2017年1月9日
(前回の続き)
――糖質制限の取組もされているとお聞きしておりますが、こちらについても具体的にどのようなことをされているのでしょうか
奥澤健(以下、奥澤) 雑誌「プノン」の主催で、低糖質、ローカーボハイドレイトの略である「ロカボクラブ」というのを発足し、今までに5回ほど実施しています。低糖質の食事を食べてもらいながら、それがどう健康に良いのかという講演をしています。食事付きの講演と言いますか、講演も兼ねた食事会と言いますか。これからも月に一回程度のペースでやりたいと思っていますし、どなたでも参加できます。今のところは日本語での講演なので日本人向けですが、英語だったら他のカンボジア人なども参加できますから、年内にはやりたいという話はあります。
自分自身で糖質制限を始めたのが2012年です。怪我をした時の治療方法として湿潤療法というものがあって、それを教えてくれた先生が自身のホームページで糖質制限という内容を掲載していたのを見たのがきっかけです。自分でもやってみたら非常に体調が良くなって体重も減り、これは良いと思って皆さんに教えているという、啓発活動の一環でやっています。それからプノンのコラムでも書かせていただいていたのですが、それだけでなくもっとインパクトのある形で話を提供したいなと考えていたところ、フレンチシェフの加茂さんと共同で話が持ち上がり、やっと実現したわけです。
――カンボジア人自身にもそういう問題が顕在化してくる可能性があるでしょうか
奥澤 可能性があるというか、もう直ぐにでも大きな社会問題になるでしょう。これはカンボジアだけでなく、東南アジア全体でそうですし、タイでは既に問題になっています。米を沢山消費することと、甘いものが好みだというところにも原因はあります。糖尿病はこれからもっと増えるでしょうが、医療が追い付いてないので、糖尿病を長く患って最後は失明してしまう、などの事態に陥る可能性もあります。
透析を受ける必要がありますが、この国で透析を受けることは死刑宣告と同じです。透析というのは1回受けると、週に2~3回受けないといけないのですが、安くても1回50ドルはします。それをずっと受けられる人はお金持ちだけですから、少し受けただけで病院に行けなくなり、そのまま亡くなってしまう方は結構多いと思います。
そういう統計すらもないと思いますから、少し具合が悪かったのが、1週間や1ヶ月でどんどん悪化して亡くなってしまうという方がいくらでもいるわけです。病院にかかる前の段階で死んでしまう、病院にかかれないという人がまだまだ多いですね。
――糖尿病も予防や対策が必要ですね
奥澤 今では知識が増えてきましたので、カロリー制限一辺倒でやるのは間違いであるということは分かってきています。カロリー制限というのはおいしくないから続かないのです。もちろん炭水化物は制限しないといけませんが、その他の肉やチーズ等の油物はいくら食べても良いのです。我慢するのではなく、おいしいものを沢山食べて、なおかつ健康になれるというのが、低糖質食のコンセプトです。それを広げていきたいですね。
お米好きの人でも、1日3杯も4杯も食べていたご飯を一日1杯だけにしてみたら、意外とできる人も多いんです。カリフラワーをみじん切りにして炒めると、お米に似たものが作れます。ポテトなどの根菜類も糖質が高いですが、麺の代わりに糸こんにゃくやしらたきを使うとか、糸こんにゃくを使ったスパゲティも結構おいしくいただけます。日本でもそういう商品が出ています。
――カンボジア人の方は、そういう糖質制限をするとか、低糖質のものを食べるとか、それが健康に良いという発想はありますか
奥澤 全く無いですね。日本人でもやっと、日本で低糖質の商品が沢山売られてきて大分定着してきたようですが、それもここ2年くらいの話だと思います。カンボジアではまだまだ知識としてありません。カンボジアでも糖尿病がどんどん増えている一方で、それを診れるドクターもいませんし、そもそも情報が無いので患者も何を食べて良いか分からないというのが現状です。これまでは糖尿病になる前に、感染症などで亡くなっていたのだと思いますが、今は平和になって医療もある程度発達し、平均寿命が延びてきたため、それに伴って生活習慣病が増えてきたのでしょう。
東南アジアは全体的に米の消費量が大変多く、少ないおかずで沢山のお米を食べるような食生活が良くありません。ドクターの方も、糖尿病と診断して薬を出したりはするようですが、糖尿病は最初のうちはそんなに症状があるわけではありません。一度処方された薬を薬局で買って飲み続ける人や、逆に効果が見えないから飲むのを止めてしまう人もいますし、病院で血液検査をしてフォローアップをするなど、検査結果によってアドバイスをするようなことはないでしょう。
――こちらのクリニックを開業されて6年半ですね。何か変化してきたことはありますか
奥澤 日本人の患者数が増えました。日本人全体の在住者が増えたということでしょう。医療の水準について、カンボジア全体のことはよく分かりませんが、やはりカンボジアではできないことが多いので、日本で治療してもらった方が良いと改めて思い知らされることはあります。ですがサンライズジャパン病院が日本の最先端のものを持ってきている筈ですから、それによって、可能性が拡大すると良いなと、期待しています。
2週間前に私が昔から知るドクターがオープンしたKhemaクリニックは、ドクターはカンボジア人だけだと思いますが、良い検査機器を揃えていると聞いています。検査機器もそうですが、それを診る医者の水準が上がっているのだと思います。
今回は有難うございました。(取材日/2016年9月)