カンボジアに進出する日系企業のための
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キリロム工科大学の今を追う 育てるのは企業のデジタルトランスフォーメーションを促すエンジニア(2019/6発刊10号より)

カンボジア人学生22名でスタートしたキリロム 工科大学(以下KIT)が、2018年9月、初の卒業生を輩出した。卒業生が各々のスポンサー企業で新たな目標に向かって歩み出すとともに、大学には日本人2期生も入学、大学としても次のステップに向かう。KITならではの特徴的な仕組みがある。9つの学内ベンチャーだ。彼らはキリロムに留まらず、プノンペンの市場に事業展開すべくテストマーケティングを開始した。KITがカンボジアのIT業界を牽引する日も遠くない。

圧倒的な実力を持つ学生を育てたい、猪塚武理事長の思い
~徹底的な実践教育と卒業生の収入額で知名度が向上~

 KITは英語による最先端のIT技術の学びを基軸にグローバル人材の育成に取り組んでいる。カンボジアをはじめ新興国の若者にチャンスを与え、日本のIT企業のための人材確保にも寄与したいという夢を持つに至った原動力は、貧しくても能力がある、努力する人が勝ち上がっていける仕組みを創りたかったからだ。
 2018年11月、カンボジア人の入学生は96名と前年の2倍を超え、2019年4月入学の日本人学生も加えると累積学生数は230名を超えた。高いレベルのIT教育を提供する実践教育型大学であることが浸透し、知名度も向上したことから、入学時点の学生のレベルも上がっているという。KITの卒業生が日本で働くチャンスが得られると年収はカンボジアの約8倍、カンボジア人学生にとってはドリームスクールであることがわかる。もちろん実力がないと日本企業、日系カンボジア企業には就職ができないため、学生たちのポテンシャルの高さは学生たちが就職した企業の満足度で証明される。日本人学生の卒業は数年後になるが、「英語でITができ、グローバルチームのリーダーシップが取れる」ことは大きなアドバンテージになるだろう。

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IT企業経営者の危機意識がキリロム工科大学を活性化する

 卒業生の就職先として、カブドットコム証券株式会社や株式会社花まるラボがある。若く優秀な技術者が欲しいIT企業をはじめ、様々な業種からの問い合わせやキリロムへの視察企業が増えている。「キリロム工科大学の授業やプロジェクトを見て『すぐに追いつかれる』という思いと、このままではまずい」という刺激を受ける企業は多い。

新学科と学生の価値最大化に挑戦

 KITがITの次に手掛けるのはホスピタリティ産業。この産業はテクノロジーによって大きく変革されようとしている。世界の中間所得層の増加とLCCの普及により大量の外国人が日本を訪れているが、観光地の長期的な差別化という課題を解決する人材の育成のため、今年4月に国際ホスピタリティ経営学科をスタートさせた。

 KITの学生の可能性を広げるための飛び級制度や学内ベンチャーもある。飛び級制度は能力とやる気のある日本人学生が、中学を卒業し16歳の8月に高卒認定を取得すれば、同年11月にキリロム工科大学に入学して20歳で大学を卒業できる仕組みだ。その後海外の大学院に進学すれば22歳で大学院を卒業できる。

KITを中心としたvキリロム事業としての成長

 2018年は「第44回経済界大賞」における「グローバルチャレンジ賞」、「楽天テクノロジー & イノベーションアワード2018」における「楽天エンパワーメント賞」を受賞し、日本での認知度も向上してきた。受賞の背景には、サスティナブルな経済循環を生み出している事業モデルが評価されている。『学生寮オーナーズプログラム』がその1つで、学生の住居を支援しながらも安定的な家賃を得られる仕組みになっている。現在50名以上のオーナー様に戸建て・集合住宅をご契約いただき、定期的な事業報告会も行なっている。

 また、隣接するvキリロムパインリゾートも人気を集め、第一四半期で対前年度比148%の成長を実現している。カンボジア国内企業からの企業研修等のツアー顧客の増大、あわせて、日本の小学校から大学までのスタディツアーの利用者が年々拡大しており、KITを中心とした各事業の相乗効果といえよう。

日本とカンボジア・東南アジアの架け橋に

 「事業が拡大するにつれ、カンボジアの各省庁(環境省・商務省・教育省・観光省・CDC)とのコミュニケーションも増えてきました。関係各省と連携し、日本とカンボジアの架け橋になれるよう、力を尽くしていきます」と猪塚氏。着実に成長するKITとvKiriromの事業を今後もウォッチしていきたい。

プノンペンの採用マーケットに挑む学内ベンチャーIT人材と企業のマッチング支援サービス

キリロム工科大学内のビジネスコンテストで優勝し、学内ベンチャー化したJobifyは、カンボジア国内の大学でITを学んだ大学生や若手エンジニアがより良い仕事に就くことを支援するwebアプリサービスを開発した。ハッカソンでの連勝など、実力ある学生を養成するキリロム工科大学のブランド力と信用を背景に、企業にとってもカンボジア初の若手IT人材の採用支援サービスとして今後が期待される。

求職者側
ウェブアプリ上でプロフィール登録のほか、IQテスト、プログラミングテスト、オンライントレーニングが受けられる。

求人側
ITエンジニアを採用したい企業は、無料で募集要項を登録すると、システム上でマッチングが行われる。Jobifyからコンサルティングを受けることもでき、採用決定時に成果報酬で支払いを行う。早期退職時には返金の規約も設けているためリスクが少ない。

カンボジアの大学卒業生は年間5万人超、成長率は年5%(MoEYSプレスリリースより)を見込んでおり、JobifyはこのうちITを専攻する5%を求職者側のターゲットとしている。初年度はプノンペンでITに特化するが、2-3年後には対象職種を広げるだけでなく、ASEAN諸国に展開する考えだ
Jobify ウェブサイト http://jobify.works/


 
 

 
 

 

 猪塚武氏

香川県さぬき市出身。1990年に早稲田大学理工学部を卒業後、東京工業大学修士課程修了。その後アクセンチュアを経て、1998年に株式会社デジタルフォレスト社を設立。アクセス解析ソフトVisionalistを開発し、2009年にNTTコミュニケーションズに事業売却。2010年に日本を離れ、4年間のシンガポール生活を経て、2014年カンボジア(プノンペン)に移住する。2011年にvキリロム事業をスタート。世界的な起業家組織EO(Entrepreneurs’ Organization)の日本支部会長、カンボジア支部ファウンダー、アジアの理事を歴任。2018年4月より日本人起業家のグローバルネットワークである一般社団法人WAOJEの代表理事を務める。現在はvKirirom Pte. Ltd. 代表取締役兼CEO、vKirirom Japan株式会社 代表取締役社長、キリロム工科大学 理事長、A2A Town (Cambodia) Co.,Ltd. Presidentを兼務。  



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