カンボジアに進出する日系企業のための
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特別レポート(2015/4発刊2号より)
激化する和食店サバイバルinプノンペン食材流通が語る「生き残るための秘訣』1/2

おさまる気配をいっこうに見せない新規開店ラッシュが続くプノンペンでは、狭い街にもかかわらず、在住者が既存店の繁盛ぶりどころか新しく開店した店の存在すらタイムリーに捕捉できない状況にあるという。そこで今回は、それら飲食店と深く関わっている食材流通業者に話を聞き、生き残るための秘訣を聞いた。

飲食店のオープンラッシュ

カンボジアの首都プノンペンはいま空前の飲食店オープンラッシュに湧いている。フレンチ、イタリアン、中華料理、韓国料理はもちろん、スペイン料理、インド料理、地中海料理、ペルシャ料理にいたるまで多国籍なバラエティにも事欠かない。 料理の本場本国から乗り込んで来る店や料理人も多く見られ、単品メニューで見ると世界屈指の美食の街である日本の東京でもお目にかかれないようなクオリティの高い料理を楽しむ事もできる。

その中でもここ1、2年で大きく目立つのは、現地カンボジア人も驚くほどの和食店の急増だ。3、4年前であれば和食店を巡ろうと思っても数少ない選択肢をローテーションさせるしかなかったが、昨今は新規出店する和食店だけでも回り切れない程の勢いである。ラーメン店や焼肉店あたりは極めて狭い首都中心エリアだけでも一気に店舗数が増え、顧客ターゲット層となる人口対比で考えると今やプノンペン中心地はかなりの激戦区になっている。

和食店の数が少なかった数年前であれば在住日本人が同じ店に通う頻度も多く、在住者や飲食店経営者同士の噂話や雑談の中でどの店が繁盛しているのか等の状況をかなり正確に把握できたが、昨今それは極めて難しい状況になった。

仮にとある在住者個人がいかにグルメな外食通であったとしても、通える店の数や回数にはおのずと限界があるし、また本人の居住地域や趣向による偏りも回避できない。また和食店を経営する事業主や店長であっても、ほぼ毎日自分の店に立っているわけだから、他店の客の入り具合などは客もしくは同業者との雑談や噂から推し量る程度にならざるをえない。

そんな中、カンボジア和食店の動態を俯瞰的に把握している存在がいるとすれば、それはおそらく各和食店に食材を卸している流通業、つまり食材卸業者である。カンボジアに出店する和食店はほぼ例外なくカンボジア現地食材卸業者から何らかの商材を購入しており、それらの店の繁盛度合いと食材卸業者からそれらの店に流れる商材の流通量は極めて高い相関で正比例するはずである。急激な増殖を続けるカンボジア和食店のほぼ全ての実態をその商材流通量からかなり正確に把握しているのは、数にしてそう多くはない食材卸業者であるに違いない。

長い前振りとなったが、本稿では上記仮説に基づき、カンボジア現地食材卸業者の方々への取材を通して急激な増殖を続けるカンボジア(主に首都プノンペン)和食店の客観的な動態や実情を把握し、繁盛店から撤退店までの事例や事情から「これからカンボジアに飲食業で進出される日系事業者が知っておくべき要諦」に通じる示唆を導き出してみたいと思う。

和食材専門の流通業者

本稿執筆時現在、カンボジア首都プノンペンを拠点に営業展開する代表的な食材卸業者は、老舗食材卸業者であるキレイフーズやLSHに始まり、MIフーズ、そのMIフーズから分離独立したパシフィック、ウィンフーズ、アクルヒ、日本人経営のダイシントレーディング、後発ながら同じく日本人経営の新興系TWTの8社。この1、2年で業者数が一気に増加している。その中で、日本人営業担当者を置いているのはキレイフーズ、ダイシントレーディング、TWT(※)の3社のみ。現状この3社のどれとも取引がない和食店はほぼ皆無と言える。本稿ではこの3社の日本人営業担当者から各々、直接お話を聞かせて頂いた。

シンガポールで創業約30年の和食材卸業者を親会社に持つキレイフーズは、シンガポール人オーナーの親族会社がプノンペン和食店第1号をオープンさせたと同時にその専属食材サプライヤーとして同時進出。カンボジア事業歴10年を超えるカンボジア和食材卸業者の最古参老舗である。最古参であるだけに、取引先には老舗和食店が多い。日本人営業担当を置いたのは昨年からで、日本人経営の和食店との取引も増やしつつある。

カンボジア初の日本人経営による食材卸業者として2013年中頃に営業開始したダイシントレーディングは、現地では初めて日本人営業担当を配置した事と、日本人経営による和食店が一気に増え始めたタイミングと営業開始が合致した事から、急増する和食店を一気に顧客化する事に成功。常温食材、米、各種調味料などベースとして使用される食材の取扱いが強く、偏りなく幅広い和食店に食材を卸しながら和食店顧客数ではトップシェアを走る。
新興ながら勢いある日本人経営企業グループの関係会社としてスタートしたTWTは、2014年中頃の営業スタートと後発組ながら、冷凍食材から酒類までの幅広い品揃えと、日本人営業担当の若い馬力を武器に新規出店する和食店にしっかりと食い込んでシェアを伸ばしつつある。
最古参老舗のキレイフーズ、初の日本人経営での和食店顧客数トップを走るダイシントレーディング、後発組ながら急速にシェアを伸ばしつつあるTWT、と特色が奇麗に分かれた3社とも快く取材に応じて頂いた。彼らから伺った話から見えて来るカンボジア飲食店事情について、及ばずながらまとめてみたい。
※追記:TWTは2015年12月にS.E.A.T.S Inc.へ改称

カンボジアの和食店

まずカンボジアにいまどれくらい和食店舗数が存在するのか。
本稿執筆時現在、首都プノンペンに約190店舗。主要観光都市であるシェムリアップとシハヌークビルに各々15〜20店舗ほど。

ちなみに日本人在住者の数はというと、在カンボジア日本大使館に在留登録届を提出している日本人は2014年11月末現在で2,187人。主な内訳としては首都プノンペンに1,628人、世界文化遺産アンコールワットを擁する観光都市シェムリアップに324人である。実際は在留登録している人数の2倍はいるだろうと仮定すると、プノンペンに約3,200人、シェムリアップに約650人となる。

仮の数値による試算ではあるが、プノンペンには約16人あたり1店舗、シェムリアップには約32人あたり1店舗の和食店が存在するという計算になる。在住日本人の人数だけを基準に考えると明らかなオーバーストア状況のカンボジアで繁盛している和食店とは果たしてどんな店舗なのか。その食材・消耗品の流通量から見て取れるのは、断トツな流通量を誇る強豪店と、意外な老舗の安定感である。

強豪店は、近隣国(ベトナム等)で東南アジアマーケットの要諦・ノウハウを着実に積んで乗込んできたスシ店やヤキニク店。独自ルートで仕入れる主要食材のボリュームは見えなくとも、調味料や酒類の仕入量からもその圧倒的な存在感は浮き彫りとなる。一方、長く営業する老舗店舗も実は安定した顧客の入りを確保している。日本人が古くから経営する高級和食店から、日本人が食すると違和感を覚えるテイストの和食を提供する外国人経営店まで、各々の用途や国籍に応じた馴染みの常連顧客層をつかんでいるようだ。

顧客ターゲットを明確に捉えているかが分かる例で挙がるのは駐車・駐輪スペース。プノンペン在住者の主な移動手段は自動車やバイクだが、高級店の顧客となればランドクルーザー型の大型車が多くなるし、カジュアル店の顧客となるとバイクや自転車が多くなる。当然、富裕層顧客相手の高級店なら大型車駐車スペースが必要だし、カジュアル店であればバイク・自転車の駐輪スペースを相当台数分は用意すべき、となる。しかし中には高い客単価のわりには車で来るのが難しい店構えになっていたり、低単価なのに妙に広い駐車スペースがあって有効活用されていなかったりと、組み合わせがちぐはぐな店舗も少なくないという。

受け入れられる店作り

飲食に限らずサービス業で進出しようとする日本人事業者は、どうしても首都中心地かどうか等の立地条件を意識してしまうが、プノンペンやシェムリアップなどカンボジア主要都市はどこも面積が狭く、広告よりも口コミが効く市場なので、顧客に行きたいと思わせられれば車やバイクで大抵誘導できる。立地条件よりは、駐車場などの店構え要件の方が集客力との相関関係は高いようだ。

在住日本人ではないターゲットをリピート客として獲得できた店が、結果的に繁盛しているという事実は、そもそもの市場規模を簡単な数値で推算してみれば当然の結果である事はすぐわかる。(後編に続く)

JCGroupは、カンボジアを拠点とする日系事業グループです。“Made by Japan&Cambodia”をテーマに、農業、金融、物流、IT、メディアなど幅広い分野で、“JC(Japan&Cambodia)”による共同事業を展開します。
http://jcgroup.asia/

  髙 虎男
Ko Honam

早稲田大学政経学部経済学科を卒業後、日本の大手監査法人、戦略コンサルティング兼ベンチャーキャピタル(一部上場企業 執行役員)を経て、2008年カンボジアにて日系事業グループ「JCグループ」を創業。日本公認会計士・米国ワシントン州公認会計士。


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