カンボジアに進出する日系企業のための
B2Bガイドブック WEB版

2016年6月13日
カンボジア進出ガイド

【法務・会計】

110 カンボジアの法務・税務・会計①(2016年5月発刊 ISSUE04より)

法律の整備と運用 Legal developments & application of existing laws



 日系企業を始め諸外国からのカンボジア進出企業がまず対面する法律面での課題の多くは、法律と会計が交差する税務に関わる諸問題であると言える。

 日本は1999年からODAの一環である技術協力として裁判官・弁護士・司法書士などの法律専門家をJICAを通じて派遣し、カンボジアの民法・民事訴訟法を始めとする民事関連法令の起草・成立を支援している。従来はこのような外国からの支援に頼りきりであったカンボジアの法整備状況であったが、昨今はカンボジア当局独自の改正が頻繁に行われている。

 2014年末から2015年年初にかけての大きな税法改正の一つは税務登録手続の変更であった。税務登録にあたっては、代表者の租税総局窓口での指紋・顔写真の登録、カンボジアでの居住証明の提出を求められるようになり、税務登録にあたっても求められる情報量も格段に増えたが2015年後半に入り更なる大きな改正も行われている。

 日本国内最大規模の税理士法人のカンボジア法人である辻・本郷税理士法人のダイレクター、菊島陽子氏は、「昨年12月17日に公布された2016財政法により、従前、個人事業主に対して認められていた推定課税様式が廃止されました。カンボジアではそれまで推定課税方式、実態管理課税様式、簡易管理課税様式の3つの課税制度が定められていましたが、今回の法改正により推定課税様式が廃止され、個人事業主に対しても一般企業と同じように実態管理課税様式による税務申告が必要となりました」と述べている。

 法律運用面では、従前は現地商慣行のように言われたアンダーテーブルによるやりとり等は減少傾向にあるようだ。辻・本郷税理士法人の坂本征大氏によると「カンボジアだからといってお金等で解決出来るということは無くなってきています。まだグレーの部分もありますが、黒白はっきりとしている部分も多くあります」と語る。

 しかし、法律整備・運用状況の変化が常にスムーズに行われるわけではなく、同氏は「目まぐるしく状況が変化するカンボジアにおいて、当局や官公庁から発表される情報も必ずしも整備されたものとは言えず、担当官の話は日替わりであったり、一週間かけて準備した書類が翌週にはアップデートされて追加で書類が必要になったりと、変更を余儀なくされ改めて準備しなければならないことがあります。年々法規制が厳しくなるカンボジアでは、行政手続きの開始が遅れれば遅れるほど複雑化されて完了まで時間がかかり不利になるように思えます」と付け加えている。

会計事務所 Accounting firms

 カンボジアには、KPMG、PWC、Ernst&Young等の国際的な大手会計事務所のほか、日系会計事務所等が存在し、税務申告、記帳代行、登記関係業務等のサービスを提供している。 大手会計事務所にも日本人公認会計士が常駐し、日系進出企業にとってアドバイスが受けやすい環境が整いつつある。

 JETROプノンペンのコーディネーターを兼務するKPMGのマネージャー、田村陽一氏は、「カンボジアでは源泉徴収税やフリンジベネフィット税、ミニマム税といった日本では一般的でない税金がかかります。信頼できる専門家のサポートがなければ、税金の仕組みを理解し税務リスクを十分に低減するのは簡単ではないでしょう」と述べている。会計事務所の中には、日本語スタッフが定期的に顧客を訪問し、記帳代行やトレーニングを行うといったきめ細かなサービスを用意しているところもある。



 ベトナム・カンボジアのビジネスに精通した会計事務所系コンサルティングファーム、アイ・グローカルの本庄谷由紀氏は、「カンボジアでは毎月納税が発生するため、お客様からは、本当にそんなに煩雑な作業をされているのですかとコメントをいただくことがあります。カンボジアは税制を含めて諸制度の整備が刻々と進んでいますので、税務監査を受ける頃には、それまでのどの時点よりも必ず体制が整備されていることになります。外部専門家を活用して将来の税務リスクを減らして欲しいです」と話す。

税務について The Cambodian tax system

 税務調査や租税債務の管理強化、追徴課税時等の担当官へのインセンティブ支給制度等の施策を通して各年度財政法にて設定された予算に基づき政府は徴税体制を強化している。更に主たる施策として、税務登録義務があるにもかかわらず登録を怠っている事業者の登録促進、新登録システム・全納税者の再登録手続の運用強化・電子登録申請制度などのICT化の推進などを進めている。

 昨年9月15日公布の経済財政省令にて、税務署での諸手続きにかかる手数料、所要時間が公表された。租税総局所管の関連法令改正が続き、透明性が次第に向上していく一方で、運用のための詳細なガイダンスが各当局から出ていないため、法令による規定はあるにも関わらず、実態としては正しく運用されていないという例が依然として多いのが現状のようだ。

 辻・本郷税理士法人の菊島氏は、「カンボジアの場合、税務の修正申告やVAT還付手続きがその例と言えます。税務の修正申告については、税法で『税務申告書の提出から3年以内であれば修正申告が可能』と明記されていますが、実務上は税務局が消極的な姿勢を取っていることもあり、修正申告を行うにあたり多くの必要書類の提出を求められ、膨大な時間と手間を要します。したがって、修正申告を避けるためにも月次申告の作成を慎重にならざるを得ません。

 また、VAT還付については、税法で『売上VATと相殺できない仕入VATが3カ月以上ある場合に税務局に対して還付請求ができる』と明記されていますが、実態としてはVAT還付を受けた例はQIP(適格投資プロジェクト)認定を受けている企業でわずかにある程度で、殆どの企業がVAT還付を受けられず、支払ったVATは企業のコストにならざる得ない状況にあります。周辺他国では、VAT還付はそこまで難しい手続きではなく、還付請求した場合、税務調査を受け問題がなければVATの還付を受けられるケースが多いと聞きます」と語った。
111 カンボジアの法律・税務・会計②へ続く


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