2017年8月2日
――自己紹介をお願いします
ソムアート・ウォンコントーン(以下、ウォンコントーン) 私はたまたま日本政府の奨学金制度に受かり、国費留学生として1975年に東大の医学部を卒業、日本の医師免許を取得後ハーバードへ留学しました。その後東京に戻り、保健学博士号を再び東大で取得しました。その後、タイ・マヒドン大学の健康開発機関で所長兼教授を、東大医学部の教授を3年間ほど務めました。
早期退職後は、バンコク国際病院の院長、このロイヤルプノンペン病院ではCEO兼院長をしています。シェムリアップにあるロイヤルアンコール病院も私が面倒を見ていますし、タイにあと7つ、全部で9つの病院が私の管轄です。私は生まれも育ちもタイで、今もタイに滞在しています。
――カンボジアで医師をするには、日本の医師免許でもいいのですか
ウォンコントーン 日本など、普通はその国の国家試験を通る必要がありますが、カンボジアでは法制度上、出身国で医師免許を取得してこちらで登録すれば、試験が免除されることになっています。カンボジア人はカンボジアの医師免許を取る必要がありますが、外国人は書類など全て揃えて登録すれば大丈夫です。ですので、資格の面では外国人でもまだやりやすいと言えるでしょう。試験が免除される国は他にラオスとミャンマーくらいで、そう多くありません。インドネシアとシンガポールはまだ融通が利きますが、やはり制度が違います。タイの制度は厳しいですね。
――なぜタイからカンボジアへ進出したのですか
ウォンコントーン 人口も多く、非常にポテンシャルがあるからです。今はもう、1800万人近いでしょう。プノンペンだけでも200万人近くになります。また、良い病院がまだありません。カンボジアの社会も経済も伸びていますから、そうなれば自然と国民の皆さんが良い医療を求めるようになります。その面では需要がまだ大きいと言えます。
――この病院の施設などの特徴について教えてください
ウォンコントーン この病院は、日本でいえばいわゆる第三次総合病院にあたります。これが第一の特徴ですね。つまり、内科、心臓科、外科、小児科、産婦人科などの各科が揃い、脳外科や大きな手術が可能で、集中治療室もあります。日本の大病院のようにCTやMRI、透析など全ての設備があります。
もう一つは、国際的な医師チームが揃っていることです。ここはタイの病院ですからタイ人医師がリードしますが、それも30名近くおり、アメリカ人医師やカンボジア人医師もいます。
第三は、救急医療が最も完備されている点です。弊院では、必ずタイ人とカンボジア人の医師が毎日7日間24時間体制で医療サービスを提供しています。こちらでできることは全てやりますが、万が一手に負えない場合はすぐに飛行機に乗せ、タイでも日本でもどこへでも搬送します。航空医学もできるというのは、特徴でしょう。例えば時間がない中で心臓バイパスの手術が緊急で必要となると、うちの医師がバンコクや日本の病院と連絡し、目的の病院まで航空機で緊急搬送します。
――そういった場合のフライトの手配はどうされるのでしょうか
ウォンコントーン カンボジアの航空会社はありませんが、タイの航空会社など医療搬送にはいくつか決まった航空機があります。医療航空搬送専門の飛行機もあります。
――カンボジアの国立病院と比較した場合の貢献度についてどう思いますか
ウォンコントーン 公的セクターと民間セクターがお互いにそれぞれのミッションを持っていますから、比較できないし、比較する必要もないと思います。全部が国立病院でも困るし、逆に全部が私立病院でも困るわけです。国立病院には国立病院のミッションがあります。国立病院は国から援助で作られていて、大勢の国民に対して医療サービスを提供していかなければなりません。もしそれ以上の医療サービスを求める人がいたらどうするのか。私立病院で見てもらうにはやはりコストが高くなりますし、患者さんの負担になります。
互いにミッションが違って互いの欠点をカバーしあうというのは、カンボジアだけでなく日本でもどこでもそうですね。
――カンボジアの医療レベルや医師レベルについて教えてください
ウォンコントーン やはり、医療資源が限られています。例えば、病院の数、医師の数、看護師の数、薬の数、あるいは医療機械の数です。医学部のある大学の数も、今のところはカンボジア健康科学大学、あと2つ私立の医学部がある程度です。日本だったら80校近くありますよね。タイでも30校近くあると思います。この人口規模にしては少ないですね。医学部、看護学部の数からすれば、あまり思わしくない状況です。
――カンボジアではこれから先、どうすれば医療が発展していくのでしょうか
ウォンコントーン 医療は社会のひとつのセクションですから、社会全体とともに医療が発展していきます。世界どこでもそうです。医療教育、社会環境、政治、国民の教育レベル、こういったものが関係しあって徐々に向上していかなければ、医療が発展することはありません。
――カンボジア人で医学を志す人々の進路はどのようなものですか
ウォンコントーン こちらですでに有名な医師がフランスへ留学し、専門課程やフランス独自の技術を学んで帰って来ることが結構あります。これはキャリアを積んだ後の話で、初めはカンボジア国内で医学を学んだのち、国内の病院で働き始めることが多いです。
――外国人医師の需要・質・数などについて教えてください
ウォンコントーン 難しい問題です。こちらが必要だとしても、来たい人がいるかどうかでしょう。需要は非常にありますが、自分の国に残っても良い待遇を受けられるのに、わざわざ国外へ出る必要はありませんよね。ここで働いている外国人医師は例えばカンボジアが好きとか、例外なんです。だからまだ全体として少ないですが日本人の場合は幸いなことに、サンライズクリニックなどがあり、恵まれています。
(次回へ続く)