【法務・会計】
税務調査や租税債務の管理強化、追徴課税等の担当者へのインセンティブ支払制度等の施策を通して各年度財政法にて設定された予算に基づき、政府は徴税体制を強化している。更に主たる施策として、税務登録義務があるにも関わらず登録を怠っている事業者への登録促進、新システム・全納税者の再登録手続の運用強化・電子登録申請制度などのICT化の推進などを進めている。
カンボジアは急速な経済成長と安定した政治情勢を反映して、通関や消費税の増加をもたらしている。関税消費税総局(GDCE)の収入は今年上半期で27.8%増加した。増加要因は、自動車輸入(40.5%増)、エネルギー・石油(10.5%増)、建設資材(26.6%増)による関税引き上げの結果によるものだ。
また租税総局(GDT)は16日、2018年最初の9か月間に16億ドル以上の税収を集め、前年同期から2億5200万ドル増加したと発表した。GDTは同年10月、今後4年間の新たな戦略として、公正な競争を強化しながら、持続的に税収を引き上げることで19%の歳入増加を目指すと発表した。
様々な税制優遇措置を行う動きもある。カンボジアでは、税務登録を推進するべく、2017年2月に、2018年末までに経済財政省に税務登録した中小企業に対しては2年間の法人税免除が行われるという閣僚会議令が発令された。さらに、カンボジア人の雇用創出を目的に、カンボジアの特定産業の中小企業に対して税制優遇措置を行う閣僚会議令が2018年10月に公布された。対象は、農業、食品生産加工、手工芸品の製造、廃棄物処理、IT研究開発としており、会社登録日から3年間所得税の免除を受け、さらに特定の条件に該当すれば5年間に延長される。なお、小規模企業は年間売上高6万2500ドル~17万5000ドルで、従業員数が10~50人と定義しており、また中規模企業は年間売上高が17万5000~100万ドル、従業員数が51~100人と定義されている。
また、低所得層と中所得層のための手頃な住宅政策の一環として、政府は税額控除を含む約束のもと、低コスト住宅プロジェクトの提案を開発者に提出するよう求めている。経済財政省は2018年6月、低コスト住宅プロジェクトの開発者へのインセンティブには、建設許可証、事業許可証などの必要書類の取得、また税制や官僚手続きの円滑化が含まれるほか、所得税、固定資産税、付加価値税(VAT)において優遇を設けるとしている。
ルール整備・改正は更に続きながらも、その運用状況にはいまだ難あり、という一筋縄ではいかない法律環境だ。条文や判例を机上で講釈する専門家よりも、いかに実践的に顧客の法律・会計実務や諸問題と向き合い、解決に向けて共に動いてくれるか。資格や肩書きよりも、リアルな実務経験と協業スタイルがパートナー選びにあたっての重要なポイントとなるようだ。
また、従来あった税法で、重要視されていなかったものの徴税が強化される傾向にある。カンボジア初の日系会計事務所であるアイグローカルのマック・ブラタナ氏は、「2011年から適用開始となった固定資産税は、個人も対象になるということから、税務局の思った通りに徴税が進まず、毎年納税しなければ罰金を科すといったアナウンスを行っています。また、企業のロゴや看板に対して課される印紙税に関しても、今年から徴税を強化し、課税対象外であっても申告は義務付けるなど、管理を強化する傾向にあります」と語る。将来的に遡って罰金といったことが無いように、会計事務所を通じるなどして常に情報更新を行うことが重要だ。
カンボジア税務の特徴として、税制度の大枠の整備はされているものの、細則の整備が遅れており、税解釈が多岐にわたることが多いことから納税に対する予見が困難であることが挙げられる。契約書や請求書等の関連証憑の整備や当局への論理的な説明を怠ると思わぬところで追徴税等の税コストがかかる可能性がある。
カンボジア進出検討段階から設立後までの会計・税務業務などをワンストップでサービスする東京コンサルティングファームの西山翔太郎氏は、「カンボジアへの進出において、カンボジアのリアルタイムな状況の変化を知っている必要があります。近年では、縫製業、被服業及び製靴業に従事する労働者における最低賃金が年々増加してきております。また、中国系企業の進出が盛んとなっており、今後、より経済面において制度が取り締められていくことが予想されます」と語る。
経済財政省は2017年10月、関連者間取引によってカンボジアで本来収めるべき税金を意図的に少なく調整することを防ぐため、移転価格に関する規制を通達した。それまでは関連当事者間取引について税務当局に再評価を行う権限を与えるという規定のみだったが、国際税務の潮流に則りカンボジアにおいても移転価格の概念が正式に導入されている。
日本人会計士が常駐しリーズナブルな価格でサービスを提供しているSCSグローバルコンサルティング(以下、SCS)の宮田智広氏は、「これに関連して2018年8月、関連当事者間のローン契約については第三者とのローン契約と同様の利率設定を行う必要があり、当該利率の決定について移転価格文書を作成して保管する必要がある旨のインストラクションが発表されました。これまでは、2014年に発出された通達により、関連当事者間のローン契約については0%の利率の設定が可能となっていましたが、今後は利率の設定、早期返済、資本金への転換などの方策を検討する企業も出てくると認識しています」と語る。