カンボジアに進出する日系企業のための
B2Bガイドブック WEB版

2017年12月8日
カンボジア進出ガイド

【法務・会計】

204 カンボジアの法律・税務・会計②(2017年11月発刊 ISSUE07より)

申告手続 Tax Declaration

 カンボジアの税務申告業務は近隣他国に比べて煩雑であるのが特徴だ。毎月、月次ベースでの税務申告書類の作成・提出が義務化されており、また年間の法人税額が確定する前段階で毎月納付すべき税金もある。ルールや手続が極めて煩雑である一方、制度自体が未整備なまま急な制度変更が実施される事も多々あり、進出企業を常時悩ますリスク要因の一つにもなっている。



 アイグローカルのブラタナ氏も、「カンボジアでは過去に遡って課税を受けるというケースがしばしば見受けられるため、今から適切に法令のアップデート及び適切な納税を行うことが将来のために重要であり、当社はこういった将来のリスクを軽減するため、現在から適切な納税支援を行っていきたいと思います」と話し、カンボジアならではの税務調査に備える必要性を訴えた。

 辻・本郷税理士法人の菊島氏は、「カンボジアにおける会計事務所の役割の一つとして、カンボジアでビジネスを行っていらっしゃる方々が本業に注力できるようお手伝いをすることだと思っています。現地責任者として当地に赴任される方は、本業については熟知されていらっしゃいますが、会計税務分野に関わった経験があまりないということが少なくありません。本業のビジネスに集中できるよう、会計税務分野を安心して任せられる存在でありたいと思います」と語る。

 カンボジアの税務の問題点については対応が難しい部分があり、正しい知識を持った専門家に意見を聞くことが大事になるだろう。

税務に絡む経営課題 Management Challenges Involved in Tax

 税務コスト負担の軽減につながるいくつかの租税緩和措置がはかられている一方、税務手続はますます厳格化していく環境は、特にコンプライアンス意識が高いと言われる日系進出企業にとっては様々な経営リスクの主要原因ともなる。

 SCSグローバルコンサルティングの宮田氏は、「日本企業が海外進出するにあたり、本社の経理財務部門の方が常駐することは滅多にありません。そのため会計税務の知見や素養のある日本人がいない中、資金繰りの繊細なスタートアップ期などにおいて自社で会計税務を試みるも、後々申告漏れや会計と税務の不一致、必要書類の紛失などといったトラブルが発覚し、結果的に追徴課税等でコストが余計に膨らむケースがしばしばあります。ここカンボジアにおいても法制度が頻繁にアップデートされ、それがビジネスリスクにもチャンスにもなりますが、いずれにしても常に専門性の高い知識が必要になります」と話す。

 税制厳格化の流れの中で、税務当局が目をつけてくる指摘ポイントも広範囲化してきており、常に注意が必要となる。辻・本郷税理士法人の菊島氏は、「最近ではアジア周辺国において、関連者間取引における移転価格が厳しくなってきています。今回カンボジアの法人税年次申告書において関連者間取引にかかる報告が追加されました。追加されたのは、取引内容、関連者である取引相手の名前、取引額ですが、申告書提出の際には関連者間取引に関して税務局員から簡単なヒアリングが行われた例もいくつか見受けられました。カンボジアでは関連者間取引については、税法において関連者間の定義が簡単に明記されている程度であり詳細なガイダンスは無く、現在は実態把握の段階かとは想像します。しかし、近い将来移転価格制度が導入されることを想定しながら、関連者間取引価格を検討することが望ましいといえると思います」と説明する。



 また、東京コンサルティングファームの澤柳氏は、「一部の企業様向けにカンボジアで管理会計に特化したセミナーを実施しています。セミナーの数を重ねるごとに、どんな会計や税務に関するお悩みがあるのかが見えてきました。最終的には、現地で活躍されている皆さんに数字に強くなってもらい、会計を「見る」から「使う」経営者になってほしいと思います」と語る。

 進出企業は、ますます厳格化していく税務による将来の経営リスクを専門家のアドバイスと共に予測しながら、常に先手を打つ形で対策を図る必要に迫られそうだ。

法務顧問会社の役割 The role of legal advisory firms

 ルール整備・改正は更に続きながらも、その運用状況にはいまだ難あり、という一筋縄ではいかない法律環境だ。

 長年の歴史を持つ法律コンサルの代表者は、実践的なアドバイスとして、「法律を順守すると決めた以上は、よくありがちな“政府関係の親族です”と言い寄ってくる仲介人などは相手にしないことです。問題に直面した時、彼らは安易な提案をしてくるでしょうが、万が一あなたがやるべきことを手順通りやっていないということが表面化した時、大きな代償を払うことになります」と語る。
 
 条文や判例を机上で講釈する専門家よりも、いかに実践的に顧客の法律・会計実務や諸問題と向き合い、解決に向けて共に動いてくれるか。資格や肩書きよりも、リアルな実務経験と協業スタイルがパートナー選びにあたっての重要なポイントとなるようだ。


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