる環境が整っていくものと見られる。
一方でカンボジア全体の医療水準は、いまだ十分に教育されたカンボジア人の医師や看護師が少なく、黎明期にあるといえる。医療機関の衛生観念の欠如や正しい診断を行うための医療機器の不足など、さまざま課題を抱えている。カンボジアでは公認の医学部が少なく、これまで国家試験はなく医学部を卒業したら医師になることができたが、近年、やっと医師国家試験が一部導入された。日本と比べて圧倒的に専門医の数が少なく、日本と同じ手術を行うことができるカンボジア人医師はほとんどいない。
さらに、カンボジア初の日本人開業医であるケン・クリニックの奥澤健医師は、「カンボジア全体の医療界では、横の連携がほとんどないです。日本だったら医師会があって勉強会や学会がありますが、カンボジアには知識を共有するような場が整っていないようです」と語っている。外国に留学し、その国のスタンダードを学んだ医師もいるが、全体としては課題が多い状況だ。
日本人を含む外国人にとって、一般的にカンボジアでよい病院を選ぶのは簡単なことではない。病院を選ぶ際は、海外で訓練を受けたカンボジア人医師や外国の医師免許を持っているカンボジア人医師を有し、国際標準医療を導入している医療機関を選ぶことが望ましい。また、24時間救急対応をしているインターナショナルSOSの野村亜希子氏は、「看護ケアの水準、感染対策、医療サービスの概念など国際的な水準に達していないからこそ、現地医療機関の意見を鵜呑みにするのではなく、セカンドオピニオンを求めるように心掛けて下さい」と呼びかけている。近年は医療アシスタンスサービス(緊急搬送も含む)を提供する病院・企業が複数存在し、会員向けに体調不良や不意の怪我などの際に適切な医療機関の紹介・診療同行を行なっている。有事に備えて、あらかじめ契約を結んでおくことも可能だ。
複数の日本人専門医による多診療科クリニックであるサンインターナショナル(以下、SIC)の荒木医師は、「外国人、特に日本人が現地で医療を受ける際の注意点は、医師とのコミュニケーションをとるのが難しいということでしょう。言葉の壁が一番大きいです。日本人の通訳者(日本語・英語)のいる病院が望ましいです」と述べ、「専門的な処置が必要な場合は、たとえ骨折でもカンボジアでは難しいことがあります。外国人の専門医のいるところにかかることが大切です」と、ケン・クリニックの奥澤医師は語っている。受診の際には各種保険のカバー範囲の確認や、パスポート・保険証書など必要書類の持参などについても確認が必要である。
(137 カンボジアの医療・医薬②へ続く)