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2016年6月13日
カンボジア進出ガイド

【法務・会計】

111 カンボジアの法務・税務・会計②(2016年5月発刊 ISSUE04より)

申告手続 Tax Declaration

110 カンボジアの法律・税務・会計①から続き
 カンボジアの税務申告業務は近隣他国に比べて煩雑であるのが特徴だ。 毎月、月次ベースでの税務申告書類の作成・提出が義務化されており、また年間の法人税額が確定する前段階で毎月納付すべき税金もある。アイ・グローカルの本庄谷氏は、「日本から進出される場合で一番驚かれるのが、最低税制度だと思います。単純化してご説明すると、カンボジアの法人税率は20%ですが、収益の1%と比較して高いほうを納税すると定められているため、赤字であっても少なくとも収益の1%を納税しなければなりません」と語っている。

 しかし、月次申告業務の煩雑さについては改善に兆しもあるようだ。辻・本郷税理士法人の坂本氏は、「カンボジアは税務申告システムが未整備であるため、ペーパーベースで税務申告書を提出しなければなりません。毎月どの会社も申告納税期限までに税務種類毎の税務申告書を作成し、大量の関連資料を添付して税務局に提出に行かなければなりません。日本や中国を始めとするアジア各国ではシステムによるオンライン申告が導入され、税務申告の時間短縮化、及び手続きの簡素化が進んでいます。

 カンボジアでは2015年に税務登録手続きの変更が行われ、税務登録情報のシステム化が実現されました。それにより、2016年度のパテント更新手続きが従来よりも格段に簡素化し、それまで数週間から1ヵ月程かかっていた手続きが、数日で完了するようになりました。将来的に税務手続きのシステム化がさらに進み、月次税務申告や年次申告にも効果が及ぶようになれば、カンボジアに投資している多くの外資企業にとって歓迎すべき環境となるでしょう」と述べた。

規制が強化されている汚職防止や労働許可 Anti-Corruption and Working Permit



 従来はあまり厳しく規制されていなかった対象も昨今では厳しくチェックされるようになってきている。

 2005年に設立されたカンボジア弁護士会に所属する総合法律事務所で日本人弁護士・カンボジア人弁護士の常駐するジャパンデスクを設けているHBS ローのリ・タイセン弁護士は、「近時、労働許可に関する政府の規制が厳しくなっています。労働許可について規定する労働法は1997年から施行されていますが、その実施は必ずしも厳格ではありませんでした。そのため、多くのカンボジア及び外国企業は、厳格な規制の実施に戸惑って、現在、労働許可に関する対応に追われています」と語る。

 日系企業からの案件を多く扱っているマー&アソシエイツ ローオフィスの村上暢昭氏は、「昨年後半に、内務省と労働省は、入国管理法および労働法に基づく取締りを両省が共同して行うとの共同省令を出しました。労働法上、『外国人は、労働担当相が発行する労働許可(ワークパーミット)及び雇用票を所持していない限り、労働することができない。』と規定されています。この点、労働法はその目的をカンボジア王国内で実行される労働契約から生ずる労使関係を規律することであるとしていることから、個人事業主の取扱いが問題になります。

 実務上、個人事業主がワークパーミットを取得するためには税務登録する必要があります。税務登録をされていない個人事業主の方は、税務上のリスクに加えて、ワークパーミットに関するリスクを負うことになりますので、注意が必要です」と述べており、「現在のところカンボジアでは、ワークパーミットとビザは連動していませんが、今後はワークパーミットがなければ就労ビザを取得できない・更新することができないという運用がなされる可能性があります。今後規制は更に強まる傾向にありますので、ワークパーミットの問題についてはご留意頂くべきかと思います」と付け加えた。



 カンボジアでの汚職に対する執行機関(Anti CorruptionUnit,ACU)の活動も強化されてきている。HBS ローのリ弁護士は、「ACUが発足して数年経ちます。汚職の蔓延する現状を打開するために設立されたのです。私はACUに対してクライアントを弁護した経験があります。私はACUは徹底的かつ緻密に事件を捜査しているし、その職員も十分な能力を持っているとの印象を持ちました。ACUはその他の捜査機関と比べるとより組織的に機能していますし、適正のある職員が配置されています。

 さらにACUを監督する管理評議会は、上院、国民議会、政府、司法官職高等評議会及び法・司法改革評議会などにより任命された高官によって構成されています。ACUはホームページで情報を公開しています。今までのところ、ACUは数百件の告発を受理したと聞いています。汚職を取り締まる法令はありますが、一般市民が十分に理解してそれに従って行動するのは難しい部分もあります。そこで、ACUはそれらの法令を一般に普及する役割も担っているのです。

 私はACUに対する一般市民の信頼が向上していること、ビジネス関係者と一般市民双方から汚職に対する訴えが増加していることから、ACUが扱う事件はますます増えると予測しています。私はACUの活躍に期待し、ACUが汚職をより厳しく取り締まることを望んでいます。汚職は、我々のような法律事務所、その他のビジネスの両方に悪影響を及ぼすからです。汚職に関する内部告発は著しく増えていますし、公務員の考え方も徐々に変わってきているようです。なお、手続きについては、ACUに告発された事件はACUによって捜査された後、更なる捜査・起訴・裁判のために裁判所に告発されます」と語った。

 今年に入り、ACUと汚職に関する情報提供の協力などを内容とする覚書(MOU)を締結する企業が増加しているが、専門家からは、締結には十分な検討・準備が必要との声もある。マー&アソシエイツの村上氏は、「MOUの内容として、ACUはMOU締結企業毎に担当の職員を付けることになっていますが、ACUがMOU締結企業のためにどの程度協力してくれるのかは未知数です。他方、締結企業はACUに対して汚職・賄賂に関する通報義務を負いますので、MOUの締結に当たっては、社内での、これまでの汚職に関する調査や教育が必要になってくるのではないでしょうか」と語った。

法務顧問会社の役割 The role of legal advisory firms



 ルール整備はされていて、更に改正は続きながらも、その運用状況にはいまだに難あり、という一筋縄ではいかない法律環境において、ヴィーディービー・ロイのエドウィン・ヴァーダーブルッゲン氏は、企業のパートナーとなる専門家のあるべき姿についてこう語る。

 「法律によればこうですよ、と言うだけなら簡単で誰にでもできます。困り果てたクライアントが来るのを待って、法律に関する質問に答える。小さな調査書を渡し、法律ではこうなっていますよと助言して、あとは幸運を祈るだけ、そして請求ですね。こんなやり方では、カンボジアの企業法務の問題を解決することはできません。より踏み込んだ手法が必要となるんです。問題を解決するためには、具体的にどの省庁と、いつ、どうやってやりとりして、いくらぐらいで済ませるべきかといったような 、極めて実践的な経験と知見が必要とされるのです」。

 カンボジアで20年以上の歴史を持つ、シャーロニ&アソシエイツのシニアパートナー、ブレットン・G・シャーロニ氏も実践的なアドバイスとしてこう語る。「法律を順守すると決めた以上は、よくありがちな“政府関係の親族です”と言い寄ってくる仲介人などは相手にしないことです。問題に直面した時、彼らは安易な提案をしてくるでしょうが、その関係者が抜け、万が一あなたがやるべきことを手順通りやっていないということが表面化した時、あなたは大きな代償を払うことになるでしょう」。

 法律条文や判例を机上で講釈する専門家よりも、いかに実践的に顧客の法律・会計実務や諸問題と向き合い、解決に向けて共に動いてくれるか。専門家としての資格や肩書きよりも、リアルな実務経験と協業スタイルがパートナー選びにあたっての重要なポイントとなるようだ。
112 カンボジアの金融・保険①へ続く


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