(前編からの続き)
――その他にも会社がやるべきことはありますでしょうか。
ソー・キナール(以下、ソー) 週次や月次での残業について、法律では必要に応じて労働省に申請することとなっています。例えば、就業時間が朝9時から夕方6時までだとして、1、2週間残業させたい場合、事前の申請が必要です。これは法律上定められていて、残業がない場合でも申請をします。残業は法律上1日2時間のみ認められていますが、実際は2時間以上している会社もあり、これが問題にならないのは、雇用者側も残業手当がつくためです。
ちなみに、残業手当は150%、深夜手当は250%です。ただ、会社が雇用者に残業させるのではなく、雇用者が仕事を終えられなくて自身で残業をした場合は通常問題になりません。多くの会社では、雇用主と従業員の関係が近いことが理由ですね。
――法律のことはわかりましたが、実際も法律どおり実行されているのでしょうか。
ソー 従業員数の申告などは法律上しなくてはいけませんが、実際その通りに運行されていません。ある会社はやって、ある会社はやらないということが起きます。法律は万人によって遵守されなくてはいけませんが、そもそも法律には詳細が決められておらず、異なる解釈により役人によって言うことが違うのです。
簡単な例を挙げれば、ある会社がやっていることは間違ってはいないが法律に基づくと間違っているということがあります。意味がわからないかもしれませんが、これはカンボジアでは法律が全てではなく、役人などの権力のある者がまだ強いという慣習が残っているからです。しかし、ある日さらに権力のある役人が現れたときは、問題が起きることがあります。
カンボジアに投資しようとしている企業に対して、推奨したいのは、きちんとしたコンサルティング会社を見つけてアドバイスしてもらうことですね。そうしないと、カンボジア労働法について間違った理解をすることになるので気をつけたほうがいいです。私たちは、実際には何が優良な選択であるかをわかっている役人と懇意にしています。
――カンボジアで事業をスタートしようとする日本企業に対して留意する点はありますか。
ソー カンボジアでは、総人口の70%が労働人口にあたります。つまり、労働市場には900万人以上の労働者がいるということになるわけですが、課題としては彼らにはスキルなどがないため職業訓練が必要となります。私が知っている調査結果を元にすると、労働人口の4%の人材しか大学を卒業していない。その人々の多くはマーケティング、販売、マネジメントなどについてしか勉強していないんです。スキルワーカーがいないんです。3%しか資格のある人材がいないのが課題です。彼らを訓練し、資格を習得させたりする必要があります。
また、カンボジアでは離職率がとても高い。日本の企業は私の知っている限りでは、高い報酬で終身雇用する傾向があると思いますが、カンボジアは全然違うことを理解しておいた方がよいです。さらに、カンボジアでは他のASEAN諸国の労働力と比べ、生産性は高くないということも理解しておくべきでしょう。
それでも私は日本企業にカンボジア進出を勧めます。なぜなら、カンボジアは若い人が多いですし、陸路で他のASEAN諸国にアクセスできる。海も開かれているため物流的にも恵まれているし、天候もよく、自然災害も少ない。カンボジア人は友好的で親切ですから一緒に働きやすいでしょう。
カンボジアでは、原料資材については輸入に頼っていますので、是非これをチャンスと捉え、カンボジアにサプライヤー工場をつくってほしいですね。(取材日/2014年7月)