カンボジアに進出する日系企業のための
B2Bガイドブック WEB版

特別レポート
(2016/5発刊4号より)
急拡大するカンボジアのマイクロファイナンス市場。存在感を増す日系企業の参入と巨額投資、そのマネーが向かう先の実体は? (3/3)

  

路上には車やバイクが溢れかえり、夕刻ともなれば主要道路の大渋滞がすっかり慢性化して久しい
カンボジアの首都プノンペン。
国が豊かになって来たとはいえ、一人当たりGDPがようやく1,000ドルを超えた程度の最貧国カンボジアの
一般庶民が安いものでも数千ドルはする車やバイクを乗り回す。
活性化する庶民の“金回り”を裏支えしているのは急増するマイクロファイナンス。
意外にも日系企業による参入・巨額投資が大きな存在感を発揮しているその舞台裏を俯瞰する。

存在感を発揮する日系資本

(2/3からの続き)
 アクレダ銀行(マイクロファイナンス融資残高約14億ドル)を頂点とし、MFI筆頭のプラサック(融資残高/約8.7億ドル)、2位のサタパナ(融資残高/約4.7億ドル)が不動のトップ3、それに続く上位8行までが融資残高1億ドル(約112億円)超えMFIとなっている。それら大手に続くのは、上位18位までの1,000万ドル(約11億円)超えMFIと、それ以下となると融資規模が一桁億円かそれ未満の小規模MFIがロングテールのグラフのように57行並んでいるのが現状である(全て2015年度末残高)。

 上記20行程度で市場(融資残高ベース)のほぼ99%を占めるMFI業界の中で、その資金を支える投資家として大きな存在感を発揮しているのは意外にも日系資本である。

 マイクロファイナンス業界でも不動の最大手であるアクレダ銀行の現在の筆頭株主は日本の三井住友銀行。2014年8月にリリースした12.25%の追加取得の結果、持ち分比率は18.25%。同行には日本ノンバンク最大手オリックスも出資しておりその持ち分比率はリリースによると12.25%。合わせると日本勢がアクレダ銀行持ち分の30.5%を保有していることになる。両社の追加投資額だけで各々百億円に達する規模である。

 純粋MFIとしては業界2位に位置するサタパナの実質オーナーは日系のマルハン・ジャパン銀行。その親会社は日本全国270店舗を超えるパチンコホールを展開する業界最大手マルハンである。マルハンはカンボジアで日系初の商業銀行を2008年5月に開業。首都プノンペンに本店を置き、自ら地方支店の開拓・展開を行わず大手MFIへの卸金融を主眼とする戦略で成長し、MFI大手のサタパナについてはその持ち分のほぼ100%取得し買収。現在はMJBとサタパナを経営統合させ、商業銀行とMFIを両輪とした金融機関化を図ろうとしている。

 三菱東京UFJフィナンシャルグループ(MUFG)は本年1月、傘下のアユタヤ銀行(タイ)を通じて、ハッタカクセカー(HK)の全株式を取得すると発表。HKは2015年末時点で融資残高約3.6億ドル(約400億円)。関係当局の承認が下りれば、業界5位となるMFIが邦銀メガバンク最大手UMFGの傘下に入ることになる。投資総額は百数十億円規模となる見込みだ。

 2011年10月から家電や携帯電話などの分割払い・無担保小口ローンを展開してきたイオン・マイクロファイナンスは、日系としては初めてカンボジアにおける専門銀行のライセンスを取得。事業開始から4年目となる2016年1月から専門銀行に昇格し、クレジットカード発行事業を本格的に展開する予定だ。

次々と参入するプレイヤー達

 他にも、日系の大手情報通信機器卸がその子会社を経由して100%保有するMFIは小口無担保融資で独自路線の事業を展開。日系不動産開発会社が大株主となっている新興MFIも開業後わずか2年強でイオン・マイクロファイナンスとほぼ同規模の融資残高に急成長している。

 リース機関でいうと、タイの上場バイクリース大手が2012年からカンボジアでもバイクリースを展開しているが、そのオーナーは日本人。大手では豊田通商が現地パートナーとの共同出資で豊田通商ファイナンスを設立、2014年にリースライセンスを取得し、自動車から建設機械に至る幅広いリース事業を展開。

 直近では、搾油用キャッサバ栽培事業で既にカンボジアに進出していた日系石油元売り大手の出光興産とクレジットカード大手クレディセゾンの共同出資会社である出光クレジットがMFIのライセンスを取得、本年から営業開始を予定。他にも関東を拠点とする専門商社・金融の大手複合事業会社が本年2月にMFIライセンスを取得している。

 そもそもカンボジア金融業界に一番乗りで参入した日系企業は、2008年に商業銀行を設立した先述のマルハンと、同年に3ヶ月遅れで日韓共同出資によるプノンペン商業銀行(PPCB)を設立した証券大手のSBIグループ。ともに強烈なリーダーシップを誇るトップによる判断で大型投資が決定、事業スタートに漕ぎ着けた。両案件ともに日本本社にとっては寝耳に水な投資決定だったと言われる。その後も大手以外では、トップ判断で数十億円規模の投資を動かせる日系豪腕オーナー企業による参入が相次いだ。2008年以降のカンボジア金融業界の裏舞台では、それら日系の猛者による市場席巻が繰り広げられていた事になる。先行参入したSBIグループは日韓共同出資でスタートしたPPCBをその後実質支配し、本年には別の韓国系金融グループへの事業売却に合意、創業後8年目にしてエグジットを達成している(なおNBCによる事業譲渡承認はまだ)。

新たなフェーズに移行する業界

 強気の大型リスクテイクが可能な日系豪腕オーナーしか参入できなかったカンボジア金融業界は現状、次のフェーズに移りつつある。豊田通商や出光などのいわゆる日本の大企業も相次いで進出を果たし、さらにラインセンス申請に動く日系も後を絶たない。

 典型的な日本型の堅実意思決定を行うプレイヤーが次々と参入してくる(参入できる)フェーズとはすなわち、その市場が混沌としたカオスから脱し一定のルールが整備され、大きなハイリスク・ハイリターンが見込めたフェーズが過ぎた、つまりある意味での踊り場を迎え始めた兆しともとれる。とはいえ筆者私見となるが、現状のカンボジアのマイクロファイナンス業界の成長推移、その潜在成長可能性と、未成熟であるがゆえの危うさのバランスを見る限り、この業界への日系進出・投資判断はかつて“NATO(No Action Talk Only)”と揶揄された日系の動きに比してかなり早く、そのプレゼンスも大きい。

 今後のカンボジアの経済成長にとって、マイクロファイナンスが健全に拡大しその裾野がより多くの分野に広がる事が有益だとすれば、そこに日系各社が堅実・健全な経営で取り組む事が、民間事業によるカンボジア経済への大きな貢献となる事は間違いない。表の機関名に“Japan”の文字はあまり出て来ずとも、投資主体・事業主体の双方で日系企業・投資家が大きく関与・貢献しているカンボジアのマイクロファイナンス業界。どのような成長推移を辿るのか、それを日系企業・投資家が日系ならではのスタイルで健全な方向へ主導していけるのか、今後の動向に注目したい。 

JCGroupは、カンボジアを拠点とする日系事業グループです。“Made by Japan&Cambodia”をテーマに、農業、金融、物流、IT、メディアなど幅広い分野で、“JC(Japan&Cambodia)”による共同事業を展開します。
http://jcgroup.asia/

  髙 虎男
Ko Honam

早稲田大学政経学部経済学科を卒業後、日本の大手監査法人、戦略コンサルティング兼ベンチャーキャピタル(一部上場企業 執行役員)を経て、2008年カンボジアにて日系事業グループ「JCグループ」を創業。日本公認会計士・米国ワシントン州公認会計士。


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