高層ビルや高級コンドミニアムが次々と建設され大手小売や飲食チェーンの進出も相次ぐなど、カンボジアの高度経済成長を象徴する首都プノンペンはその要望も一変した。一方、首都近郊から少し離れればすぐに見渡す限りの田園風景が今も広がっている。首都の眺めの急激な変化とは対照的に、どこまでも続く昔ながらの原風景だが、そこでの農業の営みには大きな変革が起き始めている。首都経済からは見えてこないカンボジア農業変革の潮流を追う。
当社は自らコメ直接生産する大規模稲作事業を経て、現地農家を側面から「農協」的に支えるサービス事業へシフトし、そのサービス内容は必然的に現地農家の農業手段・手法の変化に沿う流れとなった。
このトラクター・コンバインを主軸とした農機向けファイナンスは、当社が現在展開している「カンボジア版日本型農協事業」において「農協型ファイナンス」を提供する中核金融機関「JC Finance Plc.」の主要事業となっており、当社からファイナンスを得て農機を取得した農家の収穫収入・請負収入の向上は、当社が日々顧客農家とコンタクトする中でその手応えを如実に実感できている状況にある。
カンボジアはいわゆる農業国でありその主要穀物がコメであるという点で、近代工業化が大きく進む以前の日本に似ている点が多々ある。子々孫々農地に寄り添って生活を営む農家であるがゆえの農村における隣近所との付き合い方や習慣、しきたりなど、日本人にとっては馴染みがあり理解しやすい部分ではなかろうか。
それら生活風習的な部分だけではなく、農業を事業セクターとして眺めた場合にその業界構造・事業構造面でも極めて類似している部分がある。
当時の日本でもカンボジアでも、農業事業体が大規模資本を背景に集約・メジャー化することなく、多数の小規模・零細農家がその規模のまま全国に多数分布していった特殊な事情がある。日本では終戦後、農地改革と呼ばれた大規模地主解体政策により、小規模な農地を所有する自作農家が大量に生まれた。
続いて制定された農地法により小規模農家が多数散在する農業構造が固定化し、その後長く農業事業体の集約化・大規模化が阻害される日本特有の背景が出来上がる。
自身の農地は所有しているが小規模零細であるがゆえに厳しい農業経営を余儀なくされた日本農家にとって大きな生活の支えになったのが当時の「農協(農業協同組合)」であった。
零細農家が安心して農業に専念できるよう、農作物の集荷・購買から販売、資材の共同購入や共同利用施設の設置まで支援する「経済事業」と、農業生産資金・生活資金の貸付や預貯金の受け入れなどの「信用事業」を両輪とした「農協」の存在により、日本の農業セクターは戦後大きく成長する。IT技術の発展に伴い生産者が消費者と直接コンタクトする事が当たり前になった昨今、その存在意義自体が疑問視されて久しい「農協」は、戦後当時の日本農業成長の根幹を支えた極めて重要な存在であった。
一方のカンボジアも、小規模零細な稲作農家が全国に多数散在している点で、当時の日本と類似している。
長く続いた内戦・政権分裂状態からUNTAC国連統治時代を経て今、大規模資本の事業体が育つ環境になかったことも実情であろうが、ポルポト政権自体の強制的な共同耕作に対する歴史的な嫌悪感から組織化された農民の組合や集団が形成されなかったという説もある。
事実、日本語に訳せば「農協」となる「AC (Agricultural Cooperative)」という組織は存在するが、日本の「農協」のような大規模組織ではなく、全国に800以上もある登録型公益団体であり諸外国からの農業系ODAからの補助金等の受け皿になる程度の機能にとどまっているのが現状と言える。
経済規模の違いはあれ、農地改革後の戦後日本と極めて類似したカンボジア農業構造に、戦後当時の日本の独自環境から生まれたユニークかつ大規模な「古き良き農協」機能 がビルトインされれば、カンボジア農業セクターに大きな貢献ができるのではないか。当社は自ら「カンボジア版日本型農協モデル」を事業展開しながらその仮説を鋭意検証中である。
現代経営学の父と称された故P.Fドラッガー はその名著「マネジメント」の中で、近代を代表する社会的革新(イノベーション)の一つとして農機の割賦販売を挙げている。未来の投資果実を現在の生産増加手段のための支払に充てられる割賦信用の発明により19世紀アメリカの農民達は収穫の前に農機具を手にする事ができ、その生産性は飛躍的に向上した。
当社が展開する「カンボジア版日本型農協事業」の最初の柱がトラクター・コンバインを主軸とした農機割賦販売(農機販売+農機ローン)となったのは、カンボジアでまさに始まった農業イノベーションの必然的な流れと考えている。
当社は引き続き、戦後日本の農業成長を支えた“古き良き農協“が果たした役割・機能を参考とし、カンボジア現地農家向けサービスをより幅広く拡充・展開していく。当社のこの取組がカンボジア農業セクターのより高度な産業化に微力ながらも貢献できれば幸いである。
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