(2018/11発刊9号より)
ケーマクリニック産婦人科の助産師として働き、今年で3年目。チャンノエウンさんの1日の始まりは、5時半。忙しい時は12時間以上働き、夜勤もある。そんな彼女に、なぜ助産師になったのか、どのように仕事に向き合っているのかを聞いた。
「元々子供たちの面倒を見ることが好きだったんです」と終始、優しい口調で語りかけてくれたチャンノエウンさん。その影響もあって、子供が産まれる瞬間に立ち会える助産師は、幼い頃からの夢だった。
助産師になるため、シアヌークビルにあるライフ(LIFE)大学の看護学科へ進学。4年間の勉強を経て、助産師の資格を取得。カンボジアの医療の現状など、様々なことを学ぶ中、彼女は、カンボジアの医療に貢献したいという使命感が出てきたという。「カンボジアは共働きの家庭が多く、お金や時間の問題で病院に行けないが故に、自分の体や体調のケアを疎かにしてしまう人も多いです」。
カンボジアは助産師の数が少ない。数少ない助産師として、自分が学んできた知識をたくさんの人々に伝えていきたい。そして、たくさんの人々の笑顔を見たい。
「患者さんにより良い環境を提供しようと、自分のことはつい忘れがちになってしまって」と微笑みながら語る。女性のため、子供のために一生懸命になる。日勤・夜勤の2シフト制で、基本は12時間労働だが、忙しいときは12時間以上働くことも多々ある。「休日は月に10日間ですが、2・3日仕事が入ることもあります」。
休日は、基本的に家でゆっくり過ごし、たまにショッピングに出かける。仕事上、家族と過ごす時間があまりない。休日は、家族と一緒に過ごせる大切な時間だ。
カンボジアの平均年齢は、約24歳。人口も年々伸び続けているこの国では、産婦人科は大きな役割を担っている。最近は、患者さんも増えて、1日70~80人来るという。患者さんが多く、医療現場の人手が足りていないのが現状だ。
しかし、彼女にとってケーマクリニックは、非常に医療水準の高い病院で、環境的にも恵まれているという。ここでは出産時のほとんどのケアを助産師が行う。それだけ、助産師は、欠かせない存在だ。一方で、カンボジアは病院によっては、助産師が思うように現場に立ち会えないことも多いという。助産師の間での知識レベルも大きく差がある。そのため、この恵まれた環境で、助産師として仕事ができることは、大きなやりがいだ。自分自身の体調管理が、日々忘れがちになってしまう。そこは、日々気をつけているところだ。お腹に赤ちゃんがいる今、その思いは一層強い。
チャンノエウンさんにカンボジアの産婦人科の問題点を聞くと、「知識不足です」という答えが返ってきた。カンボジアの女性、特に地方の女性は、病院に行こうとしない。病院に行く必要がないと思っているからだ。また、シャイな性格もあって、病院に行くことをためらう人も多いという。
「検査をしないが故に気付かないうちに病気になったり、痛みが出たときにはもう手遅れのことがあります。なぜ検査を受ける必要があるか、知らない人が多いことは問題です」。
今まで学んできたこと、そしてケーマで得た妊娠・出産に関するグローバルスタンダードな知識を多くの人々に伝えていく。カンボジアの助産師の数は、まだまだ少ない。カンボジアの医療の現状を思う、助産師としての当事者意識は非常に強い。
チャンノエウンさんは、今の職場のサービス、環境、同僚、非常に満足している。だが、激務な上に、責任感も大きく伴う仕事だ。家族と過ごせる時間もあまり多くない。だが、彼女には、この仕事で一番幸せな瞬間があるという。「子供が生まれた瞬間の、お父さんお母さんの笑顔を見たときですね。赤ちゃんも含めて誰かの笑顔を見ていると幸せになります」子供が産まれた瞬間、みんなの笑顔を見たとき、大きなエネルギーをもらう。だから、この仕事は辛いことがあっても大好きだ。
チャンノエウンさんに日本のイメージを聞いてみた。「とにかく技術力が素晴らしいと思います。家では、日本製の電化製品を使っています。また、カンボジアの橋、学校、建物には日本人により作られたものも多く長持ちしています。発展途上のカンボジアを支えて貰い、感謝しています。また、病院にいらっしゃる日本人患者さんたちもいつもフレンドリーで優しいんですよ」と嬉しそうに語りかけてくれた。
現在、大好きな家族4人と共に暮らすチャンノエウンさん。夜勤がないときは、8時ごろ帰宅し、家族みんなの夕食の準備をする。休む間もないが、家族と一緒にいられることが本当に楽しいという。
そんな彼女は、現在妊娠中。来春、お子さんが出産予定だ。今も、日勤を中心に仕事はやり続けている。笑顔を見られる大好きな出産の現場。来年は、自分自身がその時を迎える。最後にチャンノエウンさんに将来の夢を聞いた。「将来的には家族と共に小さな療養所を持ちたいです」。
ケーマクリニックで働き、3年目。これからしばらくは、ここで働くつもりだ。ただ、将来は、自分自身で療養所を持ち、女性たちに妊娠後や出産後のケアを教えていきたい。
「療養所は、ヨガなども行えるような場所が理想です」。
女性が居心地の良い環境を作りたいという思いが伝わってくる。まずは目の前の仕事を一生懸命に。これからもチャンノエウンさんは、助産師として使命感を持ち、カンボジアの医療に貢献していく。
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