【法務・会計】
税務コスト負担の軽減につながるいくつかの租税緩和措置がはかられている一方、税務手続はますます厳格化していく環境は、特にコンプライアンス意識が高いと言われる日系進出企業にとっては様々な経営リスクの主要原因ともなる。
従来あった税法で、重要視されていなかったものの徴税が強化される傾向にある。カンボジア初の日系会計事務所であるアイグローカルのマック・ブラタナ氏は、「2011年から適用開始となった固定資産税は、個人も対象になるということから、税務局の思った通りに徴税が進まず、毎年納税しなければ罰金を科すといったアナウンスを行っています。また、企業のロゴや看板に対して課される印紙税に関しても、2018年から徴税を強化し、課税対象外であっても申告は義務付けるなど、管理を強化する傾向にあります」と語る。将来的に遡って罰金といったことが無いように、会計事務所を通じるなどして常に情報更新を行うことが重要だ。
経済財政省は2017年10月、関連者間取引によってカンボジアで本来収めるべき税金を意図的に少なく調整することを防ぐため、移転価格に関する規制を通達した。それまでは関連当事者間取引について税務当局に再評価を行う権限を与えるという規定のみだったが、国際税務の潮流に則りカンボジアにおいても移転価格の概念が正式に導入されている。
労働職業訓練省は全ての業種に対し、2019年1月から給与を月2回支給し、年功手当を毎年6月と12月に支給することを義務付けた。省令では、これまで無期契約の従業員の退職時に支払われていた解雇補償金に代わり、1年に2回(6月、12月)7.5日分ずつ、年間合計15日分の給与に相当する年功手当を支払うことが明記されている。なお、特例として縫製・製靴業を営む企業は、2019年以前から働いている従業員に対して、年間30日分の給与に相当する年功手当の支払いが義務付けられたが、過去の勤務期間も支給対象になるため、過去分の年功手当の一括払いを要求する労働者側が企業へ要求し、ストライキに発展するケースもあった。
また、政府は今年3月、縫製業を除く労働者に対する年功手当の支給期限を2021年12月まで延期を決定したほか、2018年以前及び2019年以降の年功手当は、支払い時に損金算入が認めらた。このような動きに早急に対応するため、リアルタイムな状況の変化を知る必要あるほか、今後施行の可能性がある年金制度や社会保障制度の拡充にも対応できる体制を整えるべきだろう。
2016年後半から税務調査等を行う税務当局員の人員が人数およびその知見・経験値において更に増強され、更に従来まで不透明もしくは過度に負担が重かった税務についていくつかの緩和措置が図られた最近は税務局員側も経験値が増えており、細かい内容の指摘が増えている。折衝において専門知識や経験値が益々必要になっていることから、今後は更に高い専門性を持った折衝力のある会計事務所が求められる。
また、注目している新たな動きとして、アイグローカルのドゥク・ダリン氏は、「カンボジア法人の代表者もしくは本社からの長期出張者等がカンボジア法人にて勤務し、給与・報酬を受領しない場合であっても、税務調査の際に給与・報酬額を推定し、給与税が課税される事例が直近の税務調査で多発しています。税法上、代表者・出張者に対して給与等を支給しなければならないとの規定はありませんが、税務調査での当該指摘はトレンドとなっています。そのため、カンボジアでの給与額を設定する、或いは出張手当等を設定し、給与税を納税することをお勧めいたします」とアドバイスする。