2018年2月21日
――貴クリニックの患者は、どういった病気や怪我での来院が多いのでしょうか?
奥澤 健(以下、奥澤) 圧倒的に多いのは、一般的な風邪ですね。日本人に関しては、食あたりに伴う腹痛・下痢も多いです。
怪我は、バイク乗車中に発生する事故によるものが多いです。車や他のバイクとの接触、スリップ、ひったくりに遭って引きずられるといったケースです。ひったくりは歩行中やトゥクトゥク乗車中にも発生しています。最悪の場合、肩鎖関節脱臼という鎖骨と肩甲骨の靭帯が完全に切れてしまう方もいます。またひったくりに遭うと、骨折まで深刻化してしまう方もいます。
当病院の場合、患者の多くが日本人ですが、ひったくりの被害は確実に増えていると言えるでしょう。
――カンボジアにおいて外国人に顕著となっている病気を教えてください。
奥澤 糖尿病が最も多いです。また、高血圧、中性脂肪やコレステロール値が上昇する脂質異常症も顕著となっています。
カンボジアで体重が増加したという日本人を多く見ますが、その原因は主にカンボジアでの食生活にあると考えられます。カンボジア人の食生活は、おかずが少ないのにも関わらず白米を異常に多く摂取する傾向があり、おかずと白米の割合が日本とは異なります。肥満、糖尿病、高血圧の主な原因は白米などの炭水化物であり、カンボジア人同様の食生活を送る中でこういった病気にかかりやすくなっているのだと思います。
また、カンボジアの飲み物には、日本よりも多くの糖分が含まれています。牛乳でさえも砂糖入りのものが売られているのを見ますね。
数年前に比べ肥満気味のカンボジア人も増えており、お菓子や飲料水に含まれている糖分が原因となり、子供の肥満も増えています。かつてはカンボジアに無かったものが入ってきたということでポジティブな側面も持ちますが、健康被害をもたらしています。
――病気や怪我にかからないために、最低限すべきことは何でしょうか?
奥澤 1年以上の長期滞在の場合は、予防接種をお勧めします。当院としては、A型肝炎、B型肝炎、破傷風、狂犬病、日本脳炎、腸チフスを推奨しています。A型B型肝炎は混合型のワクチンもありますし、2回目以降の予防接種をカンボジアで受けることも可能です。
隣国タイでは、狂犬病で死亡する人が非常に多いですが、カンボジアでは狂犬病よりも破傷風を発症するほうが多いと思います。しかしこれは、カンボジアでは単に統計が無いだけ、また死因について明らかにしていないだけとも考えられます。
――カンボジアにおけるマラリアやデング熱の感染状況はいかがでしょうか?
奥澤 実はマラリアは地方に多く、デング熱はプノンペン、シェムリアップ、シアヌークビルといった都市部で多く発生しています。
デング熱ウイルスは4種類あるので、一生に4回デング熱にかかる可能性があります。カンボジア人は皆、子供の時に4回かかるのでしょう。大人になったときにはすでに免疫ができていて、発症しないものと思われます。ですので、カンボジアではデング熱は『子供の病気』と思われています。デング熱による死亡は抵抗力のない子供が多いです。
ちなみに、デング熱のワクチンは臨床試験まで済んでいるのですが、まだ市場には出てきておりません。
――カンボジア人、そしてカンボジア人医師における知識が低いように感じられますが、カンボジアで医師になるにはどういった資格が必要なのでしょうか?また、カンボジア人医師と医療に対する認識のズレを感じたことはありますか。
奥澤 まず、カンボジアは日本のように医師国家試験がなく、医学部を卒業すれば医師資格が得られます。また、カンボジア人医師との認識のズレはよくあります。
例えば、結核の検査で「QFT」という血液検査がありますが、存在自体知らない医療関係者もいます。また、糖尿病と診断を受けた患者で、日本では必須のHbA1cという血液検査が実施されていないことがありました。検査自体はカンボジアにも存在しており、彼らも検査できるはずなのですが、しっかりと認識できていないためにこうしたケースが発生するのだと思います。
――そういったカンボジア人医師の知識やレベルは、今後良くなっていくのでしょうか?
奥澤 益々海外から情報が入ってきますし、今後良くなっていくと思われます。また、カンボジア人の優れた医師は海外での医療経験を積んだ人がほとんどです。海外での経験は、この国の医療に重要だと思います。
今年2017年4月、日本の国際医療福祉大学が、千葉県成田市に医学部を設立しました。そこでは1期生として学生140名中が在籍し、うち20名が海外からの留学生となっています。その中でカンボジア人が2名在籍しています。彼らは日本で6年間勉強し、日本の国家試験を日本語で受験することになります。日本の医療を学んだ後はカンボジアの医療関係者に対し教育を行っていくのだろうと予想できますし、カンボジアの医療界にも貢献していくと期待されます。(取材日:2017年8月)