カンボジア経済は米国経済の減速の影響を受けるだけでなく、ドナルド・トランプ大統領の貿易政策による報復関税の対象となる可能性が高いと、BMI(Fitch Solutions傘下)の国別リスク分析が指摘している。
2025年のカンボジアの実質GDP成長率は5.9%と予測され、2024年の5.7%から上昇するものの、従来予測の6.1%や政府の見込み6.3%を下回る見通しである。
繊維・履物・旅行用品(GTF)の輸出は引き続き成長の主要要因となるが、建設業の不振が足を引っ張るとみられる。
BMIの分析によれば、カンボジアは輸出依存型経済であり、外部ショックに弱い。特に、トランプ再選による米国の保護主義的政策が新興国の輸出業者に打撃を与え、カンボジアはメキシコ、ベトナムに次ぐ影響を受ける可能性がある。新たな関税の詳細は不明だが、製造業や工業製品が対象になる可能性が高い。
カンボジアも「Made in Vietnam」の轍を踏む可能性
2019年に米国はベトナム経由の中国製品の原産地偽装を問題視し、鉄鋼・アルミ製品には最大456%の制裁関税を適用した。
この時、中国企業はベトナムで工場を設立し、軽微な加工を施して「Made in Vietnam」として米国に輸出する手法を使っていた。
カンボジアでは2018~2019年にかけてSEZ(経済特区)の新設・拡張が活発化しており、同様の構造が発生している可能性がある。
実際、2019年にはカンボジア税関当局が「Made in Cambodia」ラベルを用いた不正輸出を摘発した事例があり、これはベトナムと同じ手法がカンボジアでも使われていたことを示唆している。
カンボジアの最大貿易相手国である米国の輸入ペースの鈍化により、2025年の輸出業全体の成長は厳しくなると見込まれる。また、観光業も回復傾向にはあるが、中国人観光客の減少や低消費のASEAN観光客の増加により、観光収入の回復は限定的である。特にアンコール遺跡の入場料収入は前年比31.4%増加したが、パンデミック前の水準には及ばない。
さらに、建設・不動産セクターの低迷が消費回復を遅らせている。2024年1~8月の不動産開発許可額は前年比29.1%減の33億ドルで、特に住宅部門への投資が落ち込んでいる。ただし、官民連携(PPP)による大型インフラ投資(17億ドル規模の運河建設など)が2025年の建設業を一定程度下支えするとみられる。
カンボジアのFTA未締結リスク
カンボジアがベトナムと「同じ轍を踏む」場合、より深刻な影響を受ける可能性がある。
ベトナムは米国とのFTAやCPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の一部を活用できたため、米国との交渉余地があったが、カンボジアはFTAを持たないため、制裁関税を回避する手段が限られている。
そのため、米国がカンボジアに対して新たな関税措置を導入すれば、ベトナム以上に大きな打撃を受けるリスクがある。
経済学者ダリン・ダッチ(Darin Duch)は、トランプ前政権下でもカンボジアの輸出業は堅調だったことを指摘し、米国企業にとってもカンボジアの低コスト製造業は魅力的であり、ハイテク・農業分野での輸出拡大の可能性があると楽観的な見解を示した。
しかし、現在の状況は2019年とは異なり、米国の監視が強化されていることから、以前のように関税の影響を回避できる保証はない。